日本地球惑星科学連合2021年大会

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[O-04] GIGAスクールと地球惑星科学教育:オンライン授業からの示唆

2021年6月6日(日) 10:45 〜 12:15 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:飯田 和也(駒場東邦中学高等学校)、岩田 真(広島県立大柿高等学校)、宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)、秋本 弘章(獨協大学経済学部)、座長:秋本 弘章(獨協大学経済学部)、浦中 翔(大阪工業大学大学院)、宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)、飯田 和也(駒場東邦中学高等学校)

11:00 〜 11:15

[O04-08] 高校「地学基礎」における神奈川版「教室で行う野外実習教材」の開発
―生田緑地の地層を用いて―

★招待講演

*藤原 靖1、河潟 俊吾2 (1.横浜国立大学大学院教育学研究科、2.横浜国立大学教育学部)

キーワード:デジタル教材、地学領域を専門としない教員、体験的な学習、地域地質、フィールドワーク、実物の堆積物試料

Ⅰ.はじめに
全国的に地学領域を専門とする高校理科教員が不足しているため、地学領域を専門としない教員が「地学基礎」の授業を担当していることが多い。全国の「地学基礎」担当者を対象にしたアンケートからは、地学領域を専門としない教員にとって、2022年高校入学者から適応される学習指導要領の「地学基礎」の中で小項目「古生物の変遷と地球環境」が最も指導困難な学習内容であることが見えてきた。また、この学習指導要領の高校理科では観察、実験、野外観察などの「体験的な学習」が重視されることにより、地学領域を専門としない教員には、さらに指導が困難になると考えられる。

Ⅱ.目的
地学領域を専門としない教員が神奈川県を素材とし、地学に関する実験器具等が充実していない高校でも、小項目「古生物の変遷と地球環境」を「体験的な学習」を通して指導できることを目標に、この小項目を中心としたデジタル実習教材と実物実習教材を開発した。

Ⅲ.研究の対象:生田緑地枡形山(川崎市多摩区枡形)
神奈川県は、上総層群などの海成層の上に関東ローム層や箱根火山岩類などの陸成層が堆積している。川崎市多摩区の生田緑地枡形山では、貝化石や有孔虫化石を含む上総層群飯室層(海成層)に相模層群おし沼砂礫層(海成層)が不整合に重なり、おし沼砂礫層に広域テフラを含む関東ローム層(陸成層)が整合に重なっており、いずれも第四紀層である。ここでは、約1kmの周回コース内で、神奈川県の成り立ちと重ね合わせて学習することができる。

Ⅳ.開発した教材
生田緑地の地層を用いた、教室で行う野外実習デジタル教材「生田緑地フィールドワーク」と、生田緑地の地層と同一の他地域の試料を用いた、デジタル教材も併用した実物実習教材「有孔虫化石の観察」、「広域テフラ中の鉱物の観察」の3点を開発した。
それぞれの実習教材は、「実習プリント(生徒用ワークシート)」、「タブレット端末,スマートフォン等で操作する生徒用デジタル教材」、「プロジェクター等で表示する授業進行用(教員用)資料」、「教員用補足資料」、「実物の堆積物試料」からなる。

(1)教室で行う野外実習デジタル教材「生田緑地フィールドワーク」
6つの露頭の、360°カメラ(RICOH THETA V)による空間的な全天球画像とデジタル一眼レフカメラ等による詳細な画像と、かわさき宙と緑の科学館ボーリング試料画像を自分で任意の方向に動かしたり、拡大して観察をする。各露頭の地層名とその特徴をまとめるともに、柱状図を作成し、生田緑地の大地を考察する。1~2授業時間での実施を想定している。

(2)実物実習教材「有孔虫化石の観察」
上総層群飯室層からお茶パックなどの安価な道具により有孔虫化石を短時間で摘出する。デジタル教材「有孔虫検索カード」「有孔虫辞典」を用いて、同定・分類を行う。クラス全体の観察結果から、試料の堆積環境と堆積年代を考察する。2授業時間での実施を想定している。

(3)実物実習教材「広域テフラ中の鉱物の観察」
広域テフラ「箱根東京テフラ(Hk-TP)」または「御岳第一テフラ(On-Pm1)」からお茶パックなどの安価な道具により鉱物を短時間で摘出する。デジタル教材「鉱物検索カード」を用いて、分類・同定を行い、どのようなマグマの起源であるかを考察する。1授業時間での実施を想定している。

Ⅴ.まとめ
地学領域を専門としない高校理科教員が、地域素材を用いて体験的な学習を通して指導できる「地学基礎」実習教材を開発した。
生田緑地の地層及び同一の他地域の試料を3つの教材で用いることで、神奈川県の共通の大地の成り立ちと合わせて、空間的な広がりや関連性を持って学ぶことができ、理解を深められる。
生徒用のデジタル教材は、生徒1人ひとりが操作可能なものである。教材「生田緑地フィールドワーク」は、普通教室(HR教室)で、露頭全体の大きさや地層の広がりに対する実感を疑似的に体験する新しい「野外観察授業」の代替教材となった。教材「有孔虫化石の観察」と教材「広域テフラ中の鉱物の観察」は、低コストかつ短時間で堆積物から対象物を摘出する。化石や鉱物の同定・分類作業では、デジタル教材を用いることで、指導する教員の負担を減らすとともに、生徒たち自らの観察と考察に時間をかけられるようにした。教材「有孔虫化石の観察」と教材「広域テフラ中の鉱物の観察」の先行事例ではそれぞれ3授業時間、2授業時間を要したの対して、本研究で開発した教材ではそれぞれ1授業時間の短縮で行える。化石から地層の堆積年代を推定する高校の授業実践はなく、教材「有孔虫化石の観察」では堆積年代までを考察する新規性のある教材となった。
開発した教材は、希望する学校への配付を行うとともに、教材についての研修を実施していく。

附記 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 奨励研究19H00113, 20H00788の助成を受けたものである。お茶パックによる堆積物処理法については、戸川砥(秦野産砥石)保存・普及チーム 藤本節男代表が考案したものを、同 奨励研究24909014の助成、財団法人 武田科学振興財団 2012年度 高等学校理科 教育振興奨励を受け、神奈川県立相模原青陵高等学校 地球惑星科学部と神奈川県立向の岡工業高等学校 定時制・総合学科 地球惑星科学部が、相模原市立相武台中学校、神奈川県立青少年センター科学部の協力を得て発展させた手法を用いている。