日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2021年6月3日(木) 13:45 〜 15:15 Ch.04 (Zoom会場04)

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、座長:藤井 悠里(京都大学大学院 人間・環境学研究科)、星野 遥(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻)

14:45 〜 15:00

[PPS06-05] ダスト成長による原始惑星系円盤の鉛直シア不安定性の抑制: 円盤観測への示唆

*福原 優弥1、奥住 聡1 (1.東京工業大学地球惑星科学系)


キーワード:原始惑星系円盤、ダスト進化、乱流、鉛直シア不安定性、HL Tau円盤

惑星形成は、原始惑星系円盤内のダスト分布や進化の影響を強く受ける。このうち、ダストの赤道面への強い沈殿は、ダスト成長や微惑星形成を促進することが知られている。このダストが沈殿していることを観測的に示唆する天体として、HL Tau周りの原始惑星系円盤がある。近年の電波高解像度観測により、HL Tau円盤はダストのギャップを複数持つ円盤であることがわかっている。これらのギャップがダスト連続波光のリングと分離されていることから、HL Tau円盤外側のダストは鉛直方向に沈殿していることが明らかになった。
 このダストの赤道面への沈殿は、 円盤外側で鉛直方向の乱流拡散が弱いことを意味する。しかし、近年円盤外側での乱流駆動源として注目されている鉛直シア不安定性(Vertical Shear Instability)は、鉛直方向にダストを強く巻き上げる乱流を駆動することが知られている。これは、HL Tau円盤の観測から推定される鉛直方向の乱流拡散の強度より10倍程度強い。もしHL Tau円盤の乱流駆動源が鉛直シア不安定性である場合、観測で見えているダストの強い沈殿が起こらない可能性がある。
 一方で、この鉛直シア不安定性駆動の乱流を弱める要因として、ダスト成長や赤道面への沈殿が考えられている。鉛直シア不安定性は、円盤ガスの素早い冷却が駆動条件であり、駆動する領域は円盤の冷却率分布に依存する。ダスト成長や赤道面への沈殿は、円盤の冷却率分布に影響を与え、赤道面より上層の冷却を非効率にする働きをする。
 そこで本研究は、ダスト進化を考えたときの鉛直シア不安定性駆動乱流の拡散係数を、線形解析から推定するモデルを構築した。さらにそれをHL Tau円盤へ適用し、観測されるダスト沈殿が実現可能かどうか議論した。このモデルは、円盤内のおける沈殿を考慮したダスト分布から線形解析によって鉛直シア不安定性が駆動しうる領域と成長率を求め、それらから鉛直シア不安定性駆動の乱流の鉛直拡散係数を推定する。このとき、このモデルは鉛直シア不安定性の数値流体シミュレーションと整合的になるよう構築した。この推定された拡散係数と、初期に与えるダスト分布を計算するのに必要な拡散係数を比較し、鉛直シア不安定性駆動の乱流がどのように進化するかを調べた。
 その結果、鉛直シア不安定性駆動の乱流によるダストの拡散は弱まり、HL Tauの観測と整合的なダスト沈殿が実現可能であることがわかった。ダストが最大1 mmまで成長したとき、鉛直シア不安定性駆動の乱流の鉛直方向の拡散係数は10^(-4)程度に落ち着くことが予想される。これは観測から想定される鉛直方向の拡散係数の最大値~10^(-4)と整合的である。また、仮に鉛直シア不安定性によってダストが一時的に強く拡散したとしても、この強い拡散は維持できず、ダストは赤道面に沈殿する可能性があることがわかった。
 本研究の結果は、ダスト進化が強いダスト拡散を引き起こす鉛直シア不安定性駆動乱流を抑制する可能性があることを示唆する。乱流拡散が一般的にダスト成長や微惑星形成を阻害する要因であることを考えると、これは鉛直シア不安定性駆動の乱流下でのダスト成長や微惑星形成を促進する可能性がある。