日本地球惑星科学連合2021年大会

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[O-07] 高校生ポスター発表

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.27

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O07-P67] 自作観測装置で富士山の見え方を探る

*新川 凌央1、*竹添 麟1 (1.東京都立立川高等学校)

キーワード:富士山、視程、笠雲、前掛け雲

1.研究背景・目的

本校天文気象部では70年以上前から富士山の観測を含む気象観測を行っている。2018年に本部の先輩が過去50年間の視程観測データを分析する研究を始め、同時に20年以上途絶えていた視程の観測を再開させた(*1)。視程とは肉眼で物体がはっきりと確認できる最大の距離のことであり、大気汚染の指標となるため古くから観測されている。また2019年、本部の先輩が小型コンピュータで制御したカメラにより定時撮影を行う新たな視程の観測装置を開発した(*2,*3)。本研究では富士山方面を撮影する同様の装置を製作し、途絶えていた富士山の観測(目視を含む)を再開した。そして、その見え方や周囲の雲と、気象現象の関連を探った。



2.撮影装置の製作・設置

始めは既成のタイムラプスカメラを撮影に用いたが、焦点距離が18mmと広角で富士山の確認には適さなかった。そこで、土台や先行研究*2と同様の撮影装置を製作し、富士山が見える本校5階の室内に設置した。撮影装置は一眼レフカメラと、それを制御するRaspberryPiで構成し、プログラムはPythonで記述した。日中30分毎に、天候や太陽高度により適正露出が異なるため、1度につき5種類の撮影設定(シャッタースピード1/100, 1/500, 1/1000, 1/2000, 1/4000秒・感度ISO200固定・絞りf 5.6固定)で撮影し、データはUSBメモリに保存する。Slackを介して即時撮影などの遠隔操作が行えるほか、短時間の雲の動きを捉えるためのタイムラプス機能を実装した。



3.撮影データを用いた分析

<過去における富士山が見えた日数の1年間の変化>

先行研究*1で整理された約27年分の過去データを分析し、各年における富士山が見えた日数の月ごとの割合を調べた(図1)。結果、夏季(6~8月)は少なく(10%以下)、冬季(12~2月)には多かった(50%以上)ことがわかった。

<画像からの判定と目視観測の比較>

2020/9/26~2021/3/31の間に同時観測が行えた242回のデータを用い、先行研究*1と同じ基準(富士山の一部でも確認できた場合は「見えた」と判定する)で富士山が見えたかどうかを判定し、目視観測の場合と比較した。結果、午前午後ともに約8割の観測で判定が一致した。画像のみで富士山が見えた場合が目視のみの場合より多いのは、目視観測では観測者の視力の差などの個人差が発生するのに対し、画像からの判定はそれが発生しないことが理由として考えられる。

<笠雲・前掛け雲発生時の富士山頂の気象データ>

昨年10月から今年3月について、撮影画像と気象庁の富士山頂の気象データを用い、笠雲や前掛け雲(図2)が発生していた間の湿度と気温について調べた。笠雲が見られたとき(21回)富士山頂の湿度は高い傾向がある(図3)。先行研究*4では、湿潤な空気が斜面により強制上昇させられ、山頂付近に到達することで笠雲が発生すると推測されており、我々のデータからも同じように推測ができる。前掛け雲が見られたとき(13回)富士山頂の気温を平均すると、-20℃程度と低かった。快晴の朝方によく見られ、気温が急激に下がった日に発生していることがわかる(図4)。

<笠雲発生時の気圧配置>

笠雲が撮影された時間帯の地上天気図から気圧配置の傾向を調査したところ、日本海に低気圧が位置していることと、富士山の方に北方に大気の乱れが見られることが多かった。これらの傾向は先行研究*4にも指摘されている。調査年は異なるが、秋から冬の期間における、笠雲が観測された回数全体に対する、それぞれの傾向が当てはまる事例の割合は、我々のデータと先行研究*4のデータでほぼ一致した(図5)。

<笠雲発生時の地上風系>

上記の気圧配置に関連して引き起こされる風が笠雲を発生させていると考え、笠雲発生時の富士山周辺のアメダスのデータから、地上風系の傾向を調べた。結果、風向はばらつきがあり、風速は0~2m/sと小さいことが多く、関連は不明だった。



4.まとめ

撮影装置を製作し、6か月間富士山を継続して撮影した。過去の目視観測データを分析し、富士山が見えた日の割合は冬季に5割以上で、夏季に1割以下であったことが分かった。前掛け雲は厳冬期に多く発生し、富士山頂の気温の低さとの関連がみられた。笠雲は月3、4回発生し、富士山頂の湿度の高さと関連がみられた。



5.参考文献

*1 2019 気象学会・2019全国SSH校研究発表会 田口小桃『立川高校における50年間の視程の変化と戦後の大気汚染について』

*2 第8回気象文化大賞「高校・高専『気象観測機器コンテスト』」 2019 田中陽登・馬場光希・浜島悠哉・田口小桃『視程観測の自動化』

*3 JpGU–AGU Joint Meeting 2020・2020年全国SSH校研究発表会 田中陽登・馬場光希・浜島悠哉 『視程 観測の自動化~見えてる? 画像データから探る視程の傾向~』

*4 日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要(2004)清水崇博・大野希一・遠藤邦彦・山川修治 『ライブカメラにより観察された富士山の笠雲・吊るし雲』

*5 気象庁HP