17:15 〜 18:30
[O02-P21] 新たな見どころかつてのプレート境界と住民とのかかわり、特に看板制作過程について
キーワード:かつてのプレート境界、看板製作
アポイ岳ジオパークは、北海道日高山脈南端に位置する様似町全域をエリアとするユネスコ世界ジオパークである。ジオパークの名前になっているアポイ岳は、町東部にそびえる標高810mの山で、山全体が上部マントル由来のかんらん岩でできている。始新世にユーラシアプレートと北米プレートが衝突(Kimura, 1996 ; Arita et al. 1993ほか)、前期中新世には太平洋プレートの斜め沈み込みにより北米プレート南縁の千島弧が西進し衝上し、日高山脈の形成が始まった。1,300万年前頃(宮坂ほか, 1986)には地下50-60kmの上部マントルに由来するアポイ岳も地表に露出したと言われている(新井田, 1999)。アポイ岳ジオパークの特徴な地質現象は、プレート衝突である。
昨年、学術顧問と地域住民が共同で行った学術調査が進み、プレート衝突の現場である「かつてのプレート境界」の場所が確定した。新しい見どころの1つにしてほしいという要望があることから、整備を進めている。しかし、かつてのプレート境界は見ただけでは価値が伝わりづらく、見どころが伝わるように活用する方法の検討が必要である。この問題を解決するために、次の3点を工夫することにした。
まず、(1)見どころの見せかたについて、地域住民や学術顧問、ガイドと現地観察会を通して話し合いを行った。看板で伝えたいことは2つで、昆布漁と地形のかかわり。小学生が大人と一緒に看板を見た時に、プレート境界を見ながら、北半球を覆う巨大プレートが衝突した場所であると実感してもらえることであった。次に、どのように伝えるかについては、ハード面(看板)、ソフト面(講座やツアーの実施方法、小道具)、みどころの台帳(見どころの設定経緯をはじめとする記録)、見せ方の工夫(楽しみ方、見てほしいものの選択、効果的な図や写真の選択、ルール決め、地質図の活用、もっと知りたいと思わせる工夫)などを検討した。(2)波及効果を意識するために、地域住民とともに地質遺産以外の遺産の把握を行った。暮らしの様子、歴史、植物をはじめとする生態系、トンネル掘削史、先住民族アイヌの人々、危険箇所に関する資料・情報を収集した。見学ルールについて利害関係者と確認を行った。また、地域住民とともに地質調査を行った。(3)人々とのかかわりについては、次のとおり地形と特産の昆布とのつながりに関する新たなジオストーリーをまとめた。かつてのプレート境界は、海岸に位置し自然にできた深い溝地形をなす。この溝は地域の人々が「おおま」と呼ぶ場所であり、陸近くでも沖で採漁した昆布をのせた磯船がつけられるほど水深が深いことから、昆布水揚げが行われる場所として利用されてきた場所である。
本発表では、かつてのプレート境界と住民がどう付き合ってきたのか、看板制作を通した住民とのかかわりに関する例を紹介し、どのように看板と見どころを活用していくのか議論したい。今後の課題は、周辺の見どころを含めた見せ方の提案、ジオパーク全体のサイト再設計であるので、この点も含めた活用方法も検討したい。
参考文献
Arita, K., Shingu, H., and Itaya, T.(1993)K-Ar geochronological constraints on tectonics and exhumation of the Hidaka metamorphic belt, Hokkaido, northern Japan. Jour. Mineral. Petrol. Econ. Geol. / Ganko, 88.3, 101-113.
Kimura, G(1996)Collision orogeny at arc‐arc junctions in the Japanese Islands. Island arc, 262-275.
宮坂省吾・保柳康一・渡辺寧・松井愈(1986)礫岩組成から見た中央北海道の後期新生代山地形形成史, 地団研専報告, 31, 285-294.
新井田清信(1999)日高山脈:島弧深部でできた岩石, 北海道大学総合博物館学術資料展示解説書「北の大地が海洋と出会うところ-アイランド・アーク-」
昨年、学術顧問と地域住民が共同で行った学術調査が進み、プレート衝突の現場である「かつてのプレート境界」の場所が確定した。新しい見どころの1つにしてほしいという要望があることから、整備を進めている。しかし、かつてのプレート境界は見ただけでは価値が伝わりづらく、見どころが伝わるように活用する方法の検討が必要である。この問題を解決するために、次の3点を工夫することにした。
まず、(1)見どころの見せかたについて、地域住民や学術顧問、ガイドと現地観察会を通して話し合いを行った。看板で伝えたいことは2つで、昆布漁と地形のかかわり。小学生が大人と一緒に看板を見た時に、プレート境界を見ながら、北半球を覆う巨大プレートが衝突した場所であると実感してもらえることであった。次に、どのように伝えるかについては、ハード面(看板)、ソフト面(講座やツアーの実施方法、小道具)、みどころの台帳(見どころの設定経緯をはじめとする記録)、見せ方の工夫(楽しみ方、見てほしいものの選択、効果的な図や写真の選択、ルール決め、地質図の活用、もっと知りたいと思わせる工夫)などを検討した。(2)波及効果を意識するために、地域住民とともに地質遺産以外の遺産の把握を行った。暮らしの様子、歴史、植物をはじめとする生態系、トンネル掘削史、先住民族アイヌの人々、危険箇所に関する資料・情報を収集した。見学ルールについて利害関係者と確認を行った。また、地域住民とともに地質調査を行った。(3)人々とのかかわりについては、次のとおり地形と特産の昆布とのつながりに関する新たなジオストーリーをまとめた。かつてのプレート境界は、海岸に位置し自然にできた深い溝地形をなす。この溝は地域の人々が「おおま」と呼ぶ場所であり、陸近くでも沖で採漁した昆布をのせた磯船がつけられるほど水深が深いことから、昆布水揚げが行われる場所として利用されてきた場所である。
本発表では、かつてのプレート境界と住民がどう付き合ってきたのか、看板制作を通した住民とのかかわりに関する例を紹介し、どのように看板と見どころを活用していくのか議論したい。今後の課題は、周辺の見どころを含めた見せ方の提案、ジオパーク全体のサイト再設計であるので、この点も含めた活用方法も検討したい。
参考文献
Arita, K., Shingu, H., and Itaya, T.(1993)K-Ar geochronological constraints on tectonics and exhumation of the Hidaka metamorphic belt, Hokkaido, northern Japan. Jour. Mineral. Petrol. Econ. Geol. / Ganko, 88.3, 101-113.
Kimura, G(1996)Collision orogeny at arc‐arc junctions in the Japanese Islands. Island arc, 262-275.
宮坂省吾・保柳康一・渡辺寧・松井愈(1986)礫岩組成から見た中央北海道の後期新生代山地形形成史, 地団研専報告, 31, 285-294.
新井田清信(1999)日高山脈:島弧深部でできた岩石, 北海道大学総合博物館学術資料展示解説書「北の大地が海洋と出会うところ-アイランド・アーク-」