日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG39] Science of slow earthquakes: Toward unified understandings of whole earthquake process

2021年6月6日(日) 09:00 〜 10:30 Ch.21 (Zoom会場21)

コンビーナ:井出 哲(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系)、波多野 恭弘(大阪大学理学研究科)、座長:井出 哲(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

09:15 〜 09:30

[SCG39-20] ハフ変換を用いた深部低周波微動の微細な時空間構造の抽出

*寒河江 皓大1、中原 恒1、西村 太志1、今西 和俊2 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座、2.産業技術総合研究所)


キーワード:深部低周波微動、ハフ変換、マイグレーション、紀伊半島

深部低周波微動の重要な特徴の一つとして, マイグレーションがある. 微動のマイグレーションの特徴は以下の3種類に分類される. (1) スロースリップイベント (SSE) と同期して, プレート走向(strike)方向に約10km/dayで移動するlong-term migration (Obara,2010), (2) long-term migrationとは反対の走向方向に約200 km/dayで移動する Rapid tremor reversal (RTR, Houston et al., 2011), (3) プレート傾斜(dip)方向に約1000 km/dayで移動するTremor streak (Ghosh et al., 2010) である. 微動のマイグレーションを調べる際は, 何らかの投影軸に沿った時間発展を調べる場合 (Obara, 2010; Sagae et al., 2021, GJI) が多いが, 実際には震央分布と発生時刻の情報から3次元的な挙動を調べる必要がある. 天文学の分野では, 観測された画像から天体の移動を検出することを目的して, 3次元ハフ変換を用いた直線検出を行なった先行研究が存在する (Morii, 2019). この手法は空間2次元に時間1次元を加えたもので,従来の空間のみのハフ変換と区別するため,本研究では「時空間ハフ変換」と呼ぶことにする.本研究では, この時空間ハフ変換を少し変更して,深部低周波微動のマイグレーションの微細構造の抽出に利用することにした. なお,地震学でハフ変換を利用した先行研究としては, 3次元ハフ変換 (空間3次元) を用いて断層面形状の決定を行ったUchide and Imanishi (2017,SSJ) がある.

本研究では, 微動の震央分布と発生時刻の3次元空間で直線の検出を行う. x軸, y軸, z軸の正方向をそれぞれ東方向, 北方向, 時間方向にとる. 原点から直線までの距離をρ, 天頂角をθ, 方位角をφ, 回転角をψとすると, (ρ, θ, φ, ψ) の4つのパラメーターを用いて,任意の3次元直線を, ρ=x(-sinφsinψ+cosθcosφcosψ)+y(sinφcosψ+cosθcosφsinψ)-z(sinθcosφ) と書くことができる. 特に, tanθがマイグレーション速度を, (cosψ, sinψ) がxy平面上のマイグレーションの方向ベクトルを表すという特徴がある. なお, 本研究では直線の方向ベクトルを動径方向にとっているのに対し, Morii (2019) では動径方向と直行する方向にとっている点で異なる. (ρ, θ, φ, ψ)のパラメータごとに「ビン」を設定する. イベント点ごとに (θ, φ, ψ) を変化させながらρを計算し, 対応する「ビン」に「投票」を行う. そして, 投票数が最も大きい「ビン」の(ρ, θ, φ, ψ)が微動の時空間分布を最もよく表す直線である. また, ハフ変換では直線が複数ある場合でも, 異なる「ビン」に投票が行われるため, 原理的に2つ以上の直線を分離することができる.そのため,先行研究 (Obara et al., 2012; Maeda et al., 2020 SSJ) で用いられている1つの時間窓で1つのマイグレーションという制約条件を解消できる可能性がある.

データ解析には, 稠密地震計アレイを用いて震源決定を行った紀伊半島下の微動カタログを使用した (Sagae et al., 2021, GJI). このカタログは, エンベロープ相関法で決定されたカタログと比較して, 2.2倍の微動を震源決定していることから, 微動のマイグレーションの詳細を調べるのに適している. 解析期間は2012年7月から2014年7月である. マイグレーションの微細構造を検出するために, 1時間の時間窓ごとで計算を行なった. パラメータの「ビン」は, φとψで10度刻み, θはマイグレーション速度1–40 km/hr の範囲を考え, ρは震源決定の不確かさを考慮して5 km刻みで設定した. 時間窓の中に10イベント以上が含まれる場合にハフ変換を適用し, 最も投票数が大きい直線を検出した. さらに, 投票に使われたイベントを取り除いた後, 再度投票の多い直線を検出することを, 投票されていないイベントが10イベント以下になるまで繰り返した.

解析の結果, マイグレーションの移動方向は走向方向に卓越する場所と, 傾斜方向に卓越する場所とに分かれていることがわかった. 走向方向に卓越する場所では, long-term migrationと反対方向に移動する特徴が見られた. そして, Sagae et al. (2021,GJI) で報告しているRTRやTremor streak の位置は, それぞれマイグレーションが走向方向に卓越する場所と傾斜方向に卓越する場所と類似していることから, RTRやTremor streakは同じ場所で繰り返し起きている可能性が示唆される. 以上のように,本研究では,時空間ハフ変換が深部低周波微動のマイグレーションの微細構造の抽出に有用であることを示した.