日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM09] Dynamics of Magnetosphere and Ionosphere

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.05 (Zoom会場05)

コンビーナ:藤本 晶子(九州工業大学)、尾崎 光紀(金沢大学理工研究域電子情報学系)、佐藤 由佳(日本工業大学)、中溝 葵(情報通信研究機構 電磁波研究所)、座長:尾花 由紀(大阪電気通信大学工学部基礎理工学科)、横山 佳弘(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

14:10 〜 14:25

[PEM09-15] オーロラトモグラフィによる脈動オーロラパッチの3次元空間構造とオーロラ降下電子の再構成

*吹澤 瑞貴1、坂野井 健1、田中 良昌2、小川 泰信2、Gustavsson Björn3、Kauristie Kirsti4、Enell Carl-Fredrik5、Kozlovsky Alexander6、Raita Tero6、Brändström Urban7、Sergienko Tima7 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻惑星プラズマ・大気研究センター、2.国立極地研究所、3.ノルウェー北極大学 - トロムソ大学、4.フィンランド気象研究所、5.欧州非干渉散乱レーダー科学協会、6.オウル大学ソダンキラ地球物理観測所、7.スウェーデン宇宙物理学研究所)

キーワード:脈動オーロラ、コンピュータトモグラフィ

オーロラトモグラフィ (Aurora Computed Tomography: ACT) は、複数の地上観測点に設置された共通視野を持つ光学観測装置によって撮像されたオーロラ単色光画像に対して、医療診断分野でよく用いられるコンピュータトモグラフィ法を応用し、オーロラ3次元空間構造を復元する逆問題解析手法である (e.g., Aso et al., 1999)。また、一般化オーロラトモグラフィ (Generalized-Aurora Computed Tomography: G-ACT) は、オーロラ画像に加えて非干渉散乱レーダーによって観測された電離圏電子密度高度分布データなど複数のデータを組み合わせることで、オーロラ発光を引き起こす降下電子のエネルギー分布や空間分布を再構成する手法である (Aso et al., 2008; Tanaka et al., 2011)。これまで、これらの逆問題解析手法はアークのように空間構造がはっきりした境界を持ったディスクリートオーロラに適用されてきた。一方、脈動オーロラはディフューズオーロラの1種でぼんやりとしたオーロラ発光であるため、限られた枚数のオーロラ画像からオーロラ3次元空間構造を再構成することはより難しい問題となり、これまでACTやG-ACTの適用例は報告されていない。

本研究では、ACTやG-ACTによる脈動オーロラパッチの3次元空間構造や降下電子エネルギー・空間分布の再構成の可能性の検討を行い、最終的にそれらの時間変動を明らかにする事を目的とする。観測データは北欧の3地点(Skibotn(69.35°N、18.82°E)、Kilpisjärvi(69.05°N、20.36°E)、Abisko(68.36°N、18.82°E))に設置された全天カメラによって2018年2月18日0 – 2 UT のサブストーム回復相に観測されたオーロラ画像を使用した。観測波長は427.8 nm であり、時間分解能は2秒である。脈動オーロラは多数のパッチ状オーロラが互いに近接して発生することが多いが、まずは問題を簡単にするために、孤立したパッチ状オーロラが地上3地点から観測されているイベントを探し、ACTを適用してオーロラ画像のみからオーロラ3次元空間構造の再構成を試みた。このとき、再構成結果のノイズを低減するために、脈動オーロラパッチの背景で発光するディフューズオーロラを一様な発光として差し引いてから再構成を行った。

その結果、東西、南北、高度方向にそれぞれ60 km、42 km、14 km の幅を持ったパッチ状のオーロラ3次元空間構造を再構成することができた。再構成結果の精度の検証を行うために、再構成されたオーロラ3次元構造の最大値を通る東西、南北、高度方向の1次元分布を抜き出し、ガウシアンフィッティングを行うことで3次元のモデルオーロラを作成した。そして、このモデルオーロラを地上3地点に投影して疑似画像を作成し、ACTによってオーロラ3次元空間構造を再構成した。そして、3次元モデルオーロラと疑似画像から再構成されたオーロラ3次元空間構造の比較を行った。その結果、発光強度のピーク高度は正しく再構成されていたが、発光強度のピーク値は約18 % 小さく、高度方向の半値全幅はモデルオーロラが12 kmであるのに対し再構成結果は16 kmと約33 % 大きく再構成されていることが分かった。この誤差の要因の一つとしては、脈動オーロラパッチの水平方向に広がった構造が考えられる。脈動オーロラパッチは典型的に水平方向に数十から数百kmの幅を持つのに対して、高度方向には数十km以下の幅しか持たない。そのため、発光高度の下限と上限を視線方向に積分された画像から決定するのがディスクリートオーロラに比べて難しく、再構成結果は高度方向に広がった分布になり、その分ピーク値が小さくなってしまったと考えられる。

次に、同期間の内、Tromsø(69.58°N、19.23°E)のEISCAT UHF レーダー観測点上で脈動オーロラパッチが観測されていたイベントについて、観測画像のみから再構成されたオーロラ3次元体積放射率を電子密度に変換し、EISCAT UHFレーダーによって観測された電離圏電子密度高度分布との比較を行った。その結果、電子密度のピーク値は約32 – 40 % 小さい結果となった。この誤差の要因としては、対象のオーロラパッチの背景で発光しているディフューズオーロラを一様な発光としてACTを行う前に差し引いたこと、ACTによる体積放射率の再構成結果にピーク値の過小評価の可能性があること、そして体積放射率を電子密度に変換する際の実効再結合係数や中性大気モデルの誤差などが考えられる。
今後はオーロラ画像に電子密度データを組み合わせたG-ACTによる脈動オーロラパッチの3次元空間構造の再構成とその精度検証を行い、最終的には脈動オーロラ発光の3次元空間構造と降下電子のエネルギー・空間分布の時間変動を明らかにする予定である。