日本地球惑星科学連合2021年大会

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[O-06] 「東日本大震災復興10年」を語ろう

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.02 (Zoom会場02)

コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、林 衛(富山大学人間発達科学部)、淺野 哲彦(専修大学松戸中学校・高等学校)、座長:林 衛(富山大学人間発達科学部)、淺野 哲彦(千葉県立船橋啓明高等学校)、中井 仁(小淵沢総合研究施設)

14:15 〜 14:45

[O06-02] 東日本大震災からの復興における課題と教訓 -宮城からの報告-

★招待講演

*遠州 尋美

キーワード:震災復興、創造的復興、被災者分断、人間の復興、災害ケースマネジメント

1 『「宮城県震災復興計画」の検証』(宮城県,2020年3月)から読み取れるもの

 宮城県は2020年3月に県の震災復興計画の検証結果を公表した。阪神・淡路大震災の10年後に兵庫県が専門家を委嘱して実施した詳細な10年検証と比較しておざなりなものに過ぎないが,宮城県における震災復興の現状の一端を読み取ることができる。

 公表された検証は,震災復興計画に盛り込んだ7分野24項目の達成状況を測定する指標を定め,その進捗率に基づいて評価・検証するという組み立てになっており,その2020年度末達成度(見込み)を以下の4段階で評価している。すなわち「A:達成確実」「B:達成度80%以上」「C:達成度80%未満」「N:測定不能」である。なお,復旧期と呼んだ当初の3年間で役割を終えたものが1項目含まれる。Aの中には実績が目標に達していないものも含まれるが,実績値は2018年度末のため,2020年度末までには確実に達成可能と判断したものであろう。

 以下,それから読み取れる要点を記す。

① 検証指標の選定が恣意的で,被災者の生活再建の達成状況を正しく把握できる指標がない。

② 目標達成が確実とされたものは,県や市町が自らコントロールでき,ハード事業に偏り,ソフト事業でも人員配置や研修参加者が指標。

③ 達成が困難なのは,主体が民間事業者や被災者を含み,県,市町のコントロールが及ばないもの。

④ 生業再建の遅れ。「仮設店舗から本設店舗への事業者移行率」「観光客入込数」「林業産出額」「水産加工品出荷額」などが未達成。

⑤ 農業復興では大規模経営と企業的農業の導入を意図したが,「被災地域における先進的園芸経営体(法人)数」「効率的・安定的農業経営を営む担い手への農地利用集積率」が目標値を大きく及ばない。

⑥ 被災者の雇用の回復は検証不能。唯一被災者に特定された「基金事業における新規雇用者数(震災後)」は,短期の臨時雇用で,2016年度廃止。

⑦ 防潮堤建設,特に津波対策のための河川堤防の改良新設の遅れ。ハコモノ偏重による資材・人件費の高騰・不足が事業費の膨張と事業遅延の元凶となった。

2 宮城県の総括に現れない在宅被災者問題とコミュニティ形成の困難

 在宅被災者は石巻で公式に685世帯確認したが,固定資産税減免世帯数から,仙台市においても,1万世帯を超える可能性がある。

 また,石巻,気仙沼などの離半島部で建設された小規模防集団地入居者は従前集落居住世帯の3分の1以下に止まり,コミュニティ形成は不可能で,限界集落化は避けられない。災害公営住宅居住者の高齢化・窮乏化も深刻で,コミュニティの形成・維持が町内会役員らの負担となっている。

3 村井知事の傍若無人に屈して惨事便乗を招いた復興構想会議

 災害救助法は,知事を災害救助の主体と位置付け,知事の姿勢が復興のあり方を決定的に左右する。復興の基本方向を定めた復興構想会議復興構想会議の提言には「被災者」という単語が欠如指定など重大な弱点があったが,水産業特区を認めなければ委員をやめるという村井宮城県知事の恫喝に屈したことはその象徴的出来事だった。

 村井知事の下で,宮城県の復興プロセスの特徴は次の3点に整理できる。第一に,被災者の生活再建が軽視され,惨事便乗型巨大土木開発が遂行された。第二に,コミュニティと自治の破壊が進み,そして第三に,「創造的復興」という名の新自由主義的構造改革が強行された。「人間の復興」が置き去りにされ,事業プロセスで被災者の選別と分断を生んだのである。

4 大震災が残したもの

1)受け継ぐべきもの

 その中でも,復興の現場では,被災者の生活再建に向けた様々な取り組みがなされた。阪神・大震災の復興が,被災者生活再建支援法を残したことに匹敵する成果を私たちは残し得たであろうか。その候補となりうるものを列記する。① 災害ケースマネジメントの展開,② 中小企業等グループ補助金,③ 被災者台帳と避難行動要支援者台帳整備義務付け,④ 被災者生活再建支援金支給を中規模半壊に拡大, ⑤ 応急修理中の仮設住宅入居の解禁,⑥ みなし仮設住宅,木造仮設住宅の活用, ⑦ 被災者支援総合交付金創設。

2)大震災復興の負の遺産

 反面,将来に向けた懸念も生んだ。

① 浸水シミュレーションの恣意的利用:通常の頻度の津波は水際で阻止する前提で防潮堤整備をしながら,最大級の津波を想定したシミュレーションで,惨事便乗開発に誘導した。

② 大震災特例と復興特区で巨大土地区画整理を推進:大規模な先買いと市街化調整区域での土地区画整理を可能とし,被災者や地権者の意向を封じ込めて巨大土地区画整理が展開された。

③ 事前防災のために防災集団移転促進事業要件緩和:中山間地の集落解体・集約化手段に転化する危険。

おわりに
 復興まちづくりの検証と総括は将来のまちづくり制度全般を考える上で極めて重要である。それによって,被災者を分断し対⽴を強いる災害復興システムをいかにして克服できるかが問われている。