13:45 〜 15:15
[O07-P27] 天井川の形成要因と形成過程の解明ー天井川はツチノコ型?ー
キーワード:天井川、扇状地、横断形、縦断形、平面形
【はじめに】
天井川とは「堤防内に多量の砂礫が堆積し,河床面が平野面より高くなった 河川(地学辞典改訂増補版,1981)」である。天井川の形成過程は,河川の横断形を用いて,「上流からの土砂供給量が多い河川に堤防を築いた結果,堤外地に大量の土砂が堆積する。そこで氾濫を防ぐために堤防を高くする。これらを繰り返した結果,河床が地面より高くなる」と説明されるのが一般的である(図1)。しかし,従来の説明では,河川の一部区間だけが天井川化することについて十分に説明することができない。
本研究では,「天井川の形態は地形面によって異なる」という仮説を立て,河床の横断形に加えて縦断形と平面形を分析することで, 天井川の形成要因と形成過程について明らかにすることを目指した。
【方法】
『国土地理院-日本の典型地形-天井川』などに記載がある河川のうち,地理院地図に地形分類図があり,ある程度正確なデータが計測可能な 13 河川を調査対象とした。地理院地図を用い,扇端~扇頂の距離,扇端~河口(合流点)の距離,河床と周辺地形の標高,堤防間の幅を計測した。また,これらのデータから,比高(河床と周辺地形の標高差),天井川区間の距離,天井川区間の上端,下端の位置,河床の勾配,堆積量を算出した。
【結果と考察】
斎藤・池田(1998)は,甲府盆地の天井川において河床勾配の急変点の前進を示している。我々はこのことが天井川において一般に成り立つと考えた。この論文に従い扇端を過去の勾配の急変点,天井川区間の下端を現在の勾配の急変点とし,得られたデータから天井川区間下端の位置を調べた。その結果,扇状地を有するすべての天井川で勾配の急変点が前進していることがわかった (図2)。
次に,扇端と天井川区間下端の距離との差を前進距離として,①天井川区間/(扇端~扇頂)と前進距離 /(扇端~扇頂),②天井川区間の河床勾配と前進距離/(扇端~扇頂)のそれぞれの相関を調べた。 前進距離を扇端から扇頂の距離で割ったのは,扇状地の規模の影響を除外するためである。①の相関係数は 0.93 となり,天井川化が進むにつれ勾配の急変点が前進することが確認できる。また,②の相関係数は-0.55 であり,勾配が緩やかになるように土砂が堆積することで,勾配の急変点が前進することが確認できる。つまり,勾配が緩やかになるように土砂が堆積していくにつれ勾配の急変点が前進し,天井川化することが分かった。また,天井川区間によって河床上昇にはばらつきがあることもわかった。
五十崎(1954),藤岡(1974),籠瀬(1975)は,それぞれの研究対象地域の天井川では,上流の川幅が広く下流の川幅が狭い,と述べている。我々はこのことを天井川全体で一般化できないかと考えた。そこで扇端を境に,一つの河川を扇端から天井川区間上端までの天井川上部,扇端から天井川区間下端までの天井川下部に分け,考察を進めた。
扇状地を有する 11 河川の天井川上部と下部でそれぞれ川幅の平均値をとった結果,7 河川において,上部の川幅平均値が下部の川幅平均値よりも大きくなっていた。次に,天井川上部と下部で,それぞれ川幅の最大値と最小値を読み取り,その最大値を最小値で割った比を河川ごとに求めた。その結果,上部の比は河川によってばらつきがあったのに対し,下部での比はすべての河川で約 1~2で一定となっており,9 河川で下部の比が上部の比よりも小さくなっていることが確認できた。よって扇状地を有する天井川においては,天井川上部の川幅のほうが広く下部の川幅のほうが狭い傾向があり,河川の川幅は下流になるにつれ広くなるという一般的傾向とは異なっている。この平面形は,下流を頭に上流に胴体をもつツチノコのような形をしている。この原因として,我々は扇状地と氾濫原では河川本来の挙動に違いがあるためだと考えた。扇状地では川の流勢が強く,治水がしにくい。氾濫原では流勢が比較的弱く,治水がしやすい。この一般事実から,天井川上部では破堤を防ぐため堤防間を広く築堤し,天井川下部では釜井(2020)で指摘されているように「堤内地の法面を利用して,川幅が狭くなる方向に築堤している」と考えられる。つまり,地形面の違いによって生じる河川の挙動の違いが築堤方法に影響を及ぼし,天井川の形態に違いをもたらすといえる(図3)。
【おわりに】
天井川がツチノコ型になるには,地形との関わりから,次の 2 つのことがいえる。①天井川の形成に伴い勾配の急変点が前進する。これは,河道がより安定化しようとするはたらきのためと考えられる。②天井川は人間が完全にその形態をコントロールしているのではなく,天井川の形成場所である扇状地や氾濫原といった地形面の違いが関わっている。
天井川とは「堤防内に多量の砂礫が堆積し,河床面が平野面より高くなった 河川(地学辞典改訂増補版,1981)」である。天井川の形成過程は,河川の横断形を用いて,「上流からの土砂供給量が多い河川に堤防を築いた結果,堤外地に大量の土砂が堆積する。そこで氾濫を防ぐために堤防を高くする。これらを繰り返した結果,河床が地面より高くなる」と説明されるのが一般的である(図1)。しかし,従来の説明では,河川の一部区間だけが天井川化することについて十分に説明することができない。
本研究では,「天井川の形態は地形面によって異なる」という仮説を立て,河床の横断形に加えて縦断形と平面形を分析することで, 天井川の形成要因と形成過程について明らかにすることを目指した。
【方法】
『国土地理院-日本の典型地形-天井川』などに記載がある河川のうち,地理院地図に地形分類図があり,ある程度正確なデータが計測可能な 13 河川を調査対象とした。地理院地図を用い,扇端~扇頂の距離,扇端~河口(合流点)の距離,河床と周辺地形の標高,堤防間の幅を計測した。また,これらのデータから,比高(河床と周辺地形の標高差),天井川区間の距離,天井川区間の上端,下端の位置,河床の勾配,堆積量を算出した。
【結果と考察】
斎藤・池田(1998)は,甲府盆地の天井川において河床勾配の急変点の前進を示している。我々はこのことが天井川において一般に成り立つと考えた。この論文に従い扇端を過去の勾配の急変点,天井川区間の下端を現在の勾配の急変点とし,得られたデータから天井川区間下端の位置を調べた。その結果,扇状地を有するすべての天井川で勾配の急変点が前進していることがわかった (図2)。
次に,扇端と天井川区間下端の距離との差を前進距離として,①天井川区間/(扇端~扇頂)と前進距離 /(扇端~扇頂),②天井川区間の河床勾配と前進距離/(扇端~扇頂)のそれぞれの相関を調べた。 前進距離を扇端から扇頂の距離で割ったのは,扇状地の規模の影響を除外するためである。①の相関係数は 0.93 となり,天井川化が進むにつれ勾配の急変点が前進することが確認できる。また,②の相関係数は-0.55 であり,勾配が緩やかになるように土砂が堆積することで,勾配の急変点が前進することが確認できる。つまり,勾配が緩やかになるように土砂が堆積していくにつれ勾配の急変点が前進し,天井川化することが分かった。また,天井川区間によって河床上昇にはばらつきがあることもわかった。
五十崎(1954),藤岡(1974),籠瀬(1975)は,それぞれの研究対象地域の天井川では,上流の川幅が広く下流の川幅が狭い,と述べている。我々はこのことを天井川全体で一般化できないかと考えた。そこで扇端を境に,一つの河川を扇端から天井川区間上端までの天井川上部,扇端から天井川区間下端までの天井川下部に分け,考察を進めた。
扇状地を有する 11 河川の天井川上部と下部でそれぞれ川幅の平均値をとった結果,7 河川において,上部の川幅平均値が下部の川幅平均値よりも大きくなっていた。次に,天井川上部と下部で,それぞれ川幅の最大値と最小値を読み取り,その最大値を最小値で割った比を河川ごとに求めた。その結果,上部の比は河川によってばらつきがあったのに対し,下部での比はすべての河川で約 1~2で一定となっており,9 河川で下部の比が上部の比よりも小さくなっていることが確認できた。よって扇状地を有する天井川においては,天井川上部の川幅のほうが広く下部の川幅のほうが狭い傾向があり,河川の川幅は下流になるにつれ広くなるという一般的傾向とは異なっている。この平面形は,下流を頭に上流に胴体をもつツチノコのような形をしている。この原因として,我々は扇状地と氾濫原では河川本来の挙動に違いがあるためだと考えた。扇状地では川の流勢が強く,治水がしにくい。氾濫原では流勢が比較的弱く,治水がしやすい。この一般事実から,天井川上部では破堤を防ぐため堤防間を広く築堤し,天井川下部では釜井(2020)で指摘されているように「堤内地の法面を利用して,川幅が狭くなる方向に築堤している」と考えられる。つまり,地形面の違いによって生じる河川の挙動の違いが築堤方法に影響を及ぼし,天井川の形態に違いをもたらすといえる(図3)。
【おわりに】
天井川がツチノコ型になるには,地形との関わりから,次の 2 つのことがいえる。①天井川の形成に伴い勾配の急変点が前進する。これは,河道がより安定化しようとするはたらきのためと考えられる。②天井川は人間が完全にその形態をコントロールしているのではなく,天井川の形成場所である扇状地や氾濫原といった地形面の違いが関わっている。