日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-05] 博士ってどうやったらなれるの?どんな仕事があるの?

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:阿部 なつ江(国立研究開発法人海洋研究開発機構研究プラットフォーム運用開発部門マントル掘削プロモーション室)、堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、座長:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、新井 真由美(日本科学未来館)、阿部 なつ江(国立研究開発法人海洋研究開発機構研究プラットフォーム運用開発部門マントル掘削プロモーション室)、小口 千明(埼玉大学大学院理工学研究科)

13:50 〜 14:05

[O05-02] なぜ博士号は必要なの?

★招待講演

*真鍋 真1 (1.国立科学博物館)

キーワード:古脊椎動物学、恐竜、博士号、大学院

私は、中生代の恐竜や爬虫類化石など、脊椎動物化石を研究対象としています。私のような分野の研究者は、大学だと理学部や教育学部に所属している方が多いので、学生は理学部、教育学部へ進学することが一般的ですが、私は獣医学部に進学することも選択肢として紹介しています。それは、脊椎動物化石の研究者が、医学部や獣医学部に所属して解剖学や形態学の授業や実習を担当していることがあるためです。私は1990年代にイギリスで脊椎動物化石の研究で博士号を取得したのですが、同じころに博士号を取得した同窓生たちは、その後、大学や博物館の研究部に就職した人もいれば、企業で調査や分析の仕事をしたり、出版社で科学の本の編集をしたり、テレビやラジオの自然科学番組制作に携わっている人もいます。
大学院生という時間は研究者人生の最初の、ごくわずかな期間でしかありません。博士課程とは、自分で研究をして、それを論文にするという、研究者の仕事の研修期間と表現しても良いかもしれません。学会誌に論文を投稿する場合に、博士号などの資格を求められることはありません。投稿された論文の内容だけが審査されるので、研究機関に所属していなくても、大学を卒業していない人でも、公平に扱われるところが学問の世界の良いところです。では、なぜ博士号を取得しなくてはならないのでしょうか。
私が中高生だった頃、私自身が博士や研究者を意識したことはありませんでした。のんびりとした雰囲気の都立高校に通っていたので、教育学部に進学して、都立高校の先生になることを考えていました。東京生まれの東京育ちだったので、旅行が好きで、地理や地学を専門とすれば、調査研究の名目でいろいろなところに旅行できるのではないかという不純な動機で、教育学部の地学科に入学しました。卒業研究で埼玉県の両神山などの地質調査をして、コノドント類や放散虫のような顕微鏡サイズの小さな化石から、中生代の海底に堆積した岩石で出来ていることがわかりつつありました。大学在学中に1年間くらい英語圏に留学したいと思っていたのですが、奨学金の試験に通って、4年生の1年間、コノドント類を研究している著名な教授がいらっしゃるカナダの大学に留学することが出来ました。同じ海でつながっていたロッキー山脈でも、日本と同じような微化石が発見されていて、海外の学生や研究者と専門の話が出来ることが嬉しく、サイエンスに国境がないことを実感しました。そこで、大学院に進学してもう少し勉強してみたいと思い始めたのですが、その後の就職などのことを考えると、大学院進学にはあまり魅力を感じられませんでした。同じカナダの大学に、数学のポスドク研究員として来ていた日本人の方に「数学で博士号をとっても就職口が少なさそうですが、大学院に進学する時に不安はありませんでしたか?」とお聞きしてみました。その方は「大学院を修了して、数学が続けられなくなったら、それは自分の第一の人生が終わったと考えて、第二の人生は別のことを始めれば良いと思っていた。それよりも、好きな数学を大学院の5年間勉強することが出来たら、それで十分だと思っていた」とおっしゃいました。私もあと2、3年、勉強を続けてみようと思って、大学院に進学しました。日、米、英と渡り歩いて、やっと博士号までたどり着いて、その後、運良く研究職に就けたので、現在も好きなことを続けられています。私はかなり運が良い方だと思います。
私は、皆さんに大学院に進学して、まず修士課程、そしてさらに続けたい、自分には研究が向いていると思ったら、博士課程に進学することをお勧めしています。どんなに豊富な知識を持っていても、強い情熱を持っていても、それだけでは研究者という適性を示しているわけではありません。しかし、そのテーマについて考えること、調べること、そしてそれを論文として発表するまでのプロセスが好きで、得意であるかどうかは、実際にやってみないとわかりません。上で紹介した数学者の言葉に、私はその後の人生でも何度も助けられました。大学院生の時、そしてその後の研究者人生においても、思い通りに研究が進まなくて、嫌になることが何回もありました。でもこんなことで諦めたら、自分の第一の人生は後悔しかなくなってしまうと思うと、頑張ることが出来たように思います。博士号を取得した後で、自分がその分野に将来性を感じなくなるかもしれません。全く別のことに興味を持つようになるかもしれません。そんな時でも、あなたの博士課程での経験は、新しい分野に挑戦することの背中を押してくれるはずです。 写真:与古田松市