日本地球惑星科学連合2021年大会

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[O-02] 自然災害と人 ~ジオパークで地球の声に耳を澄ます~

2021年5月30日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(糸魚川市役所)、横山 光(北翔大学)、座長:佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(糸魚川市役所)、小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)、今井 ひろこ(コムサポートオフィス/和歌山大学国際観光学研究センター)、横山 光(北翔大学)

13:45 〜 14:15

[O02-01] 「ポストコロナ」時代に向けた糸魚川ジオパークの現状と課題

★招待講演

小林 猛生1、*香取 拓馬1、セオドア ブラウン1、小河原 孝彦2、竹之内 耕2、茨木 洋介2 (1.糸魚川ジオパーク協議会、2.フォッサマグナミュージアム)

キーワード:糸魚川ユネスコ世界ジオパーク、新型コロナウイルス

1 はじめに
糸魚川ジオパーク協議会は,区長会や商工会,観光協会,交通事業者やガイドの会,行政機関など34者で組織する任意団体で,糸魚川ユネスコ世界ジオパークを管理・運営する団体である.
2 新型コロナウイルス感染症の影響
新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)は,糸魚川ユネスコ世界ジオパークの諸活動に様々な影響を及ぼし,来たる「ポストコロナ」時代を見据えた方向性の転換と意識変革を提起する機会となった.昨年4月と本年1月に首都圏など感染拡大地域に緊急事態宣言が発令され,外出自粛要請により実質的に地域間移動が制限されたため,観光やビジネスを目的とする当市への来訪者は大幅に減少した.特にインバウンド関係は壊滅的で,姉妹提携を結ぶ香港ユネスコ世界ジオパークの視察受入や中学生派遣など定例事業も行うことができなかった.ジオパークに限らず観光イベント,各種大会や研修,祭や伝統行事等も軒並み中止または延期となった.また,飲食店やホテル等観光関係施設は利用者減少により経済的打撃を受け,行政の支援制度では立ち行かなくなって休廃業を余儀なくされるケースも少なくない.
3 コロナ禍での活動
コロナ禍におけるジオパーク活動については,社会情勢を踏まえ,住民感情に配慮して感染拡大防止策を十分講じたうえで取組を進めてきた.以下に主な事例をいくつか示す.
(1) 修学旅行及び体験教育旅行の誘致(旅行代理店との連携,モニターツアー受入,学校等への誘致活動,感染症予防に留意した受入体制整備等)
(2) ロゴマークやマスコットキャラクターを活用した感染防止の呼びかけ(ソーシャルディスタンス確保,マスク着用,手指消毒,換気等)
(3) インターネットコンテンツの充実(ジオパークの絶景や実験等の動画配信,バーチャルミュージアム公開,ペーパークラフト,折り紙,ぬり絵等)
(4) オンライン会議システムの活用(オンライン講座の開催,オンラインツアー・オンライン体験の試行,香港ユネスコ世界ジオパーク情報共有会議,日本ジオパークネットワーク中部ブロック大会の開催等)
(5) 情報発信の強化(ウェブサイト,SNS,広報紙等)
冒頭に挙げた「修学旅行及び体験教育旅行」については,新潟県内及び隣県の学校を対象に春先から誘致を進めた結果,感染症が少し落ち着いた9月から11月にかけて基幹施設であるフォッサマグナミュージアムに昨年を上回る51校3,444人(前年比170.0%)が来館した.その理由としてコロナ禍の中,学校や旅行代理店が遠方の都市部ではなく足元に目を向けてくれたこと,相手先の意見や要望を聞いてニーズ等を把握しながら対応したこと,当ジオパークに地学的な見どころがコンパクトにまとまっていることなどが挙げられる.また,インターネットの需要が高まりオンライン会議やテレワークが広く普及・定着したことよって各々の活動の枠と可能性が広がった.日本ジオパークネットワークや香港ユネスコ世界ジオパークを介した他ジオパークとの意見交換や連携も大変参考になった.
4 「ポストコロナ」時代のジオパーク活動
新型コロナウイルス感染症収束後は,コロナ禍前後の取組を効果的にミックスしながら,停滞する教育・観光・経済等各分野の迅速な「V字回復」が求められている.ジオパーク活動としては,主にジオツアーやジオパーク現地学習等が該当する中で,その要となる「ジオパーク観光ガイドの会」は,感染防止の観点から令和3年3月末日まで活動を休止している.昨春からの断続的なガイド活動制限と件数減少に加え,講演や研修会など主要事業が中止となり,モチベーションが著しく低下している会員も見受けられる.「コロナは怖いが,ガイドはしたい」「しばらく離れたら,やる気が失せた」などの意見も聞かれた.昨秋から同会の役員会に糸魚川ジオパーク協議会がオブザーバーとして参画し,オンラインツアーやオンライン体験メニューの造成,糸魚川市駅北大火(2016年12月28日発生,147棟消失)被災地区の「まちめぐり」のブラッシュアップ,代表的なジオサイトのガイドマニュアルづくりなど「コロナ禍でもやれること」の協働を提案している.
過去の歴史が物語るように,パンデミックは個々の生活様式や社会構造に大きな改革をもたらす.今後は感染症予防を含む安心安全の確保,情報通信技術の利活用,集中型から拡散型へのシフトなど「ポストコロナ」時代のニーズを把握しつつ,JGN等各種ネットワークや関係団体,有識者等と綿密に連携しながら,より効果的かつ合理的なジオパーク活動を模索していかなければならない.