17:15 〜 18:30
[MTT42-P03] メモリー効果の影響がない水蒸気連続フロー方式による鍾乳石の流体包有物同位体分析手法の開発と評価
キーワード:鍾乳石、安定同位体、流体包有物、キャビティリングダウン式分光計
キャビティ―リングダウン式分光計(CRDS)は,降水等の水の水素・酸素安定同位体比分析に多く活用されている。CRDSは,これらの汎用の分析だけではなく,流体包有物等の微小量の水の同位体比分析にも適用可能であり,試料の抽出と導入装置の開発が行われてきた(e.g., 1-3)。なかでも,古気候復元の研究に利用されている鍾乳石中の流体包有物の分析は,従来のCaCO3の酸素同位体比は定量的解釈が困難な点を解決できると期待されている。しかし,微量の水の安定同位体比分析は,直前の分析試料の同位体比の影響を受ける「メモリー効果」が問題であり,この効果を補正するための分析に多くの時間が必要であった(3)。本研究では,このメモリー効果を著しく低減することで,分析速度を向上させることを目的として,流体包有物中の同位体比を測定する手法を開発・評価した。
測定ラインは,水を抽出する前処理部と水同位体比を測定する検出器(CRDS, Picarro 2140-i)から構成されている。前処理部は,従来の真空下ではなく,同位体比と濃度と同位体比が一定の水蒸気気流下で鍾乳石の破砕を行う。水蒸気気流下での分析は,メモリー効果を除去する手法として開発され,様々な改良により精度が向上しつつある (1-2)。試料の同位体比はバックグラウンドの水蒸気同位体比を差し引くことで求めるので,生成する水蒸気の安定性が重要である。
開発した装置により安定した水蒸気濃度の生成に成功した(±6 ppm, 10分間の標準偏差)。ワーキングスタンダード水の繰り返し測定精度(1σ)は,0.1-0.4 μLの範囲で,δ17O,δ18OとδDでそれぞれ± 0.1-0.2 ‰,± 0.1-0.2 ‰および± 0.2-0.6 ‰であった。同位体比の異なるワーキングスタンダード水を連続的に測定した結果,メモリー効果は観測されなかった。同様の装置の過去の報告と同じく,試料量は0.1μL以下で精度が急速に悪化した。この点を改善するため水蒸気の導入速度を調整することで0.05μLでも精度を維持することができた。開発した装置は従来の手法(3)と遜色ない精度でダイナミックレンジ(3倍程度)と処理速度が向上(5倍程度)しており,微量の水分析に適した試料導入方法であることが示された。CRDSを用いた流体包有物の同位体分析は鍾乳石を中心に行われてきた。新しい手法では分析が格段に容易になっており、同位体比変動の大きい他の岩石中の流体包有物をはじめとした試料に適用が広がることが期待される。
References: (1) Affolter et al., Clim. Past, 2014; (2) De Graaf et al., Rapid Commun Mass Spectrom., 2020; (3) Uemura et al., Geochim. Cosmochimi. Acta, 2016
測定ラインは,水を抽出する前処理部と水同位体比を測定する検出器(CRDS, Picarro 2140-i)から構成されている。前処理部は,従来の真空下ではなく,同位体比と濃度と同位体比が一定の水蒸気気流下で鍾乳石の破砕を行う。水蒸気気流下での分析は,メモリー効果を除去する手法として開発され,様々な改良により精度が向上しつつある (1-2)。試料の同位体比はバックグラウンドの水蒸気同位体比を差し引くことで求めるので,生成する水蒸気の安定性が重要である。
開発した装置により安定した水蒸気濃度の生成に成功した(±6 ppm, 10分間の標準偏差)。ワーキングスタンダード水の繰り返し測定精度(1σ)は,0.1-0.4 μLの範囲で,δ17O,δ18OとδDでそれぞれ± 0.1-0.2 ‰,± 0.1-0.2 ‰および± 0.2-0.6 ‰であった。同位体比の異なるワーキングスタンダード水を連続的に測定した結果,メモリー効果は観測されなかった。同様の装置の過去の報告と同じく,試料量は0.1μL以下で精度が急速に悪化した。この点を改善するため水蒸気の導入速度を調整することで0.05μLでも精度を維持することができた。開発した装置は従来の手法(3)と遜色ない精度でダイナミックレンジ(3倍程度)と処理速度が向上(5倍程度)しており,微量の水分析に適した試料導入方法であることが示された。CRDSを用いた流体包有物の同位体分析は鍾乳石を中心に行われてきた。新しい手法では分析が格段に容易になっており、同位体比変動の大きい他の岩石中の流体包有物をはじめとした試料に適用が広がることが期待される。
References: (1) Affolter et al., Clim. Past, 2014; (2) De Graaf et al., Rapid Commun Mass Spectrom., 2020; (3) Uemura et al., Geochim. Cosmochimi. Acta, 2016