日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

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[O-07] 高校生ポスター発表

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.27

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O07-P14] 令和元年東日本台風の高潮による鮫島海岸の微地形の変化

*戸塚 剛志1、髙橋 邑弥1、*有村 航輔1、鈴木 洸希1、市川 舜1、加藤 来歩1 (1.静岡県立磐田南高等学校)

キーワード:鮫島海岸、令和元年東日本台風、水準測量、粒度分析、トレンチ調査

§1.動機・目的

本校地学部は,磐田市鮫島海岸(図1)にて定期測量を行っている.2019年10月17日の調査では,前回の調査と比較して変化が顕著であった.この原因と詳細を明らかにするために本研究を行った.



§2.仮説

同月12日に令和元年東日本台風(以下,東日本台風)が静岡県東部を通過した.この台風の影響により,広い範囲で記録的な大雨となった(気象庁,2019).そこで,鮫島海岸の微地形の変化は東日本台風の高潮によるという仮説を立てた.



§3.方法

3-1.気象観測による台風の勢力の比較

2019年に静岡県に接近した3つの台風の通過前後24時間の平均風速,平均気圧,総雨量の比較を行った.気象観測記録は本校に設置されている風速計,気圧計,雨量計の記録を用いた.



3-2.空撮による台風通過前後の微地形の比較

東日本台風の通過前後の微地形の変化を確認するために,ドローンを用いて2019年11月2日に空撮を行った.ただし,東日本台風の通過前の空中写真は,Google Earthの衛星写真(同年1月14日撮影)を用いた.海岸入口の東側と西側でそれぞれ撮影を行った.



3-3.水準測量による鮫島海岸の地形断面積変化

2019年8月から2020年6月までに水準測量を7回実施した.その結果をもとに測線方向の海岸断面図を作成して,東日本台風前後の微地形の変化を確認した.測量は,本校が定期測量を行っている海岸入口より東500mの場所と,西150mの場所を対象とした.また,海岸断面図の作成には表計算ソフト「Excel」と数学ソフト「Cinderella」を使用した.



3-4.鉱物分析

堆積作用が顕著であった西側内陸の砂の起源を調査するために,3-4で採取した砂を方眼紙に均一に散らし、1cmあたりの鉱物の数を双眼実体顕微鏡を用いて数えた.偏りが出ないように複数人で実施して,平均鉱物組成を比較した.



3-5.粒度分析法を用いた砂の平均粒径の比較

海岸の砂を採取し,ふるいを用いて南北方向と東西方向の粒径の違いを検討した.採取地点は鮫島海岸入口より西側約150m付近を対象とし,南北方向の測線に沿って10mごとに試料を採取した.東西方向は海岸から105m(C地点),115 m(B地点),125m(A地点)より東西に50m離れた場所までを10mごとにそれぞれ採取した.



3-6.トレンチ掘削調査

トレンチを掘削し,掘削断面で見られた堆積物をスケッチすることで,堆積構造から微地形の変化の要因を検討した.掘削地点は鮫島海岸入口より西側の防風林の中で,幅1.5m,奥行1.5m,深さ0.7mの溝を掘削した.



§4.結果と考察

4-1.気象観測による台風の勢力の比較

東日本台風は平均風速,平均気圧,総雨量の全てが大きい台風であることがわかった.また,東日本台風より勢力の強い台風や低気圧は他になかった.したがって,大きな勢力のまま鮫島海岸に接近して,海岸が浸食されたと考えられる.



4-2.空撮による台風通過前後の微地形の比較

東日本台風前後を比較すると,防風林と遊歩道の破壊の様子が顕著である(図2,3).一方,内陸側の変化が見られないことから,海側から浸食作用を受けたと考えられる.



4-3.水準測量による鮫島海岸の地形断面積変化

東日本台風通過後に断面積が約82.65m2減少していた.さらに,通過前後の海岸断面図を比較すると,遊歩道から南へ約12mの地点まで波が押し寄せて砂を浸食したと考えられる(図4).一方,西側は海側が削られ,陸側に堆積がみられた(図5).



4-4.鉱物分析

陸側の砂(100m地点)と海岸線側の砂(0m地点)の鉱物組成を比較した結果,石英,長石,岩片,有色鉱物の割合が似た傾向となった(図6).したがって,海岸線側の砂が100m地点まで運ばれて堆積したと考えられる.



4-5.粒度分析法を用いた砂の平均粒径の比較

南北方向の平均粒径を比較すると,海岸から離れるほど砂が細かくなる傾向がある(図7).一方,海岸線に平行なA~C地点を含む東西の平均粒径に大きな変化はみられなかった.B・C地点も同様の傾向がみられた.細かい砂ほど遠くに運ばれるため,波が海岸線に対してほぼ垂直に進行し,砂が各地点に堆積したと考えられる.



4-6.トレンチ掘削調査

トレンチ壁面の地層をスケッチし,断面図を作成した(図8).最下部は防風林の根が張った褐色の腐食土層で,台風前の地形面である.その上位に新鮮な砂層が4層(厚さ約40cm)観察され,1層目は腐食土層の根を大きく巻き上げていた.また,上方の3層ではそれぞれに上方細粒化の傾向がみられる.さらに,ストーム堆積物の代表的な堆積構造である“ハンモック状斜交層理” (西村・横川,1991)と思われる構造もみられた.以上の結果から,この新鮮な砂層は高潮堆積物と判定できる.



§5.結論

令和元年東日本台風は大きな勢力のまま鮫島海岸に接近し,その高潮によって海側から砂が浸食作用を受けた.浸食された砂は内陸側に運搬されて,粒径の大きいものから堆積した.その際,堆積する際に,ハンモック状斜交層理や上方細粒化などの堆積構造を形成した.以上が,東日本台風の高潮による海岸浸食の一連の流れである.