日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT42] 地球化学の最前線

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.17 (Zoom会場17)

コンビーナ:飯塚 毅(東京大学)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、座長:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

11:45 〜 12:00

[MTT42-10] 定量的バランス計算のためのガンマ分布による元素組成モデル化手法

*榎本 三四郎1,2、上木 賢太3、飯塚 毅4、竹内 希5、田中 明子6、渡辺 寛子7、原口 悟5 (1.東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構、2.ワシントン大学、3.海洋研究開発機構、4.東京大学、5.東京大学地震研究所、6.産業技術総合研究所、7.東北大学ニュートリノ科学研究センター)

キーワード:組成推定、大陸地殻、ニュートリノ

個々の岩石標本はその組成に大きなばらつきを示すが,その岩石種の平均組成を推定することは,岩石から構成される地殻やマントル,さらには地球全体の構造やダイナミクスを理解する上での基本となることである.この過程において,各岩石種の組成モデルは地殻組成へと存在量に応じて積算され,また,例えばマントル組成は BSE 組成と地殻組成の差からモデル化されたりする.これらの計算は元素存在量が保存することを前提としたバランス計算であるが,この前提が成立するためには,推定量の合計が加減算において変化しないことが必要である.平均組成はこの条件を満たすが,例えば中央値(メジアン)を平均値の代わりに使った場合は,この条件が満たされず,得られる結果は誤ったものとなる.

個別岩石標本組成からの岩種組成推定については,過去,目的に応じて様々な手法が用いられてきた.単純な統計平均をとるもの,検出限界や外れ値除去のためにメジアンを使うもの,分布の裾を取り除いた上で平均値を計算するもの,あるいは組成分布は対数正規分布に従うという仮定の下でモデル平均を推定するもの,等.しかしながら,これらのいずれも,バランス計算に使える推定値とはならず,したがってそれを使ったバランス計算は誤った結論となる.

我々は,平均値をバイアスしない組成分布モデルを数学的に導出し,ガンマ分布モデルを得た.また,数学的モデルを現実の岩石標本に当てはめる際の諸問題,検出限界や外れ値などを検討し,それらの影響を除去する方法を開発した.さらに,この手法を日本の岩石組成データベースにある実際の組成分布に適用し,この手法が実際に平均値を保存していることを確認した.

この手法は,地球ニュートリノのフラックス量を計算することを目的に開発されたが,バランス計算に使える地球化学推定値を得ることは地球全体の元素分配や熱収支計算など様々な場面で重要になるもので,広い応用が期待される.