日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

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[O-07] 高校生ポスター発表

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.27

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O07-P51] 葛生地域石灰岩層における腕足類の生物相変動イベントの考察

*河野 旺実1、千葉 時生1 (1.海城高等学校)

キーワード:地質、化石、古環境推定

【研究内容】
本研究は、栃木県佐野市葛生地域の鍋山石灰岩層から産出する腕足類を用いた堆積環境の推定と、石灰岩層中部に含まれるドロマイト層の生成過程を明らかにする研究である。

【先行研究】
本研究の調査対象である鍋山石灰岩層(ペルム紀系石灰岩)は、過去に増田(2017)によって石灰岩層である上部層と下部層の堆積環境が明らかにされてきた。下部層では石灰岩が海山(火山島)と礁上のラグーン底で堆積し、原因としてストームが影響していることが解明された。上部層ではラグーン底での堆積が継続すると共に礁が発達していき、安定した静穏な環境となったことが解明された。しかし、中部層のドロマイトの生成環境は未だ未解明なままであった。

【動機・仮説】
研究の発端は、筆者が下部層から産出する腕足類を観察し、同定作業をしていたところ、上部層からは報告していない腕足類の種が幾つか出てきたことが始まりである。今後の同定作業を通して上部と下部で腕足類の種に顕著な違いがあれば、そこから生物相の変遷過程を考察することができる。且つ、結果として変遷過程の要因となったイベントが中部層のドロマイトの生成原因の究明に繋がるかと考えた。しかし、柳本(1973)によると、鍋山石灰岩層は全体的に3つの層順(上部石灰岩層、中部ドロマイト層、下部石灰岩層)に分けることができるものの、形成年代は同一と述べており、結果次第では本研究と矛盾する点が幾つか発生する可能性もある。

【研究手法】
①下部層のルートマップ上でナンバリングされた12地点から採取した石灰岩を、濃度88%の蟻酸原液を5%になるように希釈した溶液に漬ける
②二日後、母岩から分離した残渣をシャーレに移し、一日間乾燥させる。
③乾燥した残渣を双眼実態顕微鏡で観察、腕足類を発見したら専用のシャーレに移し同定作業を行う。
④同定した腕足類と上部層から産出した腕足類を比較し、種の差異の有無を判断する

【結果】(下記の腕足類は写真として添付してある)
発見された腕足類は、1Nudauris 2Tophrostria? 3Linoproducts 4Spirorbis sp. 5Tophrosestria 6Dielasma? 7Patasmatherus 8Leiorhynchoidea 9Xenosari(又はComposita)10Crurithyris sp. 11Chonetinella(又はSchucheretella)12Rhipidomella? 13Composita 14Cooperina cf.の計14 種である(発見された腕足類はさらに多いが、同定作業が間に合わなかったため6月の発表の際に記載する予定だ)。よって、上部層とはCooperina cf .と、Dielasma?の二種類のみが共通種として確認された。よって、上部と下部の地層では腕足類の種に顕著な違いがあることが認められた。

【考察】
 結果のように、上部層と下部層の腕足類の種では顕著な違いがあることが明らかになった。この種の違いの要因として①火山噴火や長期的な環境変動による腕足類の種の変動(=上部層と下部層の年代の違い)②腕足類の生息域、生息環境の違い(=堆積環境の違い)が考えられる。
 ここで、増田(2017)で直接火山噴火、長期的環境変動を示す痕跡が発見されず上部層と下部層の堆積環境が大方一致している点、柳本(1972)で鍋山石灰岩層は同一の地層であると明記していることから、②の同時期に堆積したが腕足類の生息環境に違いがあると考えた方が妥当であると結論づけられた。
 次に、以上の考察を用いて中部層ドロマイトの生成過程について検討する。一般に海底でのドロマイト化は❶海水からの直接沈殿と❷海水準変動と関連した石灰岩の交代(CaからMgへの置換)のどちらかが原因と言われている。先述した生息環境の相違を考慮すると、当時の堆積地域は以下のような環境であることが推測される。
 先ず、2つのタイプの腕足類がラグーン底に生息しており、両方とも生息可能深度内に入っている(図1)。その後、海水準の変動によって生息可能深度の最低ラインも上昇することで下部層産腕足類が死滅し、下部石灰岩層として堆積した。同時にマグネシウムとカルシウムの置換が行われて(=❷のタイプの生成)ドロマイトが生成された(図2)。その後改水準の変動が終了し、引き続き安定した静穏な環境で上部石灰岩が積もったと推測される(図3)。

【結論】
 今回の研究で、上部層と下部層から産出する腕足類は計14種、その中でも共通種が2種のみであり、顕著な違いがあること、且つその原因を解明できた。また、同時に海水準の変動による長い間未解明であった中部層ドロマイトの生成過程を明らかにすることができた。

【今後の展望】
 今後は、下部層の腕足類の死滅の原因となった海水準変動の原因を明らかにし、葛生地域における堆積環境の詳細を解明していく。また、引き続き腕足類や他造礁生物の同定作業を行い、他地域の岩体と比較してどの様な特殊性、地域性を持っているのかを研究していく。さらに、同定した腕足類のデータを用いた海水深度における腕足類の活動領域の推定を行なっていく。

【参考文献】

海城高等学校地学部 増田英敏, 2017.葛生地域に分布する海山礁複合体の堆積環境 

柳本裕, 1972. 栃 木 県葛 生 地 域の中・古生 層 の層序と地 質 構 造の再検討