17:15 〜 18:30
[O02-P14] 高齢者を自然災害からどう救うか―島原半島ユネスコ世界ジオパークにおける活動例
キーワード:島原半島ユネスコ世界ジオパーク、長崎県立口加高等学校、地震災害、防災
1.はじめに
島原半島ユネスコ世界ジオパークの認定エリアには,千々石,金浜,深江,布津といった,複数の活断層が存在する(雲仙断層群).これらの断層群のうち,雲仙断層群南西部は今後30年以内の地震発生確率が0.5~1%,今後50年以内の地震発生確率が0.8~2%と見積もられており(地震震調査研究推進本部,2006),国内でも高い部類に属する.また,1922年12月8日には,わずか10時間の間にM=6.9とM=6.5の地震(「島原地震」)が相次いで発生し,死者27名,負傷者39名を出す被害が生じた(太田,1984)ほか,島原半島西部の橘湾では,最大震度4に達する有感地震を含む,群発地震も時々発生する.これらのことから,島原半島に暮らす人々は,雲仙火山の噴火に備えるだけでなく,将来発生する地震に対しても備える必要があるといえる.
その島原半島地域は,深刻な高齢化地域でもある.特に島原半島ユネスコ世界ジオパークを構成する自治体の一つである南島原市は,65歳以上の住民の割合で示される高齢化率が2020年の時点で36.2%に達し,全国の高齢化率(28.1%)に比べて明らかに高い.よって避難が必要となる規模の地震が発生した場合,多くの高齢者をどのようにして地震災害から守るかが,大きな課題になりうる.そこで我々は,高齢者が多く住み,かつ雲仙断層帯南西部の活動によって直接的な被害が発生しうる南島原市南西部を対象に,特に地震がもたらす自然災害とその防災対策について検討を行った.
2.手法
長崎県立口加高校生292名およびその保護者117名を対象に,平時における自然災害に対する防災意識を問うアンケート調査を実施し,世代によって防災意識にどの程度違いがあるのかを調査した.また高齢者が多く暮らす集合住宅から最寄りの指定避難場所に避難する際に,どのようなリスクが生じうるかを現地で調査し,その状況と,南島原市が発行するハザードマップの記載内容の比較を通じて,高齢者が避難する際に留意すべき情報を検証した.
3.結果
高校生とその保護者を対象に行ったアンケートのうち,「普段から災害への備えをしていますか」という項目に,「はい」または「どちからといえばはい」と回答した生徒は36%,保護者は45%であった.また「災害時に何をするか家族と普段から話し合っていますか?」という問いに対し,「はい」または「どちらかといえばはい」と回答した生徒は43%,保護者が55%であった.さらに「自然災害が発生しても自分は大丈夫と思いますか?」という問いについては,「はい」または「どちらかといえばはい」と回答した生徒は36%,保護者は25%となり,全体的に生徒より保護者の方が防災意識が高い傾向を示した.
また,多くの高齢者が暮らす集合住宅から最寄りの避難所(小学校)までの避難経路の中で,高齢者が避難するうえで支障となりそうな場所を検証したところ,①避難所まで緩い上り坂が続くため,高齢者には負担が大きい,②上に蓋が張られていない深い側溝が道沿いに続いており,夜間に避難を行う場合には危険,③震度5強の揺れで倒壊する恐れがある塀が避難路にある,という3点が,行政が発行するハザードマップに反映されていないことがわかった.中でも,数100mにわたって避難場所まで続く登り坂は,避難物資を持った高齢者にとっては大きな負担になる可能性がある.
4.考察
「保護者の方が生徒より防災意識が高い」という傾向は,「防災に対する意識と行動」(内閣府,2016)や,首都圏の大学生とその保護者を対象としたアンケート結果(清水,2011)の類似項目の傾向とほぼ同じである.これは,若い世代にとっては,防災対策といっても何から始めればよいかわからない,対策を立てる時間的なゆとりがない,備えをするうえで費用が発生するため,実質的な対策を立てることが難しい,というのが主な理由と推察され,内閣府(2016)の結論と調和的である.
その一方で,行政が発行しているハザードマップに高齢者が避難する際に留意すべき情報の掲載が不十分である,という事実は,せっかく避難を始めた防災意識の高い高齢者が,避難行動の途中で被災してしまう可能性を示唆する.高齢者の目線に立った,地域ごとの詳細なハザードマップを作成・周知するとともに,ローリングストックを活用した非常食の開発などの活動を通じて,若い世代の防災意識を高め,有事発生時に”率先避難者”として高齢者を助けるような人材を育成することが,多くの高齢者を地震災害から救う上で重要と考えられる.
島原半島ユネスコ世界ジオパークの認定エリアには,千々石,金浜,深江,布津といった,複数の活断層が存在する(雲仙断層群).これらの断層群のうち,雲仙断層群南西部は今後30年以内の地震発生確率が0.5~1%,今後50年以内の地震発生確率が0.8~2%と見積もられており(地震震調査研究推進本部,2006),国内でも高い部類に属する.また,1922年12月8日には,わずか10時間の間にM=6.9とM=6.5の地震(「島原地震」)が相次いで発生し,死者27名,負傷者39名を出す被害が生じた(太田,1984)ほか,島原半島西部の橘湾では,最大震度4に達する有感地震を含む,群発地震も時々発生する.これらのことから,島原半島に暮らす人々は,雲仙火山の噴火に備えるだけでなく,将来発生する地震に対しても備える必要があるといえる.
その島原半島地域は,深刻な高齢化地域でもある.特に島原半島ユネスコ世界ジオパークを構成する自治体の一つである南島原市は,65歳以上の住民の割合で示される高齢化率が2020年の時点で36.2%に達し,全国の高齢化率(28.1%)に比べて明らかに高い.よって避難が必要となる規模の地震が発生した場合,多くの高齢者をどのようにして地震災害から守るかが,大きな課題になりうる.そこで我々は,高齢者が多く住み,かつ雲仙断層帯南西部の活動によって直接的な被害が発生しうる南島原市南西部を対象に,特に地震がもたらす自然災害とその防災対策について検討を行った.
2.手法
長崎県立口加高校生292名およびその保護者117名を対象に,平時における自然災害に対する防災意識を問うアンケート調査を実施し,世代によって防災意識にどの程度違いがあるのかを調査した.また高齢者が多く暮らす集合住宅から最寄りの指定避難場所に避難する際に,どのようなリスクが生じうるかを現地で調査し,その状況と,南島原市が発行するハザードマップの記載内容の比較を通じて,高齢者が避難する際に留意すべき情報を検証した.
3.結果
高校生とその保護者を対象に行ったアンケートのうち,「普段から災害への備えをしていますか」という項目に,「はい」または「どちからといえばはい」と回答した生徒は36%,保護者は45%であった.また「災害時に何をするか家族と普段から話し合っていますか?」という問いに対し,「はい」または「どちらかといえばはい」と回答した生徒は43%,保護者が55%であった.さらに「自然災害が発生しても自分は大丈夫と思いますか?」という問いについては,「はい」または「どちらかといえばはい」と回答した生徒は36%,保護者は25%となり,全体的に生徒より保護者の方が防災意識が高い傾向を示した.
また,多くの高齢者が暮らす集合住宅から最寄りの避難所(小学校)までの避難経路の中で,高齢者が避難するうえで支障となりそうな場所を検証したところ,①避難所まで緩い上り坂が続くため,高齢者には負担が大きい,②上に蓋が張られていない深い側溝が道沿いに続いており,夜間に避難を行う場合には危険,③震度5強の揺れで倒壊する恐れがある塀が避難路にある,という3点が,行政が発行するハザードマップに反映されていないことがわかった.中でも,数100mにわたって避難場所まで続く登り坂は,避難物資を持った高齢者にとっては大きな負担になる可能性がある.
4.考察
「保護者の方が生徒より防災意識が高い」という傾向は,「防災に対する意識と行動」(内閣府,2016)や,首都圏の大学生とその保護者を対象としたアンケート結果(清水,2011)の類似項目の傾向とほぼ同じである.これは,若い世代にとっては,防災対策といっても何から始めればよいかわからない,対策を立てる時間的なゆとりがない,備えをするうえで費用が発生するため,実質的な対策を立てることが難しい,というのが主な理由と推察され,内閣府(2016)の結論と調和的である.
その一方で,行政が発行しているハザードマップに高齢者が避難する際に留意すべき情報の掲載が不十分である,という事実は,せっかく避難を始めた防災意識の高い高齢者が,避難行動の途中で被災してしまう可能性を示唆する.高齢者の目線に立った,地域ごとの詳細なハザードマップを作成・周知するとともに,ローリングストックを活用した非常食の開発などの活動を通じて,若い世代の防災意識を高め,有事発生時に”率先避難者”として高齢者を助けるような人材を育成することが,多くの高齢者を地震災害から救う上で重要と考えられる.