13:45 〜 15:15
[O07-P69] 立川高校周辺における視程の分析について
キーワード:気象、視程、視程観測
研究背景・目的
本校天文気象部では約70年前より気象と視程の観測を続けてきた。視程とは観測場所から識別することのできる距離の程度を表す気象用語であり、どの程度見通しがきくかという情報である。2019年に本部の先輩が「立川高校における50年間の視程の変化と戦後の大気汚染について」というテーマで50年間の視程データを整理・分析し、戦後の立川周辺の視程が極めて悪かったことを明らかにし、20年ぶりに目視による視程観測を再開した。
2020年には先輩が、視程観測の自動化を目指して、コンピュータ制御したカメラで定時に対象を撮影する新たな観測方法を開発した(※1)。その後筆者が加わり、観測装置を改良し、観測と研究を継続して、深層学習による画像の一部の自動判定を行った(※2、3)。本研究では、この視程観測の記録を用いてその傾向を分析し、気象現象や大気汚染との関連を明らかにすることを目的とした。
視程観測の方法
目視による視程観測は、本校で作成した視程階級表と視程目標図を利用し、天文気象部員が5階屋上で毎日定時(8時・15時)に行って最も遠くに見えた対象物を記録している。
視程の撮影装置は小型コンピュータ(Raspberry Pi)で一眼レフカメラを制御し、5時〜19時、10分間隔で定時撮影を行っている。1回につき3種類の露出設定で撮影を行い、画像から視程を判定する際は、目標物が3枚のうち1枚でも確認できたらそれを「見えた」とした。プログラムはPythonにより自作したものを徐々に改良している。観測装置を屋外に置くため、最初は、アクリル板の窓をつけたプラスチック容器にカメラを入れ屋上の欄干に取り付けて観測を始めた。しかし、夏場の温度上昇が顕著であったため、スチール物置に変え、ファンを付けるなどの改善を図った。
深層学習による画像の判定
視程観測の自動化を目指し、本校から最も遠くに見える視程目標物であるスカイツリーを用いた判定を行った。画像からスカイツリーが写っている領域を切り出し、画像から人の目で判断した判定データを基にスカイツリーが見える/見えないに関する深層学習をさせた。その結果、分類精度は検証データで約95%と十分に高かった。
結果と考察
視程の分析には2020年3月〜2021年3月までの観測データを利用した。
視程の日変化は、10分画像のうち1時間ごとの画像(露出設定:1/500)を取り出して比較した。降水時は視程が悪化するが、降雨後には視程が劇的によくなることが多く見られた。6~7月、梅雨前線等の影響がある時には、降雨後も視程が良好にならないことが多かったが、その他の時期は改善することが多かった。これは大気中のエアロゾルが降水によって減少することで、視程がよくなるのではないかと考えられる。
また、視程は、1年間を通して、午後よりも午前の方が悪くなる傾向があった。過去の観測結果も同様であり、先行研究では朝もやや湿度の高さが影響すると推測していた。実際、エアロゾル粒子には吸湿性を持つものがあり,相対湿度に依存して粒径が大きく変化すると考えられている。現在は、もやとまではいかないが、朝は遠くが白っぽく霞んでいるように見えることがよくあり、エアロゾルの影響が考えられる。また、午前は観測する東方向に太陽があることで、時期によりエアロゾルによる前方散乱が起こりやすいことも、視程に影響を与えていると推測される。
視程の変化を季節ごとに見ると、夏(6〜8月)は視程が特に悪くなり、秋(9〜10月)になると視程がよくなっていく傾向があり、午前にその変化が顕著であるとわかった。これは、夏は高湿な南風や梅雨前線の影響でエアロゾルによる前方散乱が起きやすくなり、秋には湿度が下がることでエアロゾルが減少することに関係があると考えられる。
今後の課題
今回行った1年分の観測データの分析から、都心方面の視程は午前よりも午後の方が良視程になりやすく、夏の時期に悪化することがわかった。現在は黄砂や光化学スモッグなどの大気汚染の影響や、COVID-19による産業活動の低下が視程に反映されているかなどを調査している。
また、今後は深層学習のデータを増やして精度を高めていくなど、視程観測の自動化を更に目指したい。
謝辞
この研究は、昨年度卒業した本部の先輩と一緒に研究を進め、観測の自動化を目指してきたものである。研究を進めてきた浜島悠哉・田中陽登・馬場光輝先輩、研究に協力していただいた、天文気象部OBの浪波翔太先輩、樋口陽光先輩に感謝申し上げます。
参考文献
*1 浜島悠哉・田中陽登・馬場光希 2020 JpGu地球惑星連合研究大会「視程観測の自動化」
*2 浜島悠哉・田中陽登・馬場光希・安原拓未 2020 気象観測機器コンテス『「見えてる?!」視程の新たな観測方法の開発とその分析 〜観測装置を自作・改良し、50年間続いた視程観測を再開してその傾向を探る〜』
*3 同上 2021 情報処理学会『カメラとRaspberry Piを用いた視程観測装置の自作
本校天文気象部では約70年前より気象と視程の観測を続けてきた。視程とは観測場所から識別することのできる距離の程度を表す気象用語であり、どの程度見通しがきくかという情報である。2019年に本部の先輩が「立川高校における50年間の視程の変化と戦後の大気汚染について」というテーマで50年間の視程データを整理・分析し、戦後の立川周辺の視程が極めて悪かったことを明らかにし、20年ぶりに目視による視程観測を再開した。
2020年には先輩が、視程観測の自動化を目指して、コンピュータ制御したカメラで定時に対象を撮影する新たな観測方法を開発した(※1)。その後筆者が加わり、観測装置を改良し、観測と研究を継続して、深層学習による画像の一部の自動判定を行った(※2、3)。本研究では、この視程観測の記録を用いてその傾向を分析し、気象現象や大気汚染との関連を明らかにすることを目的とした。
視程観測の方法
目視による視程観測は、本校で作成した視程階級表と視程目標図を利用し、天文気象部員が5階屋上で毎日定時(8時・15時)に行って最も遠くに見えた対象物を記録している。
視程の撮影装置は小型コンピュータ(Raspberry Pi)で一眼レフカメラを制御し、5時〜19時、10分間隔で定時撮影を行っている。1回につき3種類の露出設定で撮影を行い、画像から視程を判定する際は、目標物が3枚のうち1枚でも確認できたらそれを「見えた」とした。プログラムはPythonにより自作したものを徐々に改良している。観測装置を屋外に置くため、最初は、アクリル板の窓をつけたプラスチック容器にカメラを入れ屋上の欄干に取り付けて観測を始めた。しかし、夏場の温度上昇が顕著であったため、スチール物置に変え、ファンを付けるなどの改善を図った。
深層学習による画像の判定
視程観測の自動化を目指し、本校から最も遠くに見える視程目標物であるスカイツリーを用いた判定を行った。画像からスカイツリーが写っている領域を切り出し、画像から人の目で判断した判定データを基にスカイツリーが見える/見えないに関する深層学習をさせた。その結果、分類精度は検証データで約95%と十分に高かった。
結果と考察
視程の分析には2020年3月〜2021年3月までの観測データを利用した。
視程の日変化は、10分画像のうち1時間ごとの画像(露出設定:1/500)を取り出して比較した。降水時は視程が悪化するが、降雨後には視程が劇的によくなることが多く見られた。6~7月、梅雨前線等の影響がある時には、降雨後も視程が良好にならないことが多かったが、その他の時期は改善することが多かった。これは大気中のエアロゾルが降水によって減少することで、視程がよくなるのではないかと考えられる。
また、視程は、1年間を通して、午後よりも午前の方が悪くなる傾向があった。過去の観測結果も同様であり、先行研究では朝もやや湿度の高さが影響すると推測していた。実際、エアロゾル粒子には吸湿性を持つものがあり,相対湿度に依存して粒径が大きく変化すると考えられている。現在は、もやとまではいかないが、朝は遠くが白っぽく霞んでいるように見えることがよくあり、エアロゾルの影響が考えられる。また、午前は観測する東方向に太陽があることで、時期によりエアロゾルによる前方散乱が起こりやすいことも、視程に影響を与えていると推測される。
視程の変化を季節ごとに見ると、夏(6〜8月)は視程が特に悪くなり、秋(9〜10月)になると視程がよくなっていく傾向があり、午前にその変化が顕著であるとわかった。これは、夏は高湿な南風や梅雨前線の影響でエアロゾルによる前方散乱が起きやすくなり、秋には湿度が下がることでエアロゾルが減少することに関係があると考えられる。
今後の課題
今回行った1年分の観測データの分析から、都心方面の視程は午前よりも午後の方が良視程になりやすく、夏の時期に悪化することがわかった。現在は黄砂や光化学スモッグなどの大気汚染の影響や、COVID-19による産業活動の低下が視程に反映されているかなどを調査している。
また、今後は深層学習のデータを増やして精度を高めていくなど、視程観測の自動化を更に目指したい。
謝辞
この研究は、昨年度卒業した本部の先輩と一緒に研究を進め、観測の自動化を目指してきたものである。研究を進めてきた浜島悠哉・田中陽登・馬場光輝先輩、研究に協力していただいた、天文気象部OBの浪波翔太先輩、樋口陽光先輩に感謝申し上げます。
参考文献
*1 浜島悠哉・田中陽登・馬場光希 2020 JpGu地球惑星連合研究大会「視程観測の自動化」
*2 浜島悠哉・田中陽登・馬場光希・安原拓未 2020 気象観測機器コンテス『「見えてる?!」視程の新たな観測方法の開発とその分析 〜観測装置を自作・改良し、50年間続いた視程観測を再開してその傾向を探る〜』
*3 同上 2021 情報処理学会『カメラとRaspberry Piを用いた視程観測装置の自作