日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.03

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[PPS06-P11] 天体の脱出速度に達する高速度岩石エジェクタに関する実験的研究

*野村 啓太1、中村 昭子1、長谷川 直2 (1.神戸大学大学院理学研究科、2.宇宙航空研究開発機構)


キーワード:衝突プロセス、エジェクタ

火星衛星フォボスからのサンプルリターンを行うMMXミッションが2020年代に計画されており,火星衛星の起源や火星圏の進化過程の解明が期待されている.
これら衛星表面には,火星への衝突によって掘削され脱出速度を超える速度で放出された火星物質が存在すると考えられている[1].火星からフォボスに到達するのに必要なエジェクタ速度の4 km/sを超える高速なエジェクタについてのサイズと速度の関係は,衛星表面に到達するエジェクタ量の推定に制約を与えるために重要となる.
衝突エジェクタのサイズと速度に関する研究として,モデル計算[2][3],月や火星の二次クレーター解析[4]や室内実験[5]などが行われており,サイズと速度の関係には傾向があることが示されている.しかし,二次クレーター解析では原理上,天体の脱出速度を超えるエジェクタの測定は不可能である.また室内実験においても1 km/s以上のエジェクタのサイズ-速度の情報は限定的であり,火星からフォボスに到達するのに必要なエジェクタ速度を上回る高速なエジェクタに関する情報を標的から放出されるエジェクタの高速度カメラ画像から導出することは困難である.
そこで我々は,二次標的面へのエジェクタ衝突を高速度カメラで撮影する新しい方法により,脱出速度を上回る高速なエジェクタについて調べることを目的とした衝突実験を行った.実験は,宇宙科学研究所の二段式軽ガス銃を用いて直径3 mmのアルミニウムとアルミナ球弾丸を7 km/sで玄武岩標的へ衝突させた.弾丸の衝突角度は,垂直衝突と斜め衝突(45°)とした.衝突によって放出されるエジェクタが通過する位置に二次標的としてガラス板を設置し,エジェクタの二次標的への飛行時間と飛行距離からエジェクタの速度,エジェクタによってガラス板に形成されたクレーターの直径からπスケーリング則を用いてエジェクタのサイズを算出した.二次標的の配置は実験ごとに変え,異なる放出角度のエジェクタのデータを取得した.
これまで,垂直衝突では100 m/s ~ 7 km/s,斜め衝突では5 ~ 12 km/sのエジェクタのデータが得られ,本研究での二次標的を用いた実験で,従来の方法では測定が困難であった火星衛星への到達速度を上回る高速なエジェクタのサイズの見積もりが可能であることを示した.また,弾丸直径の 1/400(~10 μm) サイズ程度の小さいエジェクタについても解析可能であることを報告した(惑星科学会2020年秋季講演会).その後,45°の斜め衝突で放出されるより速度の速い物質について調べるため,実験条件を変えずに,二次標的の配置を調節し異なる角度に放出されるエジェクタを捉える実験を行った.その結果,弾丸の衝突速度の約2倍の速度を持つ14 km/sのエジェクタの解析に成功した.二次標的の光学顕微鏡および電子顕微鏡画像から数 μ m未満のエジェクタが飛来していることは確認できるが,本実験手法では二次標的を撮影している高速度カメラの解像度の都合上,このような微小なエジェクタについては調べていないため,本研究で得られたデータは比較的大きい破片であると考えられる.また,以前報告した斜め衝突で放出されるエジェクタの非一様に放射状に伸びるレイのような模様は,最近行った実験でもはっきりと見られた.さらに,エジェクタ速度別の破片サイズについて調べた結果,速度に依らず破片サイズ分布は似た形状となり,高速なものほど破片は小さくなる傾向が見られた.

本研究は宇宙科学研究所超高速衝突実験施設の共同利用により行いました.

参考文献
[1] Chappaz, L., et al., 2013. Transfer of impact ejecta material from the surface of Mars to Phobos and Deimos. Astrobiology 13, 963-980.
[2] Melosh, H.J., 1984. Impact Ejection, Spallation, and the Origin of Meteorites. Icarus 59, 234-260.
[3] Shuvalov, V.V., 2002. Displacement of target material due to impact. In: Proc. Lunar Planet. Sci. Conf. 33rd. Abstract 1259.
[4] Hirase, Y., Nakamura, A., Michikami, T., 2004. Ejecta size-velocity relation derived from the distribution of the secondary craters of kilometer-sized craters on Mars. Planet. Space. Sci. 52, 1103-1108.
[5] Nakamura, A., Fujiwara, A., Kadono, T., 1994. Velocity of finer fragments from impact. Planet. Space. Sci. 42, 1043-1052.