17:15 〜 18:30
[PPS06-P20] ダスト整列の解明に向けた広磁場空間内での磁気異方性計測
キーワード:星間ダスト、磁気異方性
星間の磁場方向を推定する方法として、ダストの部分整列による可視・赤外偏光の観測が、広く用いられている。星や惑星の進化には星雲や天体の磁場が強く関与するが、その理論的なシナリオの構築は、上記偏光の観測データに基づいて進められてきた[1]。しかし弱磁性体(即ち反磁性体および常磁性体)であるダストが、微弱な星間磁場で整列する原因は、完全には解明されていない。弱磁性体のダストが星間の低温条件で示す磁性は、物性理論による説明は進んでいるものの、実験による検証は必ずしも進んでいない。従ってダスト整列を解明するには、星間条件で固体粒子に起こり得る力学的な素過程を、実験に基づいて検討し直す必要がある。その一環として私達は、磁場整列を駆動する基本的なパラメータである磁気異方性Δχの測定を、様々な星間物質で進めてきた[2][3]。このような試みにより、先行研究では、これまで理論上は等方的とされてきた非晶質シリカの表面で、顕著なΔχが検出された[4]。
磁気異方性Δχは、ほぼ全ての弱磁性体で検出されることが理論的に予想される。しかし測定の難しさのため、多くの物質で信頼度の高い値が得られていない。標準的な計測法であるトルク法を用いて、小さな試料の異方性を検出する場合、(a)ノイズ信号の影響、(b)Δχ算出のための粒子質量mが測れない、などの問題が発生する。そのため計測には、通常、数ミリ以上の大きさの単結晶が必要になるが、現存する大多数の物質で、このサイズの試料を入手することができない。そのため先行研究では、微小結晶を微小重力(μց)空間に浮遊させ、小型のNd磁石で発生させた均一磁場下で、結晶の磁気的安定軸が磁場に対し調和振動する周期τを計測した[2][3]。これによりmを用いずに異方性が計測でき、(b)の問題を解決する展望が得られた。しかしこの装置では、結晶を回転振動させる均一磁場空間がφ~1cm以下だったため、浮遊する試料がこの空間の外へ離脱し、τ計測の成功率が低かった。
そこで今回の報告では、大きさが10 x 5 x 1 cm のフェライト磁石2枚からなる磁気回路を新たに作製し、均一磁場空間をφ~3㎝に拡大した。その結果、この空間内で試料を、μց持続時間(0.5 s)の最後まで浮遊させ続けることができ、τ計測の成功率が格段に向上した。さらに、先行研究ではτ値を用いて異方性を算出していたが、0.5 sの短いμց持続時間では、数回の周期か観測できず、精度向上が進まなかった。そこで高速度カメラ(ZWO ASI290MC)を新たに導入することで、磁場に対する結晶の振動角度をΔt=0.017sごとに計測し、Δχの精度が向上できた。改良された装置により、常磁性体のクロライト結晶および反磁性体の黒鉛結晶で回転振動を観測し、得られたΔχが文献値と調和的であることを確認した。これにより微小結晶しか入手できない物質から、信頼度の高いΔχを効率的に得る展望が得られた。なお弱磁性体の運動を、磁場が弱いフェライト磁石で誘起した報告は過去にみられない。
先行研究では、液体およびガス中に分散した粒子の磁場整列を観測し、得られた実験データを既存のLangevinモデルを用いて解析した。その結果,整列に要する磁場強度は、分散媒に依らず温度T、mおよびΔχのみに依存することが、確認された。近年の赤外観測の観測から、原始惑星系円盤の近傍では結晶質のシリケートおよび非晶質シリカが混在することが明らかになった。一般に星間空間で形成されるシリケートには、鉄などの常磁性イオンが1%程度固溶しており、これに起因する常磁性磁化率の異方性は、キュリー・ワイス則に従って温度低下と共に減少する。そのため温度がT=100K以下であるダスト円盤外周では、整列磁場の顕著な低下が見込まれる。
この領域におけるΔχによる整列の可能性を検証する目的で、今回開発した装置を用いて、Δχの温度依存性を計測する予定である。一方で、この空間の磁場強度は隕石の残留磁化から推定されるので、結晶質シリケート粒子の磁場整列度を、定量的に評価することが可能性となる。
[1] for example, R. Spitzer Jr., Physical Processes in the Interstellar Medium (1978). [2] C. Uyeda, et. al., A & Ap (2001). [3] C. Uyeda et. al., (2010)J. Phys. Soc. Jpn.32, 164079. [4] Yokoi et al., Planet., Space Sci., 28, 094103. [5] 植田千秋、機能材料 (2019) 39 (9月号)35.
磁気異方性Δχは、ほぼ全ての弱磁性体で検出されることが理論的に予想される。しかし測定の難しさのため、多くの物質で信頼度の高い値が得られていない。標準的な計測法であるトルク法を用いて、小さな試料の異方性を検出する場合、(a)ノイズ信号の影響、(b)Δχ算出のための粒子質量mが測れない、などの問題が発生する。そのため計測には、通常、数ミリ以上の大きさの単結晶が必要になるが、現存する大多数の物質で、このサイズの試料を入手することができない。そのため先行研究では、微小結晶を微小重力(μց)空間に浮遊させ、小型のNd磁石で発生させた均一磁場下で、結晶の磁気的安定軸が磁場に対し調和振動する周期τを計測した[2][3]。これによりmを用いずに異方性が計測でき、(b)の問題を解決する展望が得られた。しかしこの装置では、結晶を回転振動させる均一磁場空間がφ~1cm以下だったため、浮遊する試料がこの空間の外へ離脱し、τ計測の成功率が低かった。
そこで今回の報告では、大きさが10 x 5 x 1 cm のフェライト磁石2枚からなる磁気回路を新たに作製し、均一磁場空間をφ~3㎝に拡大した。その結果、この空間内で試料を、μց持続時間(0.5 s)の最後まで浮遊させ続けることができ、τ計測の成功率が格段に向上した。さらに、先行研究ではτ値を用いて異方性を算出していたが、0.5 sの短いμց持続時間では、数回の周期か観測できず、精度向上が進まなかった。そこで高速度カメラ(ZWO ASI290MC)を新たに導入することで、磁場に対する結晶の振動角度をΔt=0.017sごとに計測し、Δχの精度が向上できた。改良された装置により、常磁性体のクロライト結晶および反磁性体の黒鉛結晶で回転振動を観測し、得られたΔχが文献値と調和的であることを確認した。これにより微小結晶しか入手できない物質から、信頼度の高いΔχを効率的に得る展望が得られた。なお弱磁性体の運動を、磁場が弱いフェライト磁石で誘起した報告は過去にみられない。
先行研究では、液体およびガス中に分散した粒子の磁場整列を観測し、得られた実験データを既存のLangevinモデルを用いて解析した。その結果,整列に要する磁場強度は、分散媒に依らず温度T、mおよびΔχのみに依存することが、確認された。近年の赤外観測の観測から、原始惑星系円盤の近傍では結晶質のシリケートおよび非晶質シリカが混在することが明らかになった。一般に星間空間で形成されるシリケートには、鉄などの常磁性イオンが1%程度固溶しており、これに起因する常磁性磁化率の異方性は、キュリー・ワイス則に従って温度低下と共に減少する。そのため温度がT=100K以下であるダスト円盤外周では、整列磁場の顕著な低下が見込まれる。
この領域におけるΔχによる整列の可能性を検証する目的で、今回開発した装置を用いて、Δχの温度依存性を計測する予定である。一方で、この空間の磁場強度は隕石の残留磁化から推定されるので、結晶質シリケート粒子の磁場整列度を、定量的に評価することが可能性となる。
[1] for example, R. Spitzer Jr., Physical Processes in the Interstellar Medium (1978). [2] C. Uyeda, et. al., A & Ap (2001). [3] C. Uyeda et. al., (2010)J. Phys. Soc. Jpn.32, 164079. [4] Yokoi et al., Planet., Space Sci., 28, 094103. [5] 植田千秋、機能材料 (2019) 39 (9月号)35.