日本地球惑星科学連合2021年大会

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[O-02] 自然災害と人 ~ジオパークで地球の声に耳を澄ます~

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.02

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(糸魚川市役所)、横山 光(北翔大学)

17:15 〜 18:30

[O02-P19] ゆざわジオパークの礎を築く-6編の地質図幅の統合と編集-

*佐々木 詔雄1、山脇 康平1、藤本 幸雄1、五井 昭一1、千葉 惣永1 (1.秋田まるごと地球博物館ネットワーク)

キーワード:ジオパーク、地層名の統一、化石、火山砕屑岩、放射年代、シームレス地質図

ゆざわジオパークは、「いにしえの火山の恵み、あつき雪、いかして築く歴史と暮らし」の標語の基に地質・地形、鉱山・地熱、水と産業、史跡や文化財など約300のジオサイトにおいて市民による保全と有効活用が行われている。この市民活動において、大地や地形の成り立ち、湯沢の風土について科学的な情報を骨格にした物語を作ることが重要である。地質情報はジオパークの礎と言える。 

湯沢のジオサイトは、東西約32㎞・南北約37㎞の平野から山岳地に広がり、5万分1の地質図幅6編に跨っている。6編の地質図幅は、1961年から1982年に旧地質調査所と秋田県から発刊された貴重な総括的地質資料である。しかし、これらの6編の地質図幅を同時に利用すると、異なる地層名、地層区分や火山岩層序の違い、そして地質図の配色違いなど解釈するのに不便であった。例えば、男鹿半島の西黒沢層に対比される中期中新世の海成層は、6編の地質図中に12の地層名がある。また、ゆざわジオパーク対象地域には漸新世~中期中新世の火山砕屑岩類“グリーンタフ”と鮮新世に巨大カルデラを形成した火山噴出物、それを覆う更新世火山岩類が広く分布する(湯沢市の全面積の約80%)。地質図幅が発刊された1980年代以前は、火山岩類の放射年代値がほとんどなく、野外観察による層位関係から間接的に噴出時代を推定していた。市民から「あの山の火山岩はいつ噴出したの?この山とどちらが古い?」「この地層は〇〇と同じ時代の地層?どうして名前が違う?」と素朴な質問があった。

ゆざわジオパーク活動において、ジオストーリーやジオサイトに地球科学的な説明を肉付けする必要がある事から、統一した地層名、放射年代値による火山砕屑岩の噴出時代、視覚的に統一されたシームレス地質図とその解説書が必要となった。

2017年度の湯沢市補助金、および2018-2019年度の湯沢市ジオパーク推進協議会の委託事業として
「統合シームレス地質図および地質説明書作成」を著者らが受託した。事業の進め方は次の通りであった。

①公表文献・各種研究報告の調査・収集  ②代表的なルートの野外調査と化石・岩石採集
③男鹿半島に準じた総合的地質層序の構築  ④専門家による化石の鑑定とその解釈
⑤火山砕屑岩類の放射年代値の収集     ⑥各種データの整理とコンパイル

上記の情報と図幅に記載されている事項、岩相の変化、堆積環境などを詳しく読み込み、同一の地質年代の地層をまとめ、統一した地層名を付した。統合された地層や岩相・火山岩類の分布域は、地質図幅の記載に基づいてトレースし、同一の色調で表現した。また、旧地層名のイニシャルを記して地質図幅の地層と対比出来るように配慮した。完成したシームレス地質図は、B0版(幅1030㎜、縦1456㎜)の大きさで、226頁の報告書と多数の添付資料が添えられた。調査は2020年3月終了した。

この一連の作業で集められた情報は膨大である。例えば、火山砕屑岩類の放射年代値は、合計248点に達し、白亜紀の花崗岩類から第四紀更新世の火山岩類まで網羅している。湯沢市南東域では地熱開発で掘削された探査井が約120坑あり、熱水の起源、温泉の泉質、岩石の変質、物理探査データなどがNEDO地熱報告書として公表されている。これらのデータは、鮮新世の巨大な三途川カルデラの形成史などを解明する貴重な地下地質情報でもある。

地表地質・化石調査では、岩石と化石標本の収集に努め、ジオスタ☆ゆざわ(湯沢市郷土学習資料展示施設)の展示資料として充実を図った。また、この事業で次のような学術的な成果も得られた。

①雪国の地から亜熱帯性気候を示す中期中新世の示相貝化石ノトキンチャクの新産地を発見した。
②新しい植物化石の産地の発見と鮮新世の植生の変遷解明に寄与できる化石を採集した。
③後期中新世とされた院内凝灰岩は、鮮新世の3回の噴出物(5.8Ma、4.7-3.5Ma、3.4-3.2Ma)である。
④巨大カルデラを形成した虎毛山層は6.1-5.7Ma、4.8-3.7Ma、3.5-2.8Maの火山砕屑岩類からなる。
⑤三途川植物化石を産する湖成相の三途川層は、虎毛山層や海成相の船川層と同時異相である。
⑥“グリーンタフ“は漸新世(33Ma)の湯ノ沢川層から始まり、漸新世後期~前期中新世(26.3-20.0Ma)の飯沢層、および前期中新世(20.0Ma-16.5Ma)の畑村層で構成される。

世界ジオパークを目指すゆざわジオパークにとって、この地質図幅の統合・再編集事業は、ジオパーク活動の基礎資料作成であり、次のステップに進む基盤整備事業であった。

文献
5万分の1地質図幅:大沢ほか1961「羽前金山」、1979「湯沢」、1979「浅舞」、地質調査所
5万分の1地質図幅:臼田ほか1979「横手」、1981「稲庭」、1982「秋ノ宮・栗駒山」、秋田県
高島ほか(1999)岩鉱94巻1-10、KONDO H. et.al(2004)Island Are.vol.13,p.18-46、 他94編