17:15 〜 18:30
[PCG18-P12] 火星熱圏密度中にみられる波状擾乱の年変動
キーワード:火星、熱圏、大気波動
これまで火星熱圏、特に夜側での観測事例は極めて限定的であったが、MAVEN探査機によって近年理解が急激に進んだ。Bougher et al. (2015) ; Yigit et al. (2015) ; England et al. (2017) ; Terada et al. (2017) ; Siddle et al. (2019) ; Nakagawa et al. (2020)によって、波状擾乱成分が熱圏で定常的に観測されており、特に夜側で50%を超える大振幅の密度擾乱が報告されている。背景温度場と反相関であることから飽和した大気重力波であることが示唆されている(Terada et al., 2017)。考えうる励起源の可能性は、(1)下層大気で励起された大気重力波が上方伝搬したもの、(2)太陽風や太陽高エネルギー粒子など外的要因により上部から注入されたエネルギーにより励起されたのの、の2つが考えられるが、その励起源は未だ明らかでない。
近年、MAVEN探査機によって発見された新しい火星オーロラ(Schneider et al., 2015, 2020)は、太陽高エネルギー粒子SEP到来に伴って火星夜側全球を覆う発光現象でありその発光高度が60kmにおよぶことから、宇宙環境変動が火星大気深部へエネルギーを全球的に注入し大きな影響を及ぼしうることを示唆した。特に、大気散逸のリザーバである超高層大気におけるSEPによる電離・解離・加熱・擾乱効果は、大気散逸へも影響を及ぼしうることから興味深く、非磁化惑星である火星の宇宙環境変動応答の理解に重要である。
本研究では、MAVEN搭載質量分析器NGIMSを用いることで、火星熱圏でみられる密度擾乱成分の長期間年々変化を明らかにすることを目的とする。特に、NGIMSはViking以来となる多分子観測を実現しており、ここではCO2密度擾乱とN2密度擾乱の振る舞いの違いに着目し、励起源の制約を試みる。本研究ではNASA PDSに登録されている公開NGIMSデータ Level-2、version-8を用いた。
2015年から2020年に及ぶ5年間のCO2密度擾乱成分の変遷に着目すると、5年間通じて昼側よりも夜側で密度擾乱振幅が顕著に大きいことがわかる。これは近年の先行研究結果と合致する(Terada et al., 2017; Nakagawa et al., 2020)。一方で、年毎にその密度擾乱振幅に違いがみられることにも着目する。本書では、年々変化に対する下側要因・外的要因それぞれとの因果関係を詳しく議論する。もう一つの大きな特徴は、CO2とN2の擾乱振幅成分の関係である。統計的な結果を見ると、双方は基本的に相関がよく、CO2の方がN2よりも擾乱振幅が大きい傾向を示す。これはCui et al. (2014)およびEngland et al. (2016, 2017)の結果と合致し、背景密度で規格化された擾乱振幅がスケールハイトに反比例することから、振幅比は分子種の質量比と対応するためである。実際、CO2とN2の擾乱振幅の散布図を作成すると、CO2とN2の質量比である28/44 ~ 0.64の直線にほぼ従った分布を示す。軌道毎の擾乱成分を分析すると、CO2とN2は位相が非常によく合っているケースが多く見られる。一方で、N2擾乱振幅がCO2のそれを上回るケースや位相が合わないケースも存在していることがわかる。大変興味深いことに、我々の火星大気全粒子Direct Simulation Monte-Carlo (DSMC)モデリング(Terada et al., 2016)の予測によれば、降り込み粒子を注入した際に熱圏高度で励起された大気波動は、分子種によって波長・振幅が異なり、ソース領域から離れるに従って、N2擾乱振幅がCO2のそれを上回るケースが存在しうることを示唆している(Terada et al., in prep.)。本書では、この数値モデルとの予測と観測から得られた示唆について比較し考察する。
近年、MAVEN探査機によって発見された新しい火星オーロラ(Schneider et al., 2015, 2020)は、太陽高エネルギー粒子SEP到来に伴って火星夜側全球を覆う発光現象でありその発光高度が60kmにおよぶことから、宇宙環境変動が火星大気深部へエネルギーを全球的に注入し大きな影響を及ぼしうることを示唆した。特に、大気散逸のリザーバである超高層大気におけるSEPによる電離・解離・加熱・擾乱効果は、大気散逸へも影響を及ぼしうることから興味深く、非磁化惑星である火星の宇宙環境変動応答の理解に重要である。
本研究では、MAVEN搭載質量分析器NGIMSを用いることで、火星熱圏でみられる密度擾乱成分の長期間年々変化を明らかにすることを目的とする。特に、NGIMSはViking以来となる多分子観測を実現しており、ここではCO2密度擾乱とN2密度擾乱の振る舞いの違いに着目し、励起源の制約を試みる。本研究ではNASA PDSに登録されている公開NGIMSデータ Level-2、version-8を用いた。
2015年から2020年に及ぶ5年間のCO2密度擾乱成分の変遷に着目すると、5年間通じて昼側よりも夜側で密度擾乱振幅が顕著に大きいことがわかる。これは近年の先行研究結果と合致する(Terada et al., 2017; Nakagawa et al., 2020)。一方で、年毎にその密度擾乱振幅に違いがみられることにも着目する。本書では、年々変化に対する下側要因・外的要因それぞれとの因果関係を詳しく議論する。もう一つの大きな特徴は、CO2とN2の擾乱振幅成分の関係である。統計的な結果を見ると、双方は基本的に相関がよく、CO2の方がN2よりも擾乱振幅が大きい傾向を示す。これはCui et al. (2014)およびEngland et al. (2016, 2017)の結果と合致し、背景密度で規格化された擾乱振幅がスケールハイトに反比例することから、振幅比は分子種の質量比と対応するためである。実際、CO2とN2の擾乱振幅の散布図を作成すると、CO2とN2の質量比である28/44 ~ 0.64の直線にほぼ従った分布を示す。軌道毎の擾乱成分を分析すると、CO2とN2は位相が非常によく合っているケースが多く見られる。一方で、N2擾乱振幅がCO2のそれを上回るケースや位相が合わないケースも存在していることがわかる。大変興味深いことに、我々の火星大気全粒子Direct Simulation Monte-Carlo (DSMC)モデリング(Terada et al., 2016)の予測によれば、降り込み粒子を注入した際に熱圏高度で励起された大気波動は、分子種によって波長・振幅が異なり、ソース領域から離れるに従って、N2擾乱振幅がCO2のそれを上回るケースが存在しうることを示唆している(Terada et al., in prep.)。本書では、この数値モデルとの予測と観測から得られた示唆について比較し考察する。