日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM13] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.05

コンビーナ:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

17:15 〜 18:30

[PEM13-P12] ノルウェー・トロムソにおけるミリ波分光観測による一酸化窒素分子スペクトルデータの解析に関する研究

*後藤 宏文1、水野 亮1、長浜 智生1、中島 拓1、野澤 悟徳1、児島 康介1、川端 哲也1、藤森 隆彰1、鈴木 和司1、小川 泰信2 (1.名古屋大学 宇宙地球環境研究所、2.国立極地研究所)

キーワード:大気微量分子、オゾン、一酸化窒素、ミリ波分光計、中層大気、ノルウェー・トロムソ

極域では、高エネルギー粒子が地球大気に降り込むことによって、上層で窒素酸化物(NOx)が増加し、これが下方輸送されることにより、成層圏~中間圏のオゾンが破壊されることが知られている。我々の研究グループでは、2011年から南極昭和基地にて大気微量分子が回転遷移によって放射するミリ波電波を地上観測することにより、オゾンとNOの変動を観測しており、主に日照による光化学反応と高エネルギーの電子の降り込みがNOの変動に影響していることを明らかにした(Isono et al., JGR, 2014)。しかし、日照時間が長い夏期においては、光化学反応と電子の降り込みによるそれぞれの影響を切り分けることができないという課題が明らかになった。そこで現在、季節が逆になる北極域(ノルウェー・トロムソ)に新たに観測装置を設置し、南北両極で同時モニタリングをすることで、課題の解決を目指している。トロムソはミリ波地上観測にとっては初めての観測地であるため、周囲の電波環境や新たな観測装置の特性は明らかではなく、実際にどのような質のデータが取れるのかということの確認が必要である。本研究では、微弱なNOスペクトルを充分な精度で得ることを目的として、1)取得された全てのNOスペクトルデータを精査し、解析に使用できない質の悪いものをスクリーニングすること、2)下層大気による影響を補正するために取得している光学的厚みのデータを調べ、適切な補正に使えるか確認すること、3)NOスペクトルデータに含まれる連続波成分を除去するため、適切なベースライン補正を行うことの3点を行った。
まず、トロムソで観測が実施された2018年12月26日から2019年3月10日までの全てのNOスペクトルデータを精査し、全周波数に渡って大きなノイズを含むデータと一部の周波数にスパイク状のノイズを含むデータについて、スクリーニングの条件を決めて除去した。全体的なノイズとスパイク状のノイズの起源は、それぞれ悪天候による下層大気の寄与と近距離で稼働しているEISCAT UHF/VHFレーダー波の混入が可能性として挙げられる。
次に光学的厚みのデータにおいては、時間的変動が大きい場合にはNOスペクトルに対する適切な補正ができないと判断し、その基準として値の分散が0.04以上の場合と定めた。一方で、求められた光学的厚みの値が本来取りえない負の値となる期間が見つかった。この原因は、観測窓の外側にできた氷柱の影響と突き止め、影響を受けていると思われるデータのみを除去することにより、光学的厚みの値が正しく計算されることが確認できた。
最後に、スクリーニングで残ったNOスペクトルデータに対して、ベースラインの補正を行った。250.82 GHz付近にあるNOスペクトルの両端5 MHzずつの範囲を輝線成分の無い周波数と考えてベースラインをフィットすることで、微弱なNOスペクトルを有意に検出することに成功した。さらに、そのスペクトルからNOのカラム量を求めた。今後、その結果を南極昭和基地のデータと比較する予定である。