日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.04 (Zoom会場04)

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、座長:杉浦 圭祐(東京工業大学 地球生命研究所)、小林 真輝人(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

10:00 〜 10:15

[PPS06-17] 彗星核を模擬した多孔質氷に対する高速度衝突実験:衝突残留熱へのエネルギー分配率

*笹井 遥1、保井 みなみ1、荒川 政彦1、白井 慶1 (1.神戸大学)

キーワード:彗星、クレーター、衝突残留熱、衝突溶融、多孔質氷天体

背景:近年の探査機探査や地上観測により,彗星核は多孔性の高い氷状体であるなど,非常に密度が低いことが明らかになってきた(例:67P/CGのバルク空隙率は72-74%)(Pätzold et al., 2016).このような多孔質氷状体に小天体が高速で衝突すると,衝撃圧力の急速な減衰に伴う衝撃エネルギーの散逸により,クレーター孔周辺に大量の熱が蓄積される(Kraus et al., 2010).この熱は衝撃残留熱と呼ばれ,多孔質氷体の最も重要な熱源の一つであると考えられる.また,衝撃残留熱はクレーター下に一時的な溶融池を形成し,水質変成や有機化学反応を促進する可能性がある.特に,彗星核上の有機物の形成環境はこれまであまり知られておらず,衝突加熱による彗星上の一時的な溶融池での化学反応が形成環境の一つとして期待されている.しかしながら,氷微惑星のクレーター周辺の衝突残留熱や溶融量に関連した数値シミュレーションはいくつか行われているものの,実験的研究は行われていない(e.g., Kraus et al. 2011).本研究では,彗星核を模擬した多孔質氷を用いて高速衝突実験を行い,衝突後のクレーター周辺の温度のその場測定を行った.

実験手法:氷粒子(< 710 mm)を圧縮して,空隙率40, 50, 60%の円筒状の多孔質氷標的を作製し,冷凍庫(-20 ℃)で焼結させた.その際,衝突点からの距離を変えて3〜5個の熱電対をターゲットに埋め込んだ.衝突実験は,神戸大の2段式軽ガス銃を用いて,-15℃の低温室で衝撃実験を行い,弾丸には直径2 mmのアルミ球を用いた.衝突速度は40%と60%ターゲットで4.2 km/s,50%ターゲットで3.0-5.8 km/sであった.高速度カメラを用いて,クレーター形成過程を観察した.熱電対で測定した温度は,衝突後5分間データロガーで記録した.衝突後,再凍結して大きくなった氷粒子(> 710 mm)をふるいにかけて分離し,質量測定を行った.

結果と考察:クレーター径はターゲット空隙率の増加に伴って増加した.強度領域におけるクレーター半径のπスケーリング則を適用した結果(Housen & Holsapple, 2011),規格化クレーターサイズπRは非多孔質氷よりも小さくなることがわかった.また,クレーター孔中心からの距離が大きくなるにつれて温度上昇は指数関数的に減少し,クレーター壁付近の温度は0℃を超えて上昇した.これは,クレーター壁付近の氷粒子が溶融していたことを意味する.クレーター孔中心からの距離に応じて変化する温度分布を表すために,各熱電対の最大温度上昇量ΔTmaxを用いた.ΔTmaxはターゲットの空隙率と衝突速度に依存し,クレーター孔中心の距離が同じとき,特に空隙率が大きいほどΔTmaxは大きくなることがわかった.しかし,このΔTmaxの系統的な変化は,正規化された距離x/Rpitmax (xはクレーター空洞中心からの距離,Rpitmaxはクレーター空洞の最大半径)を用いてよくスケーリングされ,x>1.2ではΔTmax=4.7(x/Rpitmax)-2.6の関係が得られた.
このΔTmaxの分布は,単純な熱伝導モデルを用いて再現可能であると考えられる.最終的なクレーター壁に位置する,薄い溶融層に蓄積された衝突残留熱が標的内部へ伝導すると仮定し,数値計算を行った.これにより衝撃残留熱は,エネルギー変換効率として得られ,またターゲット空隙率に依存していることを明らかにした.空隙率40%では0.09,空隙率50%では0.32,空隙率60%では0.51となった.