日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2021年6月5日(土) 09:00 〜 10:30 Ch.04 (Zoom会場04)

コンビーナ:松本 恵(東北大学大学院)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、日比谷 由紀(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、座長:日比谷 由紀(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)

10:00 〜 10:15

[PPS07-09] コンドライトのI-Xe年代と太陽風起源希ガス濃度の関連性

*新井 香春1、角野 浩史1、竹之内 惇志2、橘 省吾1,3 (1.東京大学、2.国立極地研究所、3.宇宙科学研究所)


キーワード:I-Xe年代、太陽風起源希ガス、コンドライト

惑星形成の場である原始惑星系円盤の寿命は天文観測によれば,100-1000万年程度である.この期間に惑星,特に円盤ガスをまとうガス惑星が形成される.原始惑星系円盤の寿命の多様性は,円盤の粘性散逸や光蒸発といったプロセスの効率が惑星系ごとに異なることが原因と考えられる.太陽系の原始惑星系円盤がどの程度の時間で散逸したのかを理解することは,太陽系における惑星形成時間の制約となるが,定量的な制約はおこなわれていない.太陽系最古の物質CAIやその後,200-300万年後まで続いたコンドリュールの形成は円盤ガス存在下で起こったと考えられるが,円盤の最終的な散逸時期は明らかではない[1].

 円盤散逸時期のひとつの指標として,太陽風起源希ガスに富む隕石のI-Xe年代が提案されている[2].太陽から飛来する太陽風起源希ガスは小天体上の物質の表面から100 nm程度の深さまでしか打ち込まれない。しかし角礫岩化したいくつかの隕石は太陽風起源希ガスを高濃度で含んでおり,これは小天体表面に存在していた岩片が太陽風の照射を受けつつ,天体衝突により破砕と混合を繰り返し,角礫岩化した結果と考えられている。しかし太陽風起源希ガスに富む角礫岩質隕石の中でも,希ガスに富む部分と希ガスに乏しい部分が存在し,その理由として前者がよりI-Xe年代が若いことに着目し,I-Xe年代の違いが,円盤ガスが散逸し,太陽風が小天体まで到達するようになった時期に対応するという仮説である.I-Xe年代は衝突年代を示すと考えられ[3],I-Xe年代が若い隕石ほど天体表面に長い期間,存在したことを示唆し,太陽風希ガス濃度との相関が期待される.しかし,この仮説を裏付けるための十分なデータが揃っていないことが問題となっている.そこで本研究は,太陽風起源希ガスに富む角礫岩質隕石Zag隕石(H3-6)をはじめ、Northwest Africa 801(NWA 801)隕石(CR2)、Ochansk隕石(H4)、Nuevo Mercurio隕石(H5)のI-Xe年代および太陽風希ガス量を測定し、[2]の仮説を検証し,太陽系の円盤散逸時期に関する知見を得ることを目的とする.

 各隕石の組織を観察し、明瞭に特徴の異なる部位がある場合にはそれぞれの部位からI-Xe年代測定用に約30mgと、太陽風起源希ガス測定用に約5 mgを取り分けた。I-Xe年代測定用の試料は京都大学の研究用原子炉KURにて中性子を照射したのち、真空ライン中で400℃~1800℃の範囲で段階的に加熱した。各温度で放出された希ガスを抽出・精製したのち、磁場型質量分析計VG3600を用いてXe同位体比を測定し、同時に中性子照射をしたI-Xe年代標準のShallowater隕石(絶対年代45.633±0.004億年[4])との比較からI-Xe年代を求めた。太陽風由来希ガスに関しては、試料を真空中で800℃および1700℃で加熱しガスを抽出したのち、希ガス同位体比を測定した。また、今回は測定で得られた36Arをすべて太陽風起源とみなした。

 Zag隕石には太陽風希ガスに富む部分と乏しい部分があり、太陽風希ガスに富む部分のI-Xe年代(45.49-45.50億年)は太陽風に乏しい部分(45.55-45.58億年)に比べ,若い年代を示すことが報告されている[2]。今回の測定でも、先行研究よりも誤差は大きいものの、太陽風希ガスに富む部分のI-Xe年代(45.51±0.08億年、45.58±0.13億年)は太陽風に乏しい部分のI-Xe年代(45.41±0.10億年、45.51±0.06億年)よりも古い傾向を示した。また、36Arは太陽風に乏しい部分が0.1~0.3×10-8ccSTP/gに対し,太陽風に富む部分は30~40×10-8ccSTP/gであった。またNWA 801隕石についてもI-Xe年代と36Arの量は45.29±0.16億年、24×10-8ccSTP/gと、[2]の仮説と矛盾しない結果が得られた。引き続き上記以外の試料の分析も進めるが、とくにI-Xe年代値の精度を上げるために、抽出されたガス量が少ない場合でも,分析を可能とするため,分析装置内のブランクを下げる必要がある。
 参考文献:[1] I. Pascucci and S. Tachibana (2010) In Protoplanetary Dust (eds. D. Apai and D. S. Lauretta). [2] 馬上 (2010) 東京大学博士論文.[3] J. D. Gilmour and M. J. Filtness (2019) Nature Astronomy 3, 326. [4] J. D. Gilmour et al. (2006) Meteorit. Planet. Sci. 41, 19.