日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG18] 惑星大気圏・電磁圏

2021年6月3日(木) 09:00 〜 10:30 Ch.04 (Zoom会場04)

コンビーナ:関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)、前澤 裕之(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学科)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、寺田 直樹(東北大学大学院理学研究科)、座長:木村 智樹(東京理科大学)、前澤 裕之(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学科)、関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)

09:45 〜 10:00

[PCG18-04] ピリカ望遠による2018年から2020年の海王星ストームの移動速度と規模の推定

*佐藤 佑樹1、高橋 幸弘1、佐藤 光輝1、高木 聖子1、今井 正尭2、大野 辰遼1 (1.北海道大学大学院理学院、2.産業技術総合研究所)

キーワード:海王星、地上望遠鏡

海王星では直径が4,000 kmを超える巨大なストームが時折発生している。先行研究では , ボイジャー2号が 1989年5月24日に海王星を観測し, 大暗斑と呼ばれる直径13,000 kmのストームを発見した. 大暗斑は木星の大赤斑と同様南半球に位置していたが, その後, ハッブル宇宙望遠鏡が1994年に観測したところ, 大暗斑は消滅していた (Hammel et al., 1995). 大暗斑のようなストームは海王星で常に発生しているのか, 突発的なものなのか不明である. また, 直径9,000 kmのストームが2017年6月26日, 7月2日にケック天文台10 m光学近赤外望遠鏡で観測された (Edward et al., 2019). 通常, 海王星のストームは上昇気流が発生している南北の中緯度で発生すると考えられている. しかし, このストームは赤道付近で発生している. 海王星の自転軸傾斜角は29.6度であり, 季節変化によって赤道付近でストームが発生した可能性も考えられる. ケック天文台やハッブル宇宙望遠鏡によって海王星は観測されているが, それらの望遠鏡を常に海王星観測に使用することは難しい. そのため, 短い時間スケールで長期的な海王星ストームの観測は行われていない. 本研究では海王星全体のスペクトルを観測することによって, ストームの移動速度や規模を推定する手法の開発を行った. それにより, シーイングが悪い時でも観測可能になり, 短い時間間隔で長期的な海王星ストームの観測データを取得することができるようになった. この手法で, ストームの詳細な変動を追うことで, 海王星大気の対流構造の理解を深めることに繋げる. 本研究では, 北海道大学が所有する口径1.6 mのピリカ望遠鏡を用いて海王星のスペクトルを観測した. 時期 は2018年10月22日から11月26日, 2019年7月8日から11月12日, 2020年は7月20日から観測を開始した. 観測波長は890, 855 nmである. 本研究では, メタンが890 nmを強く吸収するという性質を用いる. 海王星大気にはメタンが存在し, 890 nmで海王星を観測すると, 周りの領域よりも高度の高いストームはより明るく見える. よって, ストームがある面を観測すると890 nmフラックスは大きくなる. また, 海王星の自転によって, 観測点からのストームの見た目の大きさは変化するため, 890 nmのフラックスも変化する. 地球大気の影響を補正するために, 890 nmフラックスと855nmのフラックスの比をとり, 相対強度を求めた. 890 nmフラックスの相対強度の理論値を求め, その理論値と観測値を最小二乗法でフィッティングをすることで, ストームの移動速度や規模を見積もった. ストームの面積を仮定しストーム内部の890 nm反射率を求め, ストームの規模は面積と反射率の積とした. 2018年のストームの移動速度, 890nmアルベドは24.6°/ day, 0.166と推定した. 2019年は複数のストームがあり, この解析方法ではストームが一つであると仮定しているため, HSTやアマチュア観測画像から複数のストームがある場合の解析方法を考える必要がある. 2020年はストームの移動速度, 890nmアルベドは20.0°/ day, 0.234と推定した. 2018年に, Simon et al. (2019)によって北緯23°に位置し, 2.46°/hr (59.04°/day)で移動するストーム (NDS-2018)が観測された. しかし, NDS-2018は我々の観測日では裏面に位置し見ることはできず、違うストームを観測したと考えられる。今後も観測を継続し、他の研究者やアマチュア観測と比較し、議論を進める。