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[MZZ44-P04] 科学の大衆化と地権力――1920年代の新城新蔵における宇宙進化・中国・仏教
キーワード：新城新蔵、科学の大衆化、地権力、中国地学、仏教用語
演者は、2009年より20世紀初頭のジオサイエンスの再編について、特に地球物理学の制度化について調べてきたが、この過程で京大宇宙物理学教室「新城文庫」のもつ重要性に気づいた。本報告は、1910年代の史料から新城新蔵（1873-1938）の1920年代の活動の意味を再検討して一つのまとめとしたい。ポイントは宇宙地球科学の制度化と啓蒙活動、および中国科学史への開眼という3点であり、啓蒙活動のなかにポピュラーサイエンス（大衆科学）と仏教思想との関係という要素が入ってくる。
1）1914年の新城のノートには「理科拡張案」というメモがあり、「宇宙物理学教室」のもとに「天文」「地学（気象・地震・地磁気）」「地質学」が配置されている。これは、宇宙物理学が「cosmophysics」の訳語として用いられていると解釈でき、京都帝大では1920年代にかけて「宇宙物理学」「地球物理学」「地質学鉱物学」の教室が形成される。東北帝大でも似たような経緯が観察される。（Cf. 山田 2013）
2）同じノートに「Popular Lectures」の頁があり、テーマが箇条書きされている。具体的には「天文学ノ発達」が詳しく書かれているが、「宇宙進化論」「宇宙体系」「地球の剛性」「重力測定」「地磁気論」「上層の大気」「太陽熱」「太陽ト地球の年代」など、地球物理学的な話題も想定されている。宇宙進化論は実際に行われて、1916年に丸善から出版され、1925年には『最近宇宙進化論十講』（龍谷大学出版部）が出ている。後者で仏教用語を用いた解説がなされることになる。（山田 2018）
3）新城は、1908年ころから京都帝大の狩野直喜や内藤湖南ら、東洋史の学者と交流があり、1913年の「支那上古の暦法」をはじめとして中国の古代天文学史に関する論考を連作し、1928年の『東洋天文学史研究』にまとめた。（山田 2019）
以上のように、この時期を通じて新城は、ドイツ留学の成果を大学における新しい学問分野の制度化と科学の大衆化として結実させるだけでなく、1930年代の中国との関わりを準備していたとも言えよう。この時期の中国は、外国人を招き積極的に地質学をはじめとする科学的知識を貪欲に受け入れ、発展期に入っていた。ここに孕まれるジオコズミックな意識の醸成とともに資源探査や地政学的問題を含んだ地権力の問題を考慮に入れて考察を行う。（武上 2017, Zhang 2018, Yamada 2019）
【文献】
山田俊弘 2013: 地球物理学制度化への挑戦：志田順と京都帝大地球物理学科 1909年-1936年、科学教育研究、37巻、15-29頁。
武上真理子 2017: 1920年代中国地質学の国際化、京都大学人文科学研究科「転換期中国における社会経済制度」シンポジウム配付資料、25頁。
山田俊弘 2018: 科学者と仏教用語：新城新蔵と宮沢賢治の場合、徳島科学史雑誌、37号、31-38頁。
Zhang, J. 2018: “How Modern Geology Was Published: A Case Study of Chinese Geological Journals, 1919 to 1949,” Historia Scientiarum, 27, 283-299.
山田俊弘 2019: 〈歴史〉意識の濫觴へ：20世紀初頭の科学史への関心の背景にあるもの、科学史研究、58巻、291号、258-264頁。
Yamada, T. 2019: “Between the Field and the Classroom: The Using and Making of Geoscientific Historia in Meiji‒Taisho Japan,” Historia Scientiarum, 28, 217-236.
1）1914年の新城のノートには「理科拡張案」というメモがあり、「宇宙物理学教室」のもとに「天文」「地学（気象・地震・地磁気）」「地質学」が配置されている。これは、宇宙物理学が「cosmophysics」の訳語として用いられていると解釈でき、京都帝大では1920年代にかけて「宇宙物理学」「地球物理学」「地質学鉱物学」の教室が形成される。東北帝大でも似たような経緯が観察される。（Cf. 山田 2013）
2）同じノートに「Popular Lectures」の頁があり、テーマが箇条書きされている。具体的には「天文学ノ発達」が詳しく書かれているが、「宇宙進化論」「宇宙体系」「地球の剛性」「重力測定」「地磁気論」「上層の大気」「太陽熱」「太陽ト地球の年代」など、地球物理学的な話題も想定されている。宇宙進化論は実際に行われて、1916年に丸善から出版され、1925年には『最近宇宙進化論十講』（龍谷大学出版部）が出ている。後者で仏教用語を用いた解説がなされることになる。（山田 2018）
3）新城は、1908年ころから京都帝大の狩野直喜や内藤湖南ら、東洋史の学者と交流があり、1913年の「支那上古の暦法」をはじめとして中国の古代天文学史に関する論考を連作し、1928年の『東洋天文学史研究』にまとめた。（山田 2019）
以上のように、この時期を通じて新城は、ドイツ留学の成果を大学における新しい学問分野の制度化と科学の大衆化として結実させるだけでなく、1930年代の中国との関わりを準備していたとも言えよう。この時期の中国は、外国人を招き積極的に地質学をはじめとする科学的知識を貪欲に受け入れ、発展期に入っていた。ここに孕まれるジオコズミックな意識の醸成とともに資源探査や地政学的問題を含んだ地権力の問題を考慮に入れて考察を行う。（武上 2017, Zhang 2018, Yamada 2019）
【文献】
山田俊弘 2013: 地球物理学制度化への挑戦：志田順と京都帝大地球物理学科 1909年-1936年、科学教育研究、37巻、15-29頁。
武上真理子 2017: 1920年代中国地質学の国際化、京都大学人文科学研究科「転換期中国における社会経済制度」シンポジウム配付資料、25頁。
山田俊弘 2018: 科学者と仏教用語：新城新蔵と宮沢賢治の場合、徳島科学史雑誌、37号、31-38頁。
Zhang, J. 2018: “How Modern Geology Was Published: A Case Study of Chinese Geological Journals, 1919 to 1949,” Historia Scientiarum, 27, 283-299.
山田俊弘 2019: 〈歴史〉意識の濫觴へ：20世紀初頭の科学史への関心の背景にあるもの、科学史研究、58巻、291号、258-264頁。
Yamada, T. 2019: “Between the Field and the Classroom: The Using and Making of Geoscientific Historia in Meiji‒Taisho Japan,” Historia Scientiarum, 28, 217-236.