13:45 〜 15:15
[O07-P61] 火星極冠の消長3~ダストストームは大気を温めるのか~
2020年、火星が2年ぶりに地球に接近した。私たちの過去の研究によって、2018年には火星全体を覆う大規模なダストストームが発生し、火星の南極冠が例年よりも面積縮小が速くなることがわかった。そこで、ダストストームが太陽放射を吸収し火星大気を温めることで、火星極冠の縮小を促進させると仮説を立てた。
この研究は、2020年の火星の観測データから南極冠の縮小の様子を計算することや実験を通して火星で発生する大規模な砂塵嵐であるダストストームが、大気及び極冠に及ぼす影響について明らかにすることが目的である。この研究は地球温暖化等によって変化する、地球環境を調べることにもつながる。
私たちはインターネットを使って、2020年に世界中で観測された火星の画像を集めた。火星の極冠は円形でないことから、極冠の面積変化を正確に調べるため、撮影された火星の中央経度が135度(±10度)の画像を集めた。火星極冠の角距離を測定し、南極冠の面積を計算した。その結果、2020年の南極冠の面積変化が、ダストストームは発生していない2003年と似ていることが分かった。2020年と2018年の面積変化の様子を比較して、ダストストームは火星極冠の縮小を促進させると仮説をたてた。観測から2020年11月11日から12日にかけて、火星に小規模なダストストームが発生していた。ダストストームが観測された時点で、南極冠はすでに縮小しており、2020年に発生した小規模ダストストームは、南極冠の縮小には影響がなかったと思われる。
簡易日射計と白熱電球を用いてダストが大気に及ぼす影響を調べるモデル実験を行った。1 ダストストームが発生していない火星、2 低い高度をダストが漂っている火星、3 高い高度をダストが漂っている火星、4 地球で似た現象である火山灰が覆っている地球、の4種類のモデルを作成した。今回の実験ではダストや火山灰のかわりに主成分が同じ二酸化ケイ素であるロックウールを使用している。火星や地球では岩盤が表面を覆っているため、日射計の受熱板を、押し固めたロックウールで覆い、密度が小さいダストや火山灰は綿状のロックウールを使用した。各モデルに電球を40分間照射して温度変化を測定し、電球を切って40分間の温度変化を記録した。
結果は以下のようになった。
1 ダストストームが発生していない火星・・・温度上昇のあと急激な温度変化がみられた。
2 低い高度をダストが漂っている火星・・・最も温度が上昇し、電球の電源を切った後も温度低下が緩やかで熱を保持し続けた。
3 高い高度をダストが漂っている火星・・・大きな温度変化が見られなかった。
4 火山灰に覆われた地球・・・最も温度変化が見られず、白熱電球の影響をほとんど受けなかった。
実験結果より、低い高度を漂うダストは太陽放射を火星表面付近で吸収し、火星大気および火星表面を温める温室効果をもたらすことが分かった。このことが、火星極冠の縮小を促進させた。また、高い高度を漂うダストは、太陽放射を大気上部で吸収するので火星表面までの温める温室効果は小さい。2018年に発生した火星のダストストームは、低い高度をダストが漂っていたことが分かる。地球では火山噴火により火山灰が上空に吹き上げられて地球を覆うと、火山灰は太陽放射を反射し地表まで太陽放射が届かず寒冷化する。火山灰は地球に日傘効果をもたらす。
地球と火星でこのように逆の温度変化がみられるのは、地球で火山の大規模噴火で噴出した火山灰は、大気の高層を浮遊して太陽放射を遮るが、火星のダストストームは火星表面近くで発生して表面付近を浮遊し、太陽放射を吸収するためだと考えられる。これは火星探査車キュリオシティが観測したダストストーム発生時と未発生時の地表面の様子からも確認できた。
火星極冠の面積変化を調べ、ダストストームとの関係が分かったこと。また、実験からダストが大気や地表面に及ぼす影響を考察できたことを本研究のまとめとする。
今後も引き続き火星の極冠の面積変化を観測し、ダストストームが発生するメカニズムを解明していきたい。今回の実験では、ダストの代わりにロックウールを用いたが、他の組成のダストでも温度変化を実験していきたい。今回の実験で用いた手法で、火星のダストだけでなく、地球で発生する黄砂やPM2.5などの大気浮遊粒子状物質(エアロゾル)の、気象に及ぼす影響についても考察していきたい。
最後に火星の観測データの提供をしていただいた東亜天文学会火星課や月惑星研究会に感謝を申し上げます。
この研究は、2020年の火星の観測データから南極冠の縮小の様子を計算することや実験を通して火星で発生する大規模な砂塵嵐であるダストストームが、大気及び極冠に及ぼす影響について明らかにすることが目的である。この研究は地球温暖化等によって変化する、地球環境を調べることにもつながる。
私たちはインターネットを使って、2020年に世界中で観測された火星の画像を集めた。火星の極冠は円形でないことから、極冠の面積変化を正確に調べるため、撮影された火星の中央経度が135度(±10度)の画像を集めた。火星極冠の角距離を測定し、南極冠の面積を計算した。その結果、2020年の南極冠の面積変化が、ダストストームは発生していない2003年と似ていることが分かった。2020年と2018年の面積変化の様子を比較して、ダストストームは火星極冠の縮小を促進させると仮説をたてた。観測から2020年11月11日から12日にかけて、火星に小規模なダストストームが発生していた。ダストストームが観測された時点で、南極冠はすでに縮小しており、2020年に発生した小規模ダストストームは、南極冠の縮小には影響がなかったと思われる。
簡易日射計と白熱電球を用いてダストが大気に及ぼす影響を調べるモデル実験を行った。1 ダストストームが発生していない火星、2 低い高度をダストが漂っている火星、3 高い高度をダストが漂っている火星、4 地球で似た現象である火山灰が覆っている地球、の4種類のモデルを作成した。今回の実験ではダストや火山灰のかわりに主成分が同じ二酸化ケイ素であるロックウールを使用している。火星や地球では岩盤が表面を覆っているため、日射計の受熱板を、押し固めたロックウールで覆い、密度が小さいダストや火山灰は綿状のロックウールを使用した。各モデルに電球を40分間照射して温度変化を測定し、電球を切って40分間の温度変化を記録した。
結果は以下のようになった。
1 ダストストームが発生していない火星・・・温度上昇のあと急激な温度変化がみられた。
2 低い高度をダストが漂っている火星・・・最も温度が上昇し、電球の電源を切った後も温度低下が緩やかで熱を保持し続けた。
3 高い高度をダストが漂っている火星・・・大きな温度変化が見られなかった。
4 火山灰に覆われた地球・・・最も温度変化が見られず、白熱電球の影響をほとんど受けなかった。
実験結果より、低い高度を漂うダストは太陽放射を火星表面付近で吸収し、火星大気および火星表面を温める温室効果をもたらすことが分かった。このことが、火星極冠の縮小を促進させた。また、高い高度を漂うダストは、太陽放射を大気上部で吸収するので火星表面までの温める温室効果は小さい。2018年に発生した火星のダストストームは、低い高度をダストが漂っていたことが分かる。地球では火山噴火により火山灰が上空に吹き上げられて地球を覆うと、火山灰は太陽放射を反射し地表まで太陽放射が届かず寒冷化する。火山灰は地球に日傘効果をもたらす。
地球と火星でこのように逆の温度変化がみられるのは、地球で火山の大規模噴火で噴出した火山灰は、大気の高層を浮遊して太陽放射を遮るが、火星のダストストームは火星表面近くで発生して表面付近を浮遊し、太陽放射を吸収するためだと考えられる。これは火星探査車キュリオシティが観測したダストストーム発生時と未発生時の地表面の様子からも確認できた。
火星極冠の面積変化を調べ、ダストストームとの関係が分かったこと。また、実験からダストが大気や地表面に及ぼす影響を考察できたことを本研究のまとめとする。
今後も引き続き火星の極冠の面積変化を観測し、ダストストームが発生するメカニズムを解明していきたい。今回の実験では、ダストの代わりにロックウールを用いたが、他の組成のダストでも温度変化を実験していきたい。今回の実験で用いた手法で、火星のダストだけでなく、地球で発生する黄砂やPM2.5などの大気浮遊粒子状物質(エアロゾル)の、気象に及ぼす影響についても考察していきたい。
最後に火星の観測データの提供をしていただいた東亜天文学会火星課や月惑星研究会に感謝を申し上げます。