日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS01] Outer Solar System Exploration Today, and Tomorrow

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.02

コンビーナ:木村 淳(大阪大学)、M. Kunio Sayanagi(Hampton University)、土屋 史紀(東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター)、Cindy Young(NASA Langley Research Center)

17:15 〜 18:30

[PPS01-P04] 新しい木星夜側磁気圏磁場及びカレントシートモデルとそれらの長期変動

*桃木 尚哉1、藤 浩明2 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センター)

キーワード:木星、磁気圏磁場、カレント・シート、長期変動

木星磁気圏の夜側には,プラズマ密度が高いシート状の領域,すなわちカレント・シート(CS)が存在している。その形状は,木星自転に伴う木星固有磁場の振動や太陽風などにより時間変化する。またCSは,それ自身を流れる電流によって磁場を生成しており,このCS由来の磁場は,夜側磁気圏において木星固有磁場と共に支配的な成分を構成する。

木星圏ではPioneer 10号による初観測以来,これらCSの形状及び磁気圏磁場についてのモデリングが行われてきた。しかし,Galileo探査機やそれに続く現在運用中のJunoといった新しい探査機によるデータを用いたモデルの更新は,十分に行われているとは言えない状況にある。これを踏まえ本研究では,CS形状としてKhurana (1992)モデルに,CSによる磁場としてKhurana (1997)モデルに注目し,これらを新たに加わったデータと新たに開発した手法を用いて更新した。さらに磁場モデルについては,モデル・パラメータの誤差推定を行い,磁場モデルのパラメータ変化に基づく木星磁気圏長期変動の検出も行った。

CS形状モデルは,木星自転に伴って振動する曲面として表現され,その形状を特徴づける要素として,(i)有限の振動伝搬速度に由来するbendback,(ii)太陽風に由来するhingeの二つがある。形状モデル更新の結果,Galileoモデルではbendbackの弱化が見られ,Galileo探査機の活動期間中に何らかの理由によって磁気圏内の平均的なAlfvén速度が増加していたことが明らかになった。またJunoモデルではhingeの弱化が見られ,これは太陽活動極小期における太陽風動圧の減少と関連している事が示唆された。

CS由来の磁場モデルは,オイラー・ポテンシャルと呼ばれる2つのスカラーによって表現され,CS形状モデルに依存する形で求められている。磁場モデル更新の結果,観測された磁場をモデルがよく再現している事に加え,得られたモデル・パラメータの値がモデル更新に用いるデータに依存している事が明らかになった。またパラメータの誤差推定を磁場データの測定分解能を利用して行った結果,一部のパラメータが有意な長期変動を示していることがわかった。木星磁気圏磁場変動の主な要因として,太陽活動度の変化及びCSを流れる電流量(CS電流量)の変化の二つが考えられる。更新した磁場モデルの比較を行った結果,太陽活動度の変化に依るというよりCS電流量の変化に起因すると解釈できる長期変動の存在が明らかになった。すなわち,CS電流量がGalileo探査機の観測期間中に有意に減少していたと考えられる。

本研究で得られた磁場モデルは,探査機が観測する磁場の予測や,磁場を生成する電流密度,すなわちCSによる電流密度の解析的な計算に利用できる他,各ガリレオ衛星が感じる外部磁場変化の予測に用いることができる。ガリレオ衛星のうち,氷で覆われたエウロパ・ガニメデ・カリストの三衛星は,その内部に液体の水を有している可能性が指摘されており,NASAのEuropa Clipper やESAのJUICEといった既に打ち上げが決定している木星圏探査機が将来もたらすデータを解析する際に,本研究で得られた手法及び結果が,氷ガリレオ衛星内部の電磁誘導探査等の場面で活用されることが期待される。