日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT42] 地球化学の最前線

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.20

コンビーナ:飯塚 毅(東京大学)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)

17:15 〜 18:30

[MTT42-P01] 初期太陽系年代学および核宇宙年代学への適用を目指した高精度La同位体分析法の開発

*鈴木 充1、飯塚 毅1、山本 康太1、平田 岳史1 (1.東京大学)


キーワード:La、超新星爆発、初期太陽系、マルチコレクター型ICP質量分析計

太陽系を構成する元素は、太陽系形成前までの恒星の進化に伴い合成されたものである。これまで、原始太陽系星雲において異なる星に起源をもつ核種はよく混合されたために、太陽系物質は同位体的に均質であると考えられてきた。ところが、近年の隕石の高精度同位体分析により、原始太陽系星雲が同位体的に不均質であったことが明らかになりはじめた。Laには天然に2種類の同位体(138La、139La)が存在する。このうち138Laは、超新星爆発のO/Ne層におけるν過程で、92Nbや98Tcと共に合成されることが理論計算から予測されている。92Nbは半減期3700万年で92Zrに壊変する消滅核種であり、初期太陽系年代学における惑星分化の研究に重要な年代計の一つである。しかしながら、近年、初期太陽系における92Nbの不均質分布が発見された(Hibiya et al., in review)ため、不均質分布を考慮した92Nb年代計の較正が求められている。現在、92Nbは消滅しているが、長寿命放射性核種である138La(半減期1000億年)を用いれば、初期太陽系における不均質分布の程度を定量的に調べることが可能となる。さらに、将来的に98Tc(半減期420万年)の娘核種である98Ruの高精度分析が進展すれば、138Laと組み合わせることにより、太陽系にこれらの核種をもたらした超新星爆発が、いつ、どのくらいの距離で起きたのかを精度よく求めることができるようになる。そのため、初期太陽系物質におけるLa同位体の分析は、初期太陽系年代学ならびに核宇宙年代学に有用なツールとなり得る重要なものである。

これまでの初期太陽系物質のLa同位体測定は、表面電離型質量分析計(TIMS)による、コンドライト中の難揮発性包有物(CAI)分析や一部のコンドライト全岩分析に限られる。CAIにおいては最大60±16ε(2SD)の138Laの過剰がみられた(Shen and Lee, 2003)。一方で、全岩分析においては炭素質コンドライトに12±8ε(2SD)の小さな同位体異常が検出されたのみである(Shen et al., 1994)。138La同位体異常を初期太陽系年代学や核宇宙年代学に応用するためには、炭素質コンドライト以外の隕石の全岩試料中の小さな同位体異常を高精度に測定することが必要不可欠である。

そこで、本研究はマルチコレクター型ICP質量分析計(MC-ICP-MS)を用いてLa同位体測定の分析精度の検証を行った。MC-ICP-MSを用いることで、同位体が2つしかないLaの装置における質量分別をNdにより外部補正をすることが可能となり精度の向上が見込める。一方で、質量数138に同位体をもつBaとCeからの同重体干渉の影響を受けるため、その補正も必要になると考えられる。また、138Laの存在度が139Laの1000分の1であることが高精度分析を難しくしている。一般的にマルチコレクター型質量分析計では1011 Ω増幅器が用いられることが多いが、本研究では138 amuに1013 Ω増幅器を、139 amuに1010 Ω用いることで最大限の検出能力を引き出すことを試みた。

La標準溶液NIST 3127aを測定した結果、Ndによる外部補正をすることで外部補正をしない場合と比べて10–20倍精度が向上した。また、137Baで同重体補正することで同重体補正しない場合と比べて約2倍精度が向上することが明らかになった。本研究では、80 ppbのLa標準溶液の測定において、内部誤差が±1.4ε(2SE)の精度を達成することができた。