日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2021年6月5日(土) 09:00 〜 10:30 Ch.04 (Zoom会場04)

コンビーナ:松本 恵(東北大学大学院)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、日比谷 由紀(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、座長:日比谷 由紀(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)

09:30 〜 09:45

[PPS07-07] アエンデ隕石Type B CAIの酸素・Al−Mg同位体システマティクス:部分溶融の冷却速度,年代,前駆物質の制約

*川崎 教行1、伊藤 正一2、坂本 直哉1、Steven B. Simon3、山本 大貴4、圦本 尚義1 (1.北海道大学、2.京都大学、3.ニューメキシコ大学、4.宇宙航空研究開発機構)

隕石に含まれるCAI(Ca-Al-rich inclusion)は,太陽系最古の年代を示す岩石であり (Connolly et al., 2012),太陽組成の化学系における難揮発性元素からなる鉱物群から構成されている(Grossman, 1972)。CAIを構成する鉱物の酸素同位体組成は,三酸素同位体図上で,CCAM(carbonaceous chondrite anhydrous mineral)ラインと呼ばれる非質量依存分別線上にプロットされる同位体非平衡分布をもつことが知られている(Clayton et al., 1977; Clayton, 1993)。CVコンドライト中の火成CAIは,その岩石鉱物組織と化学組成分布,および鉱物間・鉱物内における酸素同位体の非平衡分布から,複数回にわたる溶融と結晶化を経て形成したとされる(e.g., MacPherson and Davis, 1993; Yurimoto et al., 1998; Simon et al., 2005; Kawasaki et al., 2018)。本研究では,火成CAIの経験した部分溶融プロセスの,冷却速度,年代,前駆物質を制約するために,複数回溶融を経験したCAIについて,二次イオン質量分析法を用いた酸素・Al-Mg局所同位体分析を行った。

本研究で用いた,Golfballと名付けられたアエンデ隕石のCAI(Simon and Grossman, 2004; Simon et al., 2005; Itoh et al., 2009)は,直径約7 mmの大きさで,典型的なType B CAIと同じバルク化学組成をもつが,ファッサイトに富むマントルとメリライトに富むコア部から成る,通常のType B CAIとは異なる特殊な岩石組織をもつ。マントル部は,半自形のファッサイト(~1 mm)と,Type B1 CAIに見られるような,CAIリムから放射状に配向した短冊状のメリライト(~500 μm)から成る。コア部は主に,塊状のメリライト粒子(~20−50 μm)から成り,その大部分が他形のファッサイト結晶にポイキリティックに囲まれている。また,コアとマントル部を横切る短冊状のメリライトが見られる。CAI全域にわたり,ファッサイトとメリライトに囲まれた自形のスピネルが見られる。メリライトの大部分は,産状にかかわらずÅk3070の化学組成範囲を示す。ただし,コア部の塊状のメリライト結晶の中心部分には,Alに富む(Åk512)粒子が頻繁に見られる。Alに富む粒子の周りは,正累帯構造をもちオーバーグロースしたメリライト結晶(Åk1570)に囲まれている。Alに富むメリライト粒子は,Golfballのバルク化学組成をもつメルトや,そのコア部の化学組成をもつメルトのいずれからも晶出しないものであり(Simon and Grossman, 2004; Beckett et al., 1999),後の部分溶融プロセスを生き残った,溶け残りである(Simon et al., 2005)。

塊状のメリライト結晶の酸素同位体組成は,CCAMライン上で,Δ17O ~ −14‰から−5‰の間に分布していた。Alに富む溶け残りメリライト粒子とそのオーバーグロースの酸素同位体組成は同一で均一な分布を示した。一方,メリライトの酸素同位体組成は,Golfballのコア内で空間的な不均一分布を示し,特に,複数のメリライト結晶を横切った約35 μmの範囲内で,徐々に酸素同位体組成が変化する領域が見られた。これは,溶融時に,メルトの酸素同位体組成が,同スケールにおいて均一化されていなかったことを示し,メルトと周囲のガスとの酸素同位体交換の進行が不十分であったことを意味する。CAI組成メルト中の酸素同位体の自己拡散係数(Yamamoto et al., 2018)とメリライト結晶化温度(Stolper, 1982)を用いて,メルト内の酸素同位体組成不均一を残す時間スケールを見積もると,この溶融イベントの冷却速度は> ~104 K/hの急冷であったと推測される。
Alに富む溶け残りメリライト粒子と,リキダス鉱物であるスピネルのAl-Mg鉱物アイソクロンは,(4.41 ± 0.22) × 10−5の初生26Al/27Al比を示した。さらに,後の部分溶融プロセスでメルトから結晶化したと考えられる,他のメリライトの鉱物アイソクロンが示す初生26Al/27Al比は,(4.41 ± 0.20) × 10−5であった。両者の初生26Al/27Al比は,誤差内で区別できず,Golfball CAIは前駆物質形成後の短期間,おそらく数万年以内に,少なくとも2度の部分溶融過程を経験していたことを示す。また,アイソクロンの示す初生26Mg/24Mgは−0.020 ± 0.047‰であった。この初生26Mg/24Mgは,canonical CAI(Jacobsen et al., 2008; Larsen et al., 2011)と誤差内で一致するが,初生26Al/27Alはそれ(~5.2 × 10−5)よりも有意に低い。これは,他の火成CAIにはほとんど見られない(MacPherson et al., 2012; Kawasaki et al., 2018)特徴であり,Golfballは,canonical CAI(~5.2 × 10−5)を前駆物質とした再溶融で形成したものではないことを示す。一方,Golfballの初生値は,fluffy Type A CAI(Kawasaki et al., 2019)や細粒CAI(Kawasaki et al., 2020)といった凝縮CAIと調和的である。加えて,Golfballのメリライトが示す酸素同位体組成範囲も凝縮CAIのものと一致することから,Golfball前駆物質には凝縮CAIが含まれていたと考えられる。すなわち,凝縮CAIを含む前駆物質の形成後,短期間で複数回溶融イベントが起き,Golfball CAIが形成した。