日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG19] 宇宙における物質の形成と進化

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.04 (Zoom会場04)

コンビーナ:瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)、大坪 貴文(自然科学研究機構 国立天文台)、野村 英子(国立天文台 科学研究部)、座長:荒川 創太(国立天文台)、山本 大貴(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

11:45 〜 12:00

[PCG19-05] ngVLAで探る、原始星エンベロープと円盤の分子組成に対するX線放射の影響

*野津 翔太1、坂井 南美1、野村 英子2、van Dishoeck Ewine3、Walsh Catherine4、Bosman Arthur5 (1.理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室、2.国立天文台 科学研究部、3.Leiden Observatory, Faculty of Science, Leiden University、4.School of Physics and Astronomy, University of Leeds、5.Department of Astronomy, University of Michigan)

キーワード:宇宙化学、原始星、原始惑星系円盤、スノーライン、ngVLA、分子

星・惑星形成領域において、H2O分子はガスの冷却やダストの合体成長過程で重要な役割を果たすほか、複雑な有機分子へと至る化学反応の鍵となる分子の一つである。近年の観測により、複数の低質量原始星周りのエンベロープ内縁高温部において、分子雲のH2O氷組成(∼10-4)と比べ著しく低いH2Oガス分子組成(<10−6)が報告されている(e.g., Persson et al. 2016)。原始星の強いX線放射によるH2O分子の破壊反応が効いている可能性があるが (e.g., Stauber et al. 2006)、その詳細な反応過程や、代わりに酸素原子を保持する関連分子の組成等は詳しく調べられていなかった。
 発表者らはこれまでに、ガス・ダスト化学反応ネットワーク (e.g., Walsh et al. 2015)にX線関連の化学反応を加えた上で、低質量 Class 0 原始星周りのエンベロープの詳細な化学構造計算を行い、 H2Oや関連分子組成の中心星X線放射に対する依存性等を調べてきた。その結果、原始星のX線放射が比較的強い(>1030 erg s−1) 場合、H2Oスノーライン(昇華領域)の内側で X線由来の光解離反応やイオン・分子反応によりH2Oガス分子組成が減少する(<10−6)事、及びH2Oスノーラインの外側でX線由来の光脱離反応によりH2Oガス分子の組成が増加する事が示された。またH2Oガス分子の破壊に伴い、O及びO2ガス分子の組成が著しく増加し(∼10−4)、X 線放射の影響が小さいCOと合わせて、酸素原子のほとんどを保持する事が分かった。そして原始星エンベロープにおいてHCO+やCH3OHガス分子の組成分布はH2Oスノーラインの指標としても用いられるが(e.g., van’t Hoff et al. 2018a,b)、これらの分子組成がX線放射に対する強い依存性を示す事等も分かった。
 その後計算を進めた結果、ngVLA(次世代大型ミリ波センチ波干渉計)にてH2Oスノーラインの指標として空間分布の観測が期待されているNH3についても、 強いX線放射の元でH2Oスノーライン内側付近でのガス組成が大きく減少するなど、X線放射に対する大きな依存性を示すことが分かってきた。本発表ではこれらの計算結果の詳細を報告すると共に、ngVLAによるHCO+, CH3OH, NH3などの観測を通じて、原始星エンベロープと円盤の分子組成に対するX線放射の影響を評価する可能性についても議論を行う。