日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT43] インフラサウンド及び関連波動が繋ぐ多圏融合地球物理学の新描像

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.13 (Zoom会場13)

コンビーナ:山本 真行(高知工科大学 システム工学群)、乙津 孝之(一般財団法人 日本気象協会)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、新井 伸夫(名古屋大学減災連携研究センター)、座長:柿並 義宏(北海道情報大学)、山本 真行(高知工科大学 システム工学群)

15:00 〜 15:15

[MTT43-06] 大気自由振動の積雲加熱による常時励起

★招待講演

*中島 健介1 (1.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:大気自由振動、積雲対流、ラム波、インフラサウンド

地球大気自由振動の広帯域常時励起の存在
地球大気運動の支配方程式を線形化し、時間および経度方向に周期性を仮定し、さらに鉛直方向と緯度方向に変数分離する枠組みが、大気潮汐その他、大気波動の考察の枠組みとして用いられてきた(Chapman and Lindzen 1970など)。この「鉛直構造方程式」の固有値(等価深度)は 10km 程度であり、対応する波の水平速度は音速(約330m/s)である。水平構造方程式は Laplace Tidal Equation (LTE)として知られ、そのモード解は、Longuet-Higgins(1968)により詳細に調べられており、それらは、ゆっくり西進する「ロスビーモード」と、大きな位相速度をもつ「重力波モード」に大別される。これらに対応して、全球的な地上気圧観測で、ロスビーモードと対応つけられる「4日波」(東西波数2)「5日波」「10日波」(東西波数1)、全球的な重力波モード(東西波数1のケルビンモード)と対応つけられる「33時間波」と呼ばれる東進波が存在することが知られてきた。また、Sakazaki and Hamilton (2020, J.Atmos.Sci)は、全球大気再解析データを用いて、さらに波数10以上までの重力波モードが励起されていることを示している。一方、Nishida et al (2014, Geophys. J. International)は、アメリカ東部に展開された稠密な気圧計観測データを分析して、波数20から1200程度までにわたって、Lamb 波が常時励起されていることを見出した。ラム波は大気下層に捕捉されて音速で水平に伝わる波であるが、全球的に考察する場合には、LTE の重力波に対応し、鉛直構造は、前述の「鉛直構造方程式」の固有関数と全く同じである。以上を総合すると、地球大気において、波数1の全球的モードから波数 1000 以上の高波数モードまでほぼ連続的に、等価深度 10km のモードが常時的に励起されていることを示唆する。

積雲による励起の可能性
上のような広帯域の大気自由振動の励起源として、ここでは積雲対流を想定する。その理由の第一は、積雲対流は1km程度の空間スケールの孤立した擾乱であるので、空間的に波数0から10,000程度までの広帯域の波源となり得ることである。第二に、積雲は1時間程度の寿命であり、そのライフサイクルの間にも加熱構造に大きな変動があるので、時間的にも周波数がゼロから数mHz程度までの広帯域の波源となり得ることである。

ラム波鉛直モードの加熱による励起
大気を加熱すると、直接的な応答としては音波が生成し、これが鉛直に伝播した後の応答がラム波、および、その後に生じる内部重力波の励起に寄与する。Bannon(1995)は, 加熱の後の静水圧調節の後には地表面気圧が残らないことを示した。しかし、熱源より上側の大気は上方に変位するので、ラム波鉛直モードへの寄与としては、正の加熱は正の圧力偏差をもたらす。その振幅は概ね、スケールハイト程度の鉛直領域に閉じ込められた大気の圧力応答で見積もれることがわかる。

大気自由振動振幅の見積もり
以上の考察に基づき、積雲の個数、寿命などについて現在の地球の観測事実を参照し、鉛直一層の大気の加熱応答を見積もった。結果は、大気自由振動の Q 値の見積もりにも依存するが、Nishida et al (2013)のラム波、Sakazaki and Hamilton (2020)のグローバルモードの振幅を概ね説明できることがわかった。詳細は当日議論したい。