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[O07-P31] 石英や長石の砂粒の凹凸や体積比から源岩からの距離を推定する指標の提案
キーワード:揖保川、凹凸係数、石英/長石(体積比)、源岩
1.動機と目的
砂粒はどこの河原でも普遍的に存在するが、まだ十分な研究が行われていない。Lasaga et.al.1)は、石英に比べて長石がきわめて早く溶解することを示している。筆者らは、鉱物の外形や石英/長石(体積比)の値から、源岩から砂がどのくらいの距離を移動してきたのかを推定できると考えた。
2.研究方法
源岩がどのように砂粒となって運搬、堆積したのかを明らかにするためには、砂粒の源岩が推定できること、合流する小河川ができる限り少なくて規模が小さく、複数の種類の砂粒ができる限り混じりあわないこと、河川が蛇行せずに直線的に流れていること、河川の傾斜の変化が大きくないことの条件を備えている必要がある。兵庫県南部の河川周辺の露頭調査を広く行った結果、条件を備えている河川として、兵庫県南西部の揖保川を調査地域に選んだ。揖保川に沿って露頭調査を行い、表層地質図を作成して試料を採取した。伊保川の上流部や下流部には、流紋岩類~石英安山岩類が、中流部には花崗閃緑岩が分布している。
採取した砂粒から石英と長石を選別し、源岩の推定のために有色鉱物も同定した。石英と長石を大きさごとにそれぞれの数を数えて、それぞれの大きさの石英/長石を計算した。石英や長石の多くは単独の鉱物からなる。平均粒径は、(その粒径mm)×(その粒径の砂粒の個数)の合計をその粒径すべての個数で割って求めた。長石には、斜長石とカリ長石があるが、斜長石の溶解速度はきわめて速いため、長石を区分しなかった。
砂粒がどの程度角張っているかを客観的に示すため、吉村・小川2)による凹凸係数FUを用いた。石英および長石の砂粒を顕微鏡下で観察して撮影し、外周長ℓと断面積aを求め、FU=(4πa)/ℓ2で計算した。
揖保川中流部域に分布する花崗閃緑岩と中流~下流域に広く分布する流紋岩と石英安山岩の薄片を作成して偏光顕微鏡で観察し、構成鉱物を同定した。
3.結果と考察
揖保川の砂粒の主なものは石英と長石である。採取したすべての砂粒試料には角閃石が含まれており、砂粒の源岩は、等粒状組織を呈する中流域の長石、石英、角閃石などからなる花崗閃緑岩であると考えられる。
石英と長石は、揖保川流域で砂粒の平均粒径に大きな違いはみられない。FUの平均値は、石英が0.73~0.75でほとんど変化しないのに対して、長石は下流に向けて0.75から0.85へと大きくなり、球形に近づく。源岩からの距離xに対して石英/長石の体積比yは、y=0.024x+0.58の近似直線で示される関係で下流側に向かって大きくなっていく。これらは、源岩からの距離を、FUや石英/長石の体積比を用いて推定することが可能であることを示している。
下流ほど粒子は丸くなり、石英/長石の体積比が大きくなることは、誰でも直感的に認識してきた。しかし、その関係を直線の方程式で表わせることを示したのは本研究が初めてである。揖保川と特徴が類似する河川であれば、川岸に堆積している砂粒を観察することによって、その砂粒がどのくらいの距離を流れ下ってきたのかを知ることができる。また、たとえば堆積岩中の砂粒から、堆積当時の環境を推定することもできるかもしれない。
4.今後の課題
揖保川は源岩が分布する中流部から下流に向かって傾斜が大きく変化しないため、FUや石英/長石に与える影響は大きくなかったと推定される。今後は、揖保川と異なる特徴をもつ河川でも研究を行い、河床勾配や蛇行の程度との関係についても明らかにする必要がある。また、長石が丸くなる原因として、運搬の際の摩耗や破損など物理的破壊の影響も考えられることから、屋内におけるモデル実験を行う必要がある。
5.引用文献
1)Lasaga, A.C., Soler, J.M., Ganor, J., Burch, T.E. and Nagy, K.L.(1994)Chemical weathering rate laws and global
geochemical cycles.(Geochimica et Cosmochimica Acta, Vol.58, No.10, pp.2361-2386.)
2)吉村優治・小川正二(1993)砂粒のような粒状体の粒子形状の簡易な定量化法(土木学会論文集, No.463, Ⅲ-22, pp.95-103.)
6.謝辞
筑波大学前教授の久田健一郎博士には砂粒研究の基礎をご教示頂いた。また、本校科学部顧問の川勝和哉先生には、データ処理等について有意義な助言をいただいた。ここに記して謝意を表す。
砂粒はどこの河原でも普遍的に存在するが、まだ十分な研究が行われていない。Lasaga et.al.1)は、石英に比べて長石がきわめて早く溶解することを示している。筆者らは、鉱物の外形や石英/長石(体積比)の値から、源岩から砂がどのくらいの距離を移動してきたのかを推定できると考えた。
2.研究方法
源岩がどのように砂粒となって運搬、堆積したのかを明らかにするためには、砂粒の源岩が推定できること、合流する小河川ができる限り少なくて規模が小さく、複数の種類の砂粒ができる限り混じりあわないこと、河川が蛇行せずに直線的に流れていること、河川の傾斜の変化が大きくないことの条件を備えている必要がある。兵庫県南部の河川周辺の露頭調査を広く行った結果、条件を備えている河川として、兵庫県南西部の揖保川を調査地域に選んだ。揖保川に沿って露頭調査を行い、表層地質図を作成して試料を採取した。伊保川の上流部や下流部には、流紋岩類~石英安山岩類が、中流部には花崗閃緑岩が分布している。
採取した砂粒から石英と長石を選別し、源岩の推定のために有色鉱物も同定した。石英と長石を大きさごとにそれぞれの数を数えて、それぞれの大きさの石英/長石を計算した。石英や長石の多くは単独の鉱物からなる。平均粒径は、(その粒径mm)×(その粒径の砂粒の個数)の合計をその粒径すべての個数で割って求めた。長石には、斜長石とカリ長石があるが、斜長石の溶解速度はきわめて速いため、長石を区分しなかった。
砂粒がどの程度角張っているかを客観的に示すため、吉村・小川2)による凹凸係数FUを用いた。石英および長石の砂粒を顕微鏡下で観察して撮影し、外周長ℓと断面積aを求め、FU=(4πa)/ℓ2で計算した。
揖保川中流部域に分布する花崗閃緑岩と中流~下流域に広く分布する流紋岩と石英安山岩の薄片を作成して偏光顕微鏡で観察し、構成鉱物を同定した。
3.結果と考察
揖保川の砂粒の主なものは石英と長石である。採取したすべての砂粒試料には角閃石が含まれており、砂粒の源岩は、等粒状組織を呈する中流域の長石、石英、角閃石などからなる花崗閃緑岩であると考えられる。
石英と長石は、揖保川流域で砂粒の平均粒径に大きな違いはみられない。FUの平均値は、石英が0.73~0.75でほとんど変化しないのに対して、長石は下流に向けて0.75から0.85へと大きくなり、球形に近づく。源岩からの距離xに対して石英/長石の体積比yは、y=0.024x+0.58の近似直線で示される関係で下流側に向かって大きくなっていく。これらは、源岩からの距離を、FUや石英/長石の体積比を用いて推定することが可能であることを示している。
下流ほど粒子は丸くなり、石英/長石の体積比が大きくなることは、誰でも直感的に認識してきた。しかし、その関係を直線の方程式で表わせることを示したのは本研究が初めてである。揖保川と特徴が類似する河川であれば、川岸に堆積している砂粒を観察することによって、その砂粒がどのくらいの距離を流れ下ってきたのかを知ることができる。また、たとえば堆積岩中の砂粒から、堆積当時の環境を推定することもできるかもしれない。
4.今後の課題
揖保川は源岩が分布する中流部から下流に向かって傾斜が大きく変化しないため、FUや石英/長石に与える影響は大きくなかったと推定される。今後は、揖保川と異なる特徴をもつ河川でも研究を行い、河床勾配や蛇行の程度との関係についても明らかにする必要がある。また、長石が丸くなる原因として、運搬の際の摩耗や破損など物理的破壊の影響も考えられることから、屋内におけるモデル実験を行う必要がある。
5.引用文献
1)Lasaga, A.C., Soler, J.M., Ganor, J., Burch, T.E. and Nagy, K.L.(1994)Chemical weathering rate laws and global
geochemical cycles.(Geochimica et Cosmochimica Acta, Vol.58, No.10, pp.2361-2386.)
2)吉村優治・小川正二(1993)砂粒のような粒状体の粒子形状の簡易な定量化法(土木学会論文集, No.463, Ⅲ-22, pp.95-103.)
6.謝辞
筑波大学前教授の久田健一郎博士には砂粒研究の基礎をご教示頂いた。また、本校科学部顧問の川勝和哉先生には、データ処理等について有意義な助言をいただいた。ここに記して謝意を表す。