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[PPS06-18] 土星リング粒子を模擬した多孔質氷球の低速度衝突実験:反発係数及び付着特性に対する空隙率依存性
キーワード:土星リング、反発係数、付着
土星のリングは幅が数万kmであるのに対して,厚さが数100 mと非常に薄く,直径が数mmから数mまでの水氷からなる粒子で構成されていることが知られている.また,カッシーニ探査機により,リングが作る様々な構造やリング内の微小氷衛星の存在が明らかになり,リングや微小氷衛星の形成過程に関する理論計算が盛んに行われている.リングが作る構造の発生条件はリング粒子のランダム速度に制約され,ランダム速度はリング粒子の公転速度の差からのエネルギー変換と,粒子の非弾性衝突によるエネルギー散逸の釣り合いから決まることが分かっている.従って,その形成過程を知るためには,リング粒子の非弾性衝突によるエネルギー散逸のメカニズムを明らかにする事が重要である.また,リング粒子同士の平均相対衝突速度は数cm/s以下であると言われており,そのような低速度では,付着が起こる可能性がある.一方,薄い円環状のリングが維持されるには,反発係数が0.6程度である必要があると,数値計算推測されている.以上から,このような低速度でのリング粒子の破壊・反発・付着などの衝突特性及び条件について調べる必要がある.これまでの先行研究の室内実験では,空隙のない水氷の衝突特性については調べられているが,リング粒子はカッシーニの観測から高空隙率の氷粒子の集合体であることが予測されていることから,この氷球は観測と整合的ではない.そこで,氷粒子集合体がリング中の構造や土星の薄い円環状のリングを維持できるかを検討する必要がある.
本研究では,多孔質氷球の反発係数及び付着特性を明らかにし,薄い円環状である土星リングを維持しているリング粒子の内部構造を推定するため,多孔質氷球と多孔質氷板との低速度衝突実験を行い,衝突速度と反発係数の関係及び付着開始速度に対する空隙率依存性を調べた.
実験は-15℃の低温室内で実施し,球を板に自由落下させることで反発係数を測定した.多孔質氷球(半径1.5cm,空隙率47%,53%,60%)は氷粒子(平均粒径20μm)を球形に押し固めて作成した.また,標的板は多孔質氷球と同様に作成した多孔質氷板(半径1.5cm,高さ2cmの円盤形,空隙率43~60%)を使用した.反発係数はレーザー変位計を使用し,衝突の時間間隔を測定することで求めた.衝突速度範囲は2.33~76.4cm/sであった.
氷球の反発係数は球に傷ができ始める速度である限界速度より小さい衝突速度では準弾性領域,大きい衝突速度では非弾性領域となることが知られている.準弾性領域では衝突速度によらず反発係数は一定となるが,非弾性領域では衝突速度の増加に伴って反発係数は小さくなる.一方,多孔質氷球の反発係数は,衝突速度の増加とともに反発係数は下がり続け,準弾性領域は確認されなかった.衝突速度が大きい領域では空隙率が大きいほど反発係数は低くなったが,衝突速度が小さい領域では空隙率依存性はほぼ見られなくなった.この関係は経験式e=e0*vi-b(eは反発係数,viは衝突速度)で表すことができ,e0,bは空隙率47%では0.47,0.17,空隙率53%では0.59,0.36,空隙率60%では0.36,0.27であった.ただし,衝突速度が小さい領域の反発係数は2回目以降の衝突で得られるため,1回目の衝突により,表面状態が変化した影響を考慮する必要がある.
付着特性について調べた結果,衝突速度が低下するにつれて反発と付着のどちらも起こる混合領域が確認され,更に低速度になると反発が確認されなくなった.この混合領域が開始する衝突速度は,空隙率47%では10.3 cm/s,空隙率53%では12.9 cm/s,空隙率60%では9.68 cm/sであった.また,反発が確認されなくなった衝突速度は空隙率47%では3.53 cm/s,空隙率53%では1.27 cm/s,空隙率60%では9.22 cm/sであった.
これらの結果から,1cm/s以下の衝突速度程度では,反発が起こらないことが推測される.しかし,土星表面温度は100K程度であり,実験を行った温度よりも低温であるため,付着開始速度はより低速であると考えられる.従って,今回得られた経験式に強い温度依存性がないと仮定してより低速度まで外挿すると,反発係数が0.6になるのは衝突速度が空隙率47%では0.24 cm/s,空隙率53%では0.95 cm/s,空隙率60%では0.15 cm/sの時であった.これはシミュレーションによって推定されている相対衝突速度(0.3~0.5 cm/s以下)とほぼ整合的であることが分かった.
本研究では,多孔質氷球の反発係数及び付着特性を明らかにし,薄い円環状である土星リングを維持しているリング粒子の内部構造を推定するため,多孔質氷球と多孔質氷板との低速度衝突実験を行い,衝突速度と反発係数の関係及び付着開始速度に対する空隙率依存性を調べた.
実験は-15℃の低温室内で実施し,球を板に自由落下させることで反発係数を測定した.多孔質氷球(半径1.5cm,空隙率47%,53%,60%)は氷粒子(平均粒径20μm)を球形に押し固めて作成した.また,標的板は多孔質氷球と同様に作成した多孔質氷板(半径1.5cm,高さ2cmの円盤形,空隙率43~60%)を使用した.反発係数はレーザー変位計を使用し,衝突の時間間隔を測定することで求めた.衝突速度範囲は2.33~76.4cm/sであった.
氷球の反発係数は球に傷ができ始める速度である限界速度より小さい衝突速度では準弾性領域,大きい衝突速度では非弾性領域となることが知られている.準弾性領域では衝突速度によらず反発係数は一定となるが,非弾性領域では衝突速度の増加に伴って反発係数は小さくなる.一方,多孔質氷球の反発係数は,衝突速度の増加とともに反発係数は下がり続け,準弾性領域は確認されなかった.衝突速度が大きい領域では空隙率が大きいほど反発係数は低くなったが,衝突速度が小さい領域では空隙率依存性はほぼ見られなくなった.この関係は経験式e=e0*vi-b(eは反発係数,viは衝突速度)で表すことができ,e0,bは空隙率47%では0.47,0.17,空隙率53%では0.59,0.36,空隙率60%では0.36,0.27であった.ただし,衝突速度が小さい領域の反発係数は2回目以降の衝突で得られるため,1回目の衝突により,表面状態が変化した影響を考慮する必要がある.
付着特性について調べた結果,衝突速度が低下するにつれて反発と付着のどちらも起こる混合領域が確認され,更に低速度になると反発が確認されなくなった.この混合領域が開始する衝突速度は,空隙率47%では10.3 cm/s,空隙率53%では12.9 cm/s,空隙率60%では9.68 cm/sであった.また,反発が確認されなくなった衝突速度は空隙率47%では3.53 cm/s,空隙率53%では1.27 cm/s,空隙率60%では9.22 cm/sであった.
これらの結果から,1cm/s以下の衝突速度程度では,反発が起こらないことが推測される.しかし,土星表面温度は100K程度であり,実験を行った温度よりも低温であるため,付着開始速度はより低速であると考えられる.従って,今回得られた経験式に強い温度依存性がないと仮定してより低速度まで外挿すると,反発係数が0.6になるのは衝突速度が空隙率47%では0.24 cm/s,空隙率53%では0.95 cm/s,空隙率60%では0.15 cm/sの時であった.これはシミュレーションによって推定されている相対衝突速度(0.3~0.5 cm/s以下)とほぼ整合的であることが分かった.