日本地球惑星科学連合2021年大会

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[O-07] 高校生ポスター発表

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.27

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O07-P19] ヒートアイランド現象の対策 ~新しいビルシステムの提案~

*林 弘晃1 (1.横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校)

キーワード:ヒートアイランド現象、風の道、尿素

背景

最近ヒートアイランド現象が深刻化しており、都市に特有の環境問題として注目を集めている。ヒートアイランド現象の主原因として地表面被覆による人工化、都市形態の高密度化などが挙げられる。そのため地球温暖化の影響範囲は地球規模であることに対し、ヒートアイランド現象は都市部を中心に現れ、地球温暖化とは区別して考える必要がある。ヒートアイランド現象の対策として人工排熱の削減や海風を利用した風の道などが言われている。今回私は「風の道」に注目し、より効率よく風を利用して都市内部を冷却する方法を検討することとした。海風の届かない場所でも効率よく風を利用し、通常は害として問題となるビル風を効率よく冷却して利用するための環境に優しいビルの構造とシステムを新たに考案した。

方法と結果

1. 化学物質の吸熱反応を利用した冷却システムの設計:水に溶解すると吸熱反応を起こす比較的安全な化学物質として、(a) 硫酸アンモニウム(硫安)、(b) クエン酸、(c) 重曹、(d) 尿素を選び、濃度を変えて水(100cc、35℃)に溶解させ、温度低下の時間経過を比較した。(a) 5 mol溶解時、水温が24.5℃まで低下し、(b) 4 mol溶解時、19℃まで急速に低下した。(c) は、最大28℃までしか低下しなかった。(d)は、10 mol及び15 mol溶解時で12℃及び8℃まで低下した。4種類のうち(a), (b), (d)の冷却効果は高く、中でも (d) の冷却効果が最も高いことが分かった。そこで、相乗効果を期待して、(a) + (d) と(b) + (d)の2種類の混合物を水に溶かした。しかし、いずれも13℃前後まで低下しその差はなく、尿素単独と比較して期待した相乗効果は得られなかった。

2.壁と風速の関係:円柱型のビル模型を作成して、そのビルに側壁と前壁をつけることでビル下の風速は変化するのかを計測した。側壁を付けたビルは全体的に安定した風速が計測された。特に5~25 cm地点は全て平均風速2.0㎧を超えていた。側壁と前壁を付けたビルは5 cm地点の平均風速が3.0 ㎧を超えており、どの地点でも側壁のみのビルの平均風速の値を超えていることが判明した。

3. ビル風を利用した冷却システムの構築:側壁と前壁を持つ建物モデルを構築し,建物に風を当てて建物下の地表面温度を以下の3つの条件で測定した;(a) 建物のみ、(b) 23℃の水を入れたラジエーター、及び (c) 冷却した尿素水を入れたラジエーター。ラジエーターを通過する平均風速は1.2 ㎧であった。ラジエーターからの距離10cm、15㎝及び20㎝地点の地表面温度は、それぞれ (a) 39.7, 37.8及び35.7℃、(b) 38.0, 37.2 及び36.2℃であったのに対し、(c) 34.6, 35.1 及び35.2℃と、10 ㎝地点では約5℃、15 ㎝地点では約3℃低下した。20 cm地点の地表温度は、あまり差がなかった。尿素水を充填したラジエーターを使用した場合は、経時的な温度上昇が抑えられ、建物下の表面温度は15 cm地点までは冷却効果が得られた。

まとめと考察

ビル構造として、ビル表面に側壁と前壁を付けると、風がより集約することが判明した。また風の冷却水について、水への溶解で吸熱反応を起こす複数の化学物質について検討し、尿素の単独使用が、効率的で強い冷却効果が得られることが判明した。尿素は安全性の高い物質であり、皮膚クリーム及び肥料としても広く使用されており、ビルからの廃液をろ過した水に溶解させ、ビル風を冷却した後は濃度を薄めて植物の肥料とすることも環境に良いと思われた。ビルシステムを考案する上でビルからの廃液、下水中の尿から尿素を直接取り出すことができれば、さらに環境に良いと考える。人間は1日に約30gの尿素を放出すると言われており、尿から人工腎臓などで用いるダイアライザーなど透析膜による浸透圧尿素分離によって直接ろ過による尿素の回収を行う報告や、都市で直接人尿を地下浄化槽に貯留し回収する提案があり、今後ビルから排出された尿から尿素を抽出する方法を具体的に検討したい。風を集約させるために複雑なビル風の方向性をより詳細に検討し、効率的にビル風を集められるビル構造もさらに検討する必要がある。今回の実験では円柱型のビルに側壁と前壁を狭い範囲で一か所のみ付けたままで実験を行ったが、実現化に向けて、ビルにつける壁の範囲をより広くし、ビルの個数を複数にして都市のように密集させた状態で再び実験を行い、ビル風を利用した新たな「風の道」を構築してゆきたい。