日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-02] 自然災害と人 ~ジオパークで地球の声に耳を澄ます~

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.02

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(糸魚川市役所)、横山 光(北翔大学)

17:15 〜 18:30

[O02-P09] 浜松・浜名湖地域における教育ジオツアー実践―とくにオンサイトとオンライン両ツアーの試行とそれらの効果比較について

*長野 裕紀1、小山 真人2、鈴木 雄介2、福山 めぐみ2 (1.静岡県立浜松工業高等学校、2.静岡大学)

キーワード:ジオパーク教育、オンラインツアー、教育効果

1.目的と背景

 ジオパーク教育は学際的・分野横断的に地域を見ることで,自分の郷土に誇りを持てるようになる学びである(小山ほか,2011)。浜松・浜名湖地域はジオパークに認定されていないが,中央構造線に伴う多様な地質帯や,赤色層状チャート露頭,南海トラフ歴史地震や津波の痕跡,「暴れ天竜」と呼ばれた天竜川の氾濫と治水の歴史,それらに対する工夫が産業に結実するなど,ジオパークにふさわしい独特な資産を備えている。そこでこの地域でジオパークによる教科横断型学習(ジオパーク教育)を実践し,学校現場における地学及び観察の時間不足を補うとともに,新教育課程等で求められる「地域の正しい理解」,「地域の価値意識の向上」,「学びの主体性涵養」において教育効果を上げるか検証した。



2.方法

 2019年は対面のバスツアーを2回(テーマは浜名湖),新型コロナ禍にみまわれた2020年はオンラインツアーを計2回(第1回:浜名湖編,第2回:天竜川編)実施した。両年ともに浜松市内の全小学校に対して参加者を募集し,休日にツアーを実施した。募集を始めとする運営は浜松市学校生活協同組合の協力を得た。ツアー開始前と終了後に自由記述を含む質問紙調査(オンラインはGoogle フォームを利用)を行い,対面第1回が40人(内児童21人),第2回が37人(内児童14人),オンライン第1回が46人(内児童37人),第2回37人(内児童27人)から得た回答を,「当てはまる=4,やや当てはまる=3,あまり当てはまらない=2,まったく当てはまらない=1」と換算し,参加者の平均値を全体,児童等,大人に分けて算出した。

 第1回オンラインツアーは自由記述欄に25件も「音声や画像が乱れる」,「中継や説明の方法を工夫して欲しい」指摘があり,「地域の正しい理解」,「満足度」が対面ツアーに比べ有意に低下したため,第2回では映像と音声を別回線とし通信環境を改善し,また参加者の誤認識を解消していくクイズ形式を取り入れた。さらに日常経験知からの解説により,参加者の持つ経験や実感に着目し,そこから納得や共感を引きだそうとする解説「受け取る側としての専門家の態度変容」(舩戸,2008)を試みた。具体的には「コロナ禍での生活」という共通の経験や実感を元に,地元遠州にマスクを作る織物産業があることを,浜松市街地に突如登場した「遠州織物マスク自販機」で実際にマスクを購入するシーンからスタートさせることで,オンラインツアーが対面ツアーと同じ学習効果が得られるのか検証することにした。



3.結果と考察

 オンラインツアー第2回の事後アンケート結果を,同ツアー第1回と2019年の対面ツアーの事後アンケート比較したものが表1である。自由記述欄を含めた主要な結果と,そこから得られる考察を以下に述べる。
「地域の正しい理解」を促したか(質問項目1)
 事前アンケートから1.5上昇(有意差あり)し,第1回からも0.6上昇(有意差あり)した。対面ツアーとは有意差がなく,同等の成果をあげることができた。自由記述欄では児童生徒4件,大人2件の計6件の記述が見られた。これに伴ってツアー全体の満足度(質問項目5)も第1回から有意に上昇した。
「地域の価値意識の向上」が見られたか(質問項目2)
 事前アンケートから0.7上昇(有意差あり)した。第1回からも0.2上昇したが有意差はみられなかった。対面ツアーとは変化がなかった。オンラインでも地域の価値意識は対面ツアーと同程度の向上効果があると考えられる。自由記述欄には特に記述がなかった。
「学びの主体性涵養」が促進されたか(質問項目3)
 事前アンケートから1.0上昇(有意差あり)し,第1回,対面ツアーともに有意差がなかった。学びの主体性はオンラインでも対面ツアー同程度涵養されると考えられる。
「ツアー全体の満足度」(質問項目4)
 第1回から0.4上昇(有意差あり)し,また対面ツアーとは有意差がなくなった。これはオンラインにおいても「日常経験知」からの共感的導入,「誤認識」解消する解説プロセスにより対面ツアーと同等の教育効果を得られることを示している。

 子どもたちの最も日常的な経験知は学校教科教育である。この内容と即時的な関連づけを行うことは,子どもたちにこれまで以上の共感的な理解を引き出すことに繋がる。今後はこうした関連づけをさらに徹底していきたい。そうすることで新教育課程のカリキュラムマネジメント導入や,地学教員不在の学校における観察の時間減少の課題に悩む学校現場における,解決策の一つとして活用することが可能となるだろう。