日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

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[M-ZZ48] 地質と文化

2021年6月6日(日) 10:45 〜 12:15 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:鈴木 寿志(大谷大学)、先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、高橋 直樹(千葉県立中央博物館)、座長:先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、高橋 直樹(千葉県立中央博物館)

11:45 〜 12:00

[MZZ48-05] 中世城館の特徴的な地形改変が土砂移動に与える影響 ~広島県東広島市を対象とした平成30年7月豪雨の分析と調査~

*猪股 雅美1 (1.国立大学法人広島大学)

キーワード:山城の構造、GIS(地理情報システム)、広島花崗岩

広島県中央部に位置する東広島市は,平成30年7月豪雨災害(以下H30.7豪雨とする)で県内最多の2,730箇所で土砂移動が発生したと報告された1).それらの土砂移動箇所には,標高の高い場所からの土砂移動上部に中世城館跡(「埋蔵文化財一覧表」2において「城跡」と記載のあるもの.以下城跡とする)が確認された箇所が複数見られたため,土砂移動発生箇所と城跡との関係についてGIS(地理情報システム)を用いて分析をおこなうことにした.県内には城跡が多数確認されており,市内にも165箇所の城跡3)がある.これまで城跡は平坦部の郭などを主に城の遺跡として認識してきたため,斜面部の調査については近年注目されてはきたものの十分には進んでいない.急激な人口増加が進む東広島市域では山裾にまで居住エリアが拡大し,新たなリスクとして検証する必要があると考え,これまで着目されていなかった中世城館の地形改変が土砂移動にどのような影響を与えたのかを検討した.

今回のGIS分析には,ArcGIS Pro 2.6(ESRIジャパン株式会社)を用い,H30.7豪雨において国土地理院平成30年7月豪雨正射画像統合版により土砂移動が判読できる東広島市の範囲(図1)の土砂移動発生箇所と城跡124城との関係について調査した.その結果,古墳など他の遺跡とは異なり,土砂移動に影響を与えたと考えられる城跡は59箇所もあり,これまで危険性が指摘されていなかった場所や,想定されていない斜面方向に土石流が流下するなどの現象もみられた.また,それらの城跡を立地や地表と城跡との高度差である比高によって分類した結果,比高が50m以上の「山城」「平山城」4)が80%を占めた.その原因として敵の侵入を防ぐための防御構造を持つ,山城の特徴的な地形改変が考えられる.山城は,斜面を急崖に改変した「切岸」,尾根筋を切断した「堀切」や等高線に直交する「竪堀」といった空堀を作るなど,土砂移動を発生しやすいと考えられる地形改変が城郭周囲に多数存在する5(図2).文献や絵図による現地調査で遺構図が作成された城跡では,土砂移動と関連があると考えられた城跡の42%にあたる25城が堀切下部に土砂移動を発生していた.竪堀の下部で発生している箇所もあり,空堀である堀切と竪堀が連続して造成されることも多いため,更に事例は増えると考えられる.

地質別では土砂移動と関連している城跡の85%が後期白亜紀花崗岩(広島花崗岩)地域に立地している.これまでも風化したマサ土が甚大な土砂災害の素因とされる広島花崗岩は,標高の高い場所では地表に並行もしくは緩傾斜のシート状の割れ目が形成されるマイクロシーティング構造が発達し,斜面災害を引き起こしている.花崗岩の切土斜面は透水性が高まり風化速度に影響を持つこと6)や,マイクロシーティング構造が崩壊すると急速に再風化することが論じられているため7,地形改変に対してより一層地盤が脆弱になることが予想される.

 これらのGISによる分析結果に加え,さらに現地調査を行い土砂移動箇所上部の植生を確認したところ,水を好む多年生シダ植物が群生する箇所があり,測定座標値と発掘調査報告書8)や遺構図に示された堀切位置が一致した.この一致は発掘調査により堀切跡が正確に確認できている城跡,遺構図が作成されている城跡ともに複数の城跡で確認された.また,2箇所の山城における堀切位置の土壌は,土質硬度計(山中式標準型)の測定値で超軟弱地盤とされる1~7mm程度(支持力強度:8.0×10-3~7.9×10-2〔MPa〕)であり,堆積物で埋まってはいるものの豪雨時には流路となり,下部に多量の集水を発生させ崩壊を引き起こしたと推測される.

本研究では東広島市におけるH30.7豪雨での土砂移動について,GISを用いた分析により,土砂移動の発生に山城跡が影響を与えていることを指摘した.また,山城の構造の一つである堀切が,豪雨時に土砂移動の発生に影響及ぼしている事例が多いことを,発掘調査報告書や遺構図に基づく現地調査により,確認した.危険箇所の特定は土砂移動流路の予測につながり,リスクの軽減に貢献できると考える.

参考文献
1)広島大学平成30年7月豪雨災害調査団(地理学グループ),平成30年7月豪雨による広島県の斜面崩壊分布図(第四報,2018年8月2日)/ 2)広島県教育委員会,埋蔵文化財一覧表/3)都道府県別日本の中世城館調査報告書集成18,中国地方の中世城館/4)小和田哲男, ひろしまの遺跡2018-報告と講演-記録集,公益財団法人広島県教育事業団埋蔵文化財調査室活動報告第9集, p37/5)文化庁文化財部記念物課編, 発掘調査のてびき各種遺跡調査編,2013/6)鈴木浩一ほか,風化花崗岩表層の緩みと斜面内部への降雨の浸透,2002/7)千良木雅弘,群発する崩壊,p96,2002/8)東広島市教育委員会,鏡山城跡発掘調査報告書, 2013