日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG19] 宇宙における物質の形成と進化

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.06

コンビーナ:瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)、大坪 貴文(自然科学研究機構 国立天文台)、野村 英子(国立天文台 科学研究部)

17:15 〜 18:30

[PCG19-P01] 星形成領域Sagittarius B2(N)における前生物的分子CH3NCOの塵表面生成の調査

*荒木 光典1、出岡 恭一1、大野 有紀1、小山 貴裕2、高野 秀路3、久世 信彦2、築山 光一1 (1.東京理科大学、2.上智大学、3.日本大学)

キーワード:ALMA、前生物的分子、イソシアン酸メチル

最初の有機物は彗星によって原始地球にもたらされたと考えられている。しかし有機物を運搬する彗星と生成する分子雲では、化学組成に大きな相違が見られる。その顕著な例が前生物的分子と呼ばれているCH₃NCOである。この分子は彗星67P [1]、星形成領域Sagittarius B2(N) [2]等で検出されている。炭素数が少なく同様の構造を持つHNCOとの存在量比[CH₃NCO]/[HNCO]は、彗星67Pでは4.33[1]と大きく、分子雲では0.1未満[2]と小さい。この化学組成の大きな差が前生物的分子の起源における問題となっている。近年のMajumdarらの理論研究は、この差をCH₃NCOの塵表面生成で説明している[3]。もしこの説明が正しければ、星形成領域の中心部には塵表面から脱離した高温・高濃度のCH₃NCOが存在するはずである。本研究では、Sgr B2(N)のALMAアーカイブによるデータを用い、高い空間分解能(<0.04 pc)でこの理論研究の検討を行った。CH₃NCOの94–113 GHz帯の回転遷移計24本の強度と速度を解析した。強度分布からは、降着円盤と双極分子流の中の両方にCH₃NCOが分布する様子がわかった。回転温度は降着円盤では50–60 K、双極分子流では20–50 Kとなり、柱密度は共に~10162となった。Sgr B2(N)の広範囲観測の結果[2]と比較すると、中心部での高温・高密度が示された。これらの結果はMajumdar らのモデルでのCH3NCOの塵表面生成と矛盾なく、このモデルで分子雲と彗星の存在量比の差を説明できる可能性が高まった。

[1] Goesmann et al., 2015, Sci., 349, 6247. [2] Halfen et al., 2015, ApJL, 812, L5. [3] Majumdar et al., 2018, MNRAS, 473, L59.