日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] 月の科学と探査

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.03 (Zoom会場03)

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、長岡 央(理化学研究所)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、座長:長岡 央(理化学研究所)、西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

12:00 〜 12:15

[PPS05-06] 月極域水から解読する、月-地球軌道を横切る惑星水フラックス

*橋爪 光1、山中 千博2、鹿山 雅裕3、大竹 真紀子4 (1.茨城大学、2.大阪大学、3.東京大学、4.会津大学)

キーワード:月、極域、水、同位体

地球表層を覆う大量の水は、スノーライン以遠の寒冷な太陽系に存在した固体惑星物質に含まれていたものが、地球に輸送されたものだと考えられている。この惑星水が地球に降着する頻度(フラックス)、ならびに、過去から現在に向けたその経時変化を知ることは、惑星科学の中心的課題の一つである。本研究では、惑星水フラックスの全解明を目指した研究枠組みの中の第一歩として、現在の惑星水フラックスを、月極域の表土中に濃集すると我々が期待する、月面水の同位体分析から制約する計画を述べる。

惑星水とは、大小さまざまな隕石や彗星などの太陽系小天体に含まれる水の総称である。惑星水が地球に降着する頻度は、それが月に降着する頻度から容易に推定できる。現在の月面は、全体としてはほぼ無水の状態であり、そこに付加される惑星水のフラックス推定は、現に水で覆われ高バックグラウンド状態にある地球における同じ推定よりはるかに容易である。ただし、高温な月面低・中緯度域では水は表土中に恒久的に留まるとは許されず、蒸発し月面上空を漂うことになる。月面上空を漂う水分子はやがて月の重力圏から失われてしまう。これに対して、低温な月面極域では事情が異なる。月面上空を漂い、極域において月面に降着した水分子は、一旦極域の表土内に吸着・凝縮し、さらにその一部は表土内部に輸送され、そこで相当長期間捕獲されると期待されている(Schorghofer & Taylor, 2007)。

惑星水が全月面に降着するフラックスを求めよう。月面における水分子の挙動、その輸送・捕獲効率を一つ一つ評価しそれを積み重ねて極域で観測される水量から全月面の水フラックスを逆算するアプローチが正攻法かもしれない。しかし、それらの効率評価が今後実現したとしても、おそらくはそれぞれに大きな不確定性が付随し、それを積み重ねるたびに不確定性は増大し、おそらくはフラックスは求まらないであろう。本研究では、全月面から極域に濃集する惑星水のフラックス推定の別アプローチを提案する。

月面に供給される、あるいは、生成される水は、必ずしも全てが惑星物質起源ではなく、その一部は太陽風により生成されると考えられている。月岩石に太陽風プロトンが照射され、岩石内において水素と酸素が結合し水が生成される(Ichimura et al., 2012)。月面表土岩石内で生成された太陽水は、一定の効率で月面上空に放出され、惑星水と全く同じ経路を経て、月極域表土内に捕獲される。すなわち、極域表土内に存在する太陽水と惑星水の比率が解明できれば、全月面の太陽水の生成効率と惑星水フラックスの比が求まる。極域水を構成する太陽水と惑星水の比率は、両者で重水素/水素比が二けた程度異なることを利用して求めることができる。このアプローチでは、月極域水の重水素/水素比と、太陽水の平均的な生成効率の二つが解明されると、惑星水フラックスが最終的に求まる。

日本で進める月極域探査計画では、月表土内に濃集する水の資源利用可能性が評価される。その評価の一環として、極域水の農集原理の解明のために水の重水素/水素比の測定が検討されており、ここに掲げる惑星科学課題推進への大きな寄与が期待される。