10:00 〜 10:15
[PCG17-07] 月極域探査計画LUPEXに搭載する複数回反射型質量分析器TRITONの開発
キーワード:月極域探査、質量分析器
月の極域に存在する水などの揮発性物質の量およびその形態を調べることは、月の表層の進化の過程や月表面でのイオンの動きの理解だけでなく、月ないしは地球の水の起源や太陽系内の物質の輸送過程を理解するのに重要である。また、月に利用可能な形で十分な量の揮発性物質が存在した場合、それを燃料に変えることで月を拠点に宇宙探査を行うことができるかもしれない。月の極域探査には惑星科学的意義だけでなく、宇宙探査の発展にとっても重大な意義がある。
これまで遠隔観測から水の存在を示唆する結果は出てきているが、水がどのような状態でどれだけ存在するかについてははっきりしていない。遠隔観測の一つに、NASAのLCROSS(Lunar CRater Observation and Sensing Satellite)による実験・観測がある。月の南極にあるクレーター、カベウスの永久影領域にロケットの一部を衝突させ、舞い上がる塵を観測したLCROSSでは水だけでなく水酸基も観測されている[1]。その量は水に対して0.03%ほどと非常に少ない。水酸基が水によるものなのか、レゴリス中の粒子によるものなのかは不明である。また、水や水酸基以外にも様々な揮発性物質が微量ながら観測されている。したがって、水酸基の由来や揮発性物質の存在量の同定といった科学的目標を達成するためには、存在量の多い水とその他の揮発性物質を質量スペクトル上で区別しなければならず、高い質量分解能が必要となる。
そこでJAXAはインド宇宙局と連携し月極域探査(LUnar Polar EXploration mission)を計画している。この探査において水を含めた揮発性物質の調査を行うのが水資源分析計(REsource Investigation Water Analyzer)である。これは試料の質量を測定し加熱する熱重量測定装置と加熱によって発生した揮発性物質を分析する質量分析器からなる。我々はこのうち、飛行時間型質量分析計(Time Of Fight Mass Spectrometer)であるTRITON(TRIple-reflection reflecTrON)の開発を行っている。TRITONは高い検出効率を実現するためにシート状のイオン流を生成するイオン源と、小型かつ高い質量分解能を確保できる複数回反射型のリフレクトロンから成る。TRITONは印加する電圧を調整することによって主に2つのモードで質量スペクトルを測定することができる。反射部で1回だけ反射する1回反射モードと、3回反射させる3回反射モードである。反射回数の少ない1回反射モードの方が、測定対象のイオン化された粒子が検出器に到達する確率は高く、イオンの検出感度も高くなる。一方、反射回数が多い3回反射モードの方が質量分解能は高くなる。現在は試作機を用いてその性能を確認し、性能の改良を進めているところである。
TRITON試作機は3回反射モードで動作するように最適化設計したが、試作機の反射部の長さを伸長することで、1回反射モードでも最適化できることが計算上確認できた。そこで、反射部の長さを伸ばしたうえで1回反射モードの質量スペクトルを測定し、質量分解能・感度などの変化を調べたのでこれらの結果を紹介する。また、試作機ではイオン源と加速部の接続部は円形管であったが、イオン源の出口の形に合わせてこの接続部を変更し測定を行ったところ、測定対象であるイオンの質量スペクトルのピークが2つに分かれてしまうことが実験から明らかとなった。この原因と対策についても議論する予定である。
[1] A. Colaprete, et al, Science, 330, 6003, (2010)
これまで遠隔観測から水の存在を示唆する結果は出てきているが、水がどのような状態でどれだけ存在するかについてははっきりしていない。遠隔観測の一つに、NASAのLCROSS(Lunar CRater Observation and Sensing Satellite)による実験・観測がある。月の南極にあるクレーター、カベウスの永久影領域にロケットの一部を衝突させ、舞い上がる塵を観測したLCROSSでは水だけでなく水酸基も観測されている[1]。その量は水に対して0.03%ほどと非常に少ない。水酸基が水によるものなのか、レゴリス中の粒子によるものなのかは不明である。また、水や水酸基以外にも様々な揮発性物質が微量ながら観測されている。したがって、水酸基の由来や揮発性物質の存在量の同定といった科学的目標を達成するためには、存在量の多い水とその他の揮発性物質を質量スペクトル上で区別しなければならず、高い質量分解能が必要となる。
そこでJAXAはインド宇宙局と連携し月極域探査(LUnar Polar EXploration mission)を計画している。この探査において水を含めた揮発性物質の調査を行うのが水資源分析計(REsource Investigation Water Analyzer)である。これは試料の質量を測定し加熱する熱重量測定装置と加熱によって発生した揮発性物質を分析する質量分析器からなる。我々はこのうち、飛行時間型質量分析計(Time Of Fight Mass Spectrometer)であるTRITON(TRIple-reflection reflecTrON)の開発を行っている。TRITONは高い検出効率を実現するためにシート状のイオン流を生成するイオン源と、小型かつ高い質量分解能を確保できる複数回反射型のリフレクトロンから成る。TRITONは印加する電圧を調整することによって主に2つのモードで質量スペクトルを測定することができる。反射部で1回だけ反射する1回反射モードと、3回反射させる3回反射モードである。反射回数の少ない1回反射モードの方が、測定対象のイオン化された粒子が検出器に到達する確率は高く、イオンの検出感度も高くなる。一方、反射回数が多い3回反射モードの方が質量分解能は高くなる。現在は試作機を用いてその性能を確認し、性能の改良を進めているところである。
TRITON試作機は3回反射モードで動作するように最適化設計したが、試作機の反射部の長さを伸長することで、1回反射モードでも最適化できることが計算上確認できた。そこで、反射部の長さを伸ばしたうえで1回反射モードの質量スペクトルを測定し、質量分解能・感度などの変化を調べたのでこれらの結果を紹介する。また、試作機ではイオン源と加速部の接続部は円形管であったが、イオン源の出口の形に合わせてこの接続部を変更し測定を行ったところ、測定対象であるイオンの質量スペクトルのピークが2つに分かれてしまうことが実験から明らかとなった。この原因と対策についても議論する予定である。
[1] A. Colaprete, et al, Science, 330, 6003, (2010)