日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[M-ZZ47] 再生可能エネルギーと地球科学

2021年6月4日(金) 15:30 〜 17:00 Ch.13 (Zoom会場13)

コンビーナ:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センター)、野原 大輔(電力中央研究所)、島田 照久(弘前大学大学院理工学研究科)、宇野 史睦(日本大学文理学部)、座長:島田 照久(弘前大学大学院理工学研究科)

15:47 〜 16:02

[MZZ47-03] 北海道の雪氷冷熱エネルギー賦存量評価: ニセコ町における事例研究

*段 和歓1、藤井 賢彦1,2 (1.北海道大学大学院環境科学院、2.北海道大学大学院地球環境科学研究院)


キーワード:雪氷冷熱エネルギー、賦存量、雪搬入、二酸化炭素、フルコスト

地球温暖化による世界的規模の異常気象や災害が多発する中、温室効果ガス(GHG)の削減や脱炭素社会の構築が求められている。2018 年9月、北海道民は、北海道胆振東部地震に伴う、北海道全域停電を体験した。そのため、非常事態時には、一極集中型の電力供給システムは脆弱であり、各地域に分散する地産地消型エネルギーの利活用やエネルギーミックスの推進に向けた研究開発が重要であるとの認識が広まった。本研究では、北海道の特徴的な地域エネルギーである雪氷冷熱の有効利活用を、「環境未来都市」と「SDGs未来都市」に選定されたニセコ町を対象に、環境性と経済性の面から定量的に評価した。

本研究では主に化石燃料起源の電力で運用する電気式貯蔵施設と、雪氷冷熱を活用した雪利用貯蔵施設を環境性や経済性から比較し、シナリオ評価を行った。環境性指標としてGHG排出量、その評価手法としてライフサイクルアセスメント(LCA)を用いた。また、ライフサイクル影響評価(LCIA)の手法の一つである日本版被害算定型影響評価手法(LIME2)を用い、特性化に関する環境影響の評価結果を得た。また、経済性指標としてトータルコスト(経済・環境コスト)、その評価手法としてフルコスト評価(FCA)を用いた。FCAの内部費用はライフサイクルコスト(LCC)、外部費用はLCIAを用いて求め、これらを合算して総合的費用を評価した。計算には、LCAの算出ソフトウェアMiLCA2.2.1.0(2019)およびLCIデータベースIDEAv2(2019)を用いた。

 本研究では農産物1,800トンを年間保存する貯蔵施設を機能単位として、電気式貯蔵施設と雪利用貯蔵施設の運用に伴うGHG排出量を推計した。いずれの貯蔵施設の利用でも農産物を貯蔵施設に搬入搬出作業に関するプロセスは共通であるため、このプロセスはシステム境界から除外した。また、電気式貯蔵施設と雪利用貯蔵施設の耐用年数はそれぞれ14年、21年とした。GHG排出量は、各プロセスでのエネルギー消費量(電力・軽油)とエネルギー種別GHG排出係数(電力:0.601[kg-CO2/kWh]、軽油:2.619[kg-CO2/L])を用いて算出した。また、雪利用貯蔵施設に関する一次データはニセコ町の施設関係者への聞き取り調査を通じて取得した。

雪利用貯蔵施設の建設・使用・廃棄に伴うGHG総排出量は年間130t-CO2eqと見積もられた。CO2排出に伴う環境コストを2.33(円/㎏- CO2)と仮定すると、環境へのダメージコストは30万3千円/年と試算された。聞き取り調査の結果、雪利用貯蔵施設の建設コストと運用コストをそれぞれ1億8千万円、325万円と算出した。また、北海道の鉄骨鉄筋コンクリート造建築物解体費用の相場(坪単価7万円)から、施設の解体にかかるコストを6千万円と見積もった。これらの値を雪利用貯蔵施設の耐用年数(21年)で除し、1年あたりの各コストを算出した。雪利用貯蔵施設の建設コストはトータルコストの6割を占めており、初期投資額の抑制が経済性の優劣を決定する。現在、電気式貯蔵施設についても雪利用貯蔵施設と同様、環境性と経済性に関する試算を行っており、雪利用貯蔵施設との比較を含む詳細な結果は発表当日に報告する。

雪の調達に掛かるGHG排出量と輸送コストを抑えられる豪雪地帯では、雪の採取・搬入段階のCO2排出量が少ないことから、雪氷冷熱エネルギーの利活用に優位性があることが分かった。一方、雪利用貯蔵施設の利用に掛かるGHG総排出量とトータルコストの半分が雪利用貯蔵施設の建設段階にあるため、雪利用貯蔵施設の建設時のCO2排出量の削減がコストの更なる低減に寄与することが示唆された。