日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] 月の科学と探査

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.02

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、長岡 央(理化学研究所)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[PPS05-P05] ARTEMIS衛星により月周辺で観測された「さえずり」を伴うホイッスラーモード波動について

*沢口 航1、原田 裕己1、栗田 怜2 (1.京都大学理学研究科、2.京都大学生存圏研究所)

キーワード:月、ホイッスラーモード波動、ARTEMIS

ホイッスラーモード・コーラス放射は典型的には電子サイクロトロン周波数の0.2-0.8倍の周波数を持つ、狭帯域の電磁波動である。コーラスという名称は、短時間に周波数が上昇または下降する特徴的な周波数構造のために、音に変換すると鳥の「さえずり」のように聞こえることに由来している。コーラス放射は主に地球内部磁気圏で観測されているほか、木星・土星・火星の磁気圏においても存在が確認されているが、月のような大気が希薄で固有磁場の弱い天体の周辺では未だ発見されていなかった。
月は全球的な固有磁場や濃密な大気を持たないが、太陽風や地球磁気圏尾部のプラズマが月面や地殻磁場と相互作用を起こし、様々なプラズマ現象を引き起こすことが知られており、ホイッスラーモード波動についても、月に向かう波動と月面で磁気的に反射され上昇する電子とのサイクロトロン共鳴により月近くで励起されることが知られている。このホイッスラーモード波動励起においては、月面での平行電子の吸収と垂直電子の磁気的な反射による速度分布関数の実効的な温度異方性が自由エネルギー源となっている。このような月周辺のホイッスラーモード波動の振幅は地球磁気圏で見られるものと同程度に大きく、コーラス放射へと成長することも期待できる。
本研究ではARTEMIS衛星により観測された、コーラス放射と同様の周波数的特徴をもつホイッスラーモード波動イベント2例について、二点同時観測によるデータ比較および理論との整合性の検証の2種類の解析を行った。ARTEMIS衛星の二点同時観測データについて波動の有無や電子ピッチ角分布を比較することで、イベントが月に由来するものであることが確かめられた。また、Omura et al. (2008)によるコーラス放射の非線形成長モデルに基づき、粒子と磁場の観測データを用いて波動の成長を予測したところ、実際に観測されたイベントと概ね一致する結果が得られた。これらの結果は大気や固有磁場の存在しない月環境のホイッスラーモード波動であっても、惑星磁気圏のコーラス放射と同様の非線形な成長過程が存在することを示唆するものである。本発表では、このような波動イベントと月面の磁気異常との関わりについても議論する予定である。