日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG18] 惑星大気圏・電磁圏

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.01

コンビーナ:関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)、前澤 裕之(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学科)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、寺田 直樹(東北大学大学院理学研究科)

17:15 〜 18:30

[PCG18-P07] 惑星観測用近赤外カメラTOPICSと高分散エシェル分光撮像装置ESPRITの開発

神原 歩1、*坂野井 健1、平原 靖大2、市川 隆3、鍵谷 将人1、笠羽 康正1、大友 綾1、永田 和也1 (1.東北大学理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター、2.名古屋大学環境学研究科、3.東北大学理学研究科天文学専攻)

キーワード:惑星大気、 分光、近赤外

木星は太陽系で最大の巨大惑星であり、地球とは異なる共回転駆動型の磁気圏を形成する。また、衛星イオに存在する火山からは中性ガスが噴出し、木星磁気圏へプラズマを供給する。プラズマの一部は木星磁気圏-電離圏-熱圏結合を通じて磁気圏から電離圏・熱圏に降り込み、極域オーロラ発光を引き起こす。そのため、木星オーロラとイオからのプラズマ供給、木星磁気圏でのプラズマ輸送との関係を知ることは、木星磁気圏の変動の理解につながる。

我々は、ハワイ・ハレアカラ山頂観測所(3,055 m)の惑星専有望遠鏡を用いて惑星・衛星大気の連続観測を可能とすることを目指し、これまで近赤外撮像装置TOPICS(Tohoku Planetary near-Infrared Camera System)と近赤外高分散エシェル分光撮像装置ESPRIT(Echelle Spectrometer for Planetary Research In Tohoku University)の開発を実施してきた。しかし、近赤外1–5 µmに感度をもつInSb 256×256アレー検出器の駆動・読み出しに問題があった。本研究は、TOPICSの新たに検出器駆動系の開発し、検出器の駆動・読み出しを正常にかつ安全に行えるシステムを完成した。加えて、ESPRITの真空・冷却系の開発と評価を行った。

本研究で行った検出器駆動系の開発結果を以下に項目毎に示す。(1)電流計測回路の開発:検出器駆動電圧入力ラインでの電流値を見積もり、電流測定レンジ±500 µA、分解能~0.0209 µAの回路と、電流測定レンジ±10mA、分解能~0.418 µAとなる電流計測回路の開発を行った。これを駆動・読み出し回路と組み合わせ、サイエンスグレード検出器(レイセオン社、型番SCA#108)試験時の電流値を測定し、見積もった電流値と整合的な値を得た。これは今後の検出器動作時の正常電流値の基準になる。(2)信号電圧投入順序の制御回路の開発:デジタル信号の切り替え・保持が可能なロジックICとアナログスイッチ用いて、検出器入力電圧の投入順序制御を可能とする回路を開発した。(3)エンジニアグレード検出器(レイセオン社、型番SCA#060)駆動試験:中心波長2.295 µmの近赤外波長域干渉フィルターを用いて、ハロゲンランプの熱輻射画像を取得した。この結果、近赤外撮像装置の新開発回路系が正常に機能していることが分かった。(4)サイエンスグレード検出器駆動試験:ハロランプの画像は取得されたものの、暗電流が2,230 e/s、リードノイズが1,730 ermsであり、期待より桁違いに高い値となった。観測目的とする木星H3+オーロラの輝線ドップラーシフトから得られる1–3 km/sのイオン風速を±0.5 kmの精度での観測には、ハワイ大学、ドイツ・ケーペンハウワー研究所、ブラジル・ポンタグロッサ大学と開発進行中の口径1.8 m望遠鏡PLANETSを用いる場合、リードノイズを60 erms以下にする必要がある。プリアンプ単体のノイズを試験した結果、リードノイズとほぼ等しいノイズが得られたため、今後の開発においてプリアンプの低ノイズ化が必要である。また、暗電流の低減には検出器を30-35Kまで冷却する必要があるが、本実験では検出器は約47 Kであった。今後の開発により、検出器への冷却パスを向上させ、暗電流を40 e/s以下に低下させる必要がある。

 さらに、ESPRIT(波長範囲1–4 µm、波長分解能20,000)の真空・冷却系の開発を行った。結果を以下に示す。(5)真空試験:ESPRITの真空チャンバーに光学系全体を設置し、真空引きを行った結果、2.47×10−7 Torrの真空度が得られ、リークがないことを確認した。(6)熱パス開発と冷却試験:分光器筐体と冷凍機を接続する熱パスを無酸素銅メッシュ(ワイヤー径φ0.23 mm、密度50 mesh/inch)を用いて開発した。He冷凍機を用いた冷却試験において銅メッシュ枚数を1段目:4枚(長さ49 mm、断面積23.4 mm2)、2段目:1/2枚(長さ89 mm、断面積0.287 mm2)としたときにラディエーションシールド温度が96 K、検出器用コールドプレート温度が14.5 Kに到達した。

 今後、TOPICSの暗電流とリードノイズ問題を解決した後、ハワイ・ハレアカラのT60望遠鏡に設置する計画である。また、ESPRITの検出器基板や電気回路はTOPICSと共通のため、今後計画している電気試験は効率的に実施可能である。