日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ46] 海底マンガン鉱床の生成環境と探査・開発

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.19

コンビーナ:臼井 朗(高知大学海洋コア総合研究センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、伊藤 孝(茨城大学教育学部)

17:15 〜 18:30

[MZZ46-P02] 北西太平洋コバルトリッチクラスト国際鉱区における沈降粒子フラックス

*山岡 香子1、鈴木 淳1、田中 裕一郎1、鈴村 昌弘2、塚崎 あゆみ2、福原 達雄3、藤井 武史3、湊谷 純平4、岡本 信行4、五十嵐 吉昭4 (1.産業技術総合研究所地質情報研究部門、2.産業技術総合研究所環境創生研究部門、3.株式会社KANSOテクノス、4.独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

キーワード:海山、沈降粒子、マンガンクラスト

海底鉱物資源開発の環境影響評価のためには、自然状態での面的・時間的変動やそのメカニズムを把握することが重要である。北西太平洋のクラスト国際鉱区における環境ベースライン調査の一環として、これまでに5つの海山(JA02, JA03, JA04, JA06, JA17)周辺でセジメントトラップ観測を実施した。沈降粒子は主に生物源炭酸塩からなり、全沈降粒子フラックスは全ての海山で低く(5 mg m–2 d–1程度)、本海域が貧栄養海域であること整合的である。鉱区の最北(北緯24º付近)に位置するJA17海山では全沈降粒子フラックスは比較的高く、春の表層生産ブルームに対応するピークが認められた。また、生物起源オパールの割合が高く、珪藻の寄与が示唆された。一方、JA17以外の海山では、全沈降粒子フラックスの季節変動は晩夏(8〜9月)に明瞭なピークを示し、これは夏に最も低い一次生産量を示す衛星データとは矛盾していた。この不一致は、台風の通過により引き起こされる短期間あるいは亜表層でのブルームで説明できると考えられた(Yamaoka et al., 2020)。

鉱区南部に位置するJA06海山周辺で採取された沈降粒子については、元素分析も行った。その結果、本海域における元素フラックスは4つの主なプロセスにより支配されていることが明らかとなった:石質(Al, Ti, Fe)、炭酸塩(Mg, Ca, Sr), 生物(+スキャベンジング)(Ni, Zn, Cd, Pb)、スキャベンジング(V, Mn, Co, Cu, REE)。上部大陸地殻の組成との比較に基づく余剰フラックスの推定により、Mn, Co, Ni, Cu, Zn, Cd, Pbフラックスの85%以上が、スキャベンジング(+生物による取り込み)によるものであることが示された。スキャベンジングが支配的な金属フラックスは、貧栄養な外洋域において普遍的なものであると考えられる。興味深いことに、本研究において推定された沈降粒子のマンガン(1.3–7.0 µg m–2 d–1)及びコバルト(0.04–0.1 µg m–2 d–1)の余剰フラックスは、Sato and Usui (2018)により推定されたマンガンクラストへの金属フラックス(マンガン:1.9–3.0 µg m–2 d–1、コバルト:0.03–0.11 µg m–2 d–1)とほぼ一致した。15年間の現場実験に基づき、幅広い水深帯で海水から微小な鉄マンガン酸化物が析出することが示されたが(Usui et al., 2020)、そのような鉄マンガン酸化物が、マンガンクラストと沈降粒子に共通するマンガン供給源となっていることが示唆される。