日本地球惑星科学連合2021年大会

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[O-03] 変化する気候下での強風・豪雨災害にどう取り組むか

2021年6月6日(日) 10:45 〜 12:15 Ch.02 (Zoom会場02)

コンビーナ:松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境学域)、和田 章(東京工業大学)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、座長:和田 章(東京工業大学)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境学域)

11:30 〜 11:45

[O03-10] 強風・高潮を起因とする火災について

★招待講演

*廣井 悠1 (1.東京大学)

キーワード:火災、台風、高潮

1.はじめに

 わが国ではこれまで,主に強風時もしくは地震時を想定して都市大火の研究や対策を講ずるケースが多かった.そして近年では,公設消防の常備化率の向上もあいまって,平常時の都市大火は1976年の酒田大火を最後に大規模なものは発生しておらず,大規模な都市大火は地震時を前提として考えることが多くなってきた.しかしながら,2011年3月に発生した東日本大震災は,地震火災398件のうち約4割が津波に起因する「津波火災」であることが判明し,また2018年9 月に近畿地方を襲った台風21 号では,高潮が原因となって発生する「高潮火災」が多数発生した.これらより,日本火災学会では地震時のみならず,自然災害全般を起因として発生する火災について,近年研究を進めている.

このような背景のもと,本稿では2018年台風21号と2019年房総半島台風を具体的事例として,台風に伴う高潮や停電後の復電を原因とする火災に関する概要を報告したい.



2.2018年台風21号に関連して発生した火災

2018年9月4日に襲来した台風21号は近畿地方を中心として多くの被害をもたらしたが,高潮や浸水,停電後の復電を原因とする火災も数多く発生している.日本火災学会・地震火災専門委員会(主査:北後明彦,幹事:廣井悠)ではこれをうけ,2020年1月に大阪湾岸に位置する消防本部のうち3本部(神戸市消防局,大阪市消防局,泉州南消防組合)に対して,火災種別や出火原因,消防活動など詳細なヒアリング調査を行うことで,その概要を把握することとした.その結果,2018年台風21号に起因する火災は,この3消防本部だけでも38件の火災が発生していることが明らかとなった(大阪市消防局管内:15件,泉州南広域消防組合管内:3件,神戸市消防局管内:20件).これら38件の火災種別は車両火災16件,建物火災13件,その他火災9件であり,車両火災が非常に多い.また,火災発生日時は,台風が兵庫県に上陸した9月4日に22件,翌9月5日に7件,9月6日以降に計7件となっている.その他,台風通過の13日後である9月17日に1件,また14日後の9月18日に2件のそれぞれ車両火災が発生している.これら3件の火元である自動車は,いずれも台風の高潮により浸水していたことも分かった.なお出火原因の内訳は,電気配線類が42%,電気配線類(自動車)が39%となっており,またマグネシウム混合物の浸水による火災が1件発生している.



3.2019年房総半島台風に関連して発生した火災
2019年9月5日に発生した令和元年房総半島台風(台風第15号,Faxai)は関東地方に記録的な暴風をもたらした。この台風に伴って発生した火災については,通電火災とみられる火災が千葉県で相次いでいるというメディアの報道が相次いでいた。これをうけ,日本火災学会・地震火災専門委員会は,市原市消防局にヒアリング調査を行い,市原市消防局管内で令和元年房総半島台風直後に発生した火災について,その詳細を聞き取りした。聞き取り項目は,これまで同専門委員会が行った2018年台風21号などと同様となる。結果として市原市消防局管内では,9月9日の0:00から9月14日の0:00まで発生した火災は6件あったが,うち1件は台風とは全く関係のない車両火災であった。このため,本ヒアリングではこの1件を除いた計5件について詳細を聞き取っている。なおこの5件の火災による人的被害はなかったという。さて上記より,令和元年房総半島台風に伴う火災は市原市で5件発生していることが判明したが,これらのうち,報道にあったような通電に伴う火災は1件(ただし家屋の台風被害を伴わない)と見なせ,通電火災の可能性があるものとしてもう1件が追加される(ただし出火時は完全に送電が停止していた)ことが分かった。ただし復電時ではないものの,停電に伴うヒューマンエラーを含め,残りの3件の火災は台風被害に伴う電気火災である.この他,風水害時に入電が集中し,通報することができなかったなどの影響が聞き取りされた.