日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG39] Science of slow earthquakes: Toward unified understandings of whole earthquake process

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.14

コンビーナ:井出 哲(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系)、波多野 恭弘(大阪大学理学研究科)

17:15 〜 18:30

[SCG39-P14] 関東東海地殻活動観測網アナログ地震計記録の微動解析に向けた自動デジタル化の試み

*松澤 孝紀1、武田 哲也1 (1.国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

キーワード:スロー地震、アナログ地震波形、深部微動

Obara (2002)による深部微動(以下,微動)の発見後,微動をはじめとするスロー地震が多くの研究者によって精力的に研究されてきた.しかしながら,それ以前の微動の活動状況については,ほとんど明らかにされていない.これは,20世紀において微動の存在が知られていなかったため,検出対象とならなかったこと,および過去に遡った解析をするために必要なデジタルの連続波形記録が,当時のストレージの価格・容量等の問題により残されていないことによる.こうした過去の微動活動に迫るためには,記録紙等に保存されているアナログの地震波形記録が重要となる.ただし,こうした記録の波形解析を実施するには記録をデジタル化するデジタイズ作業が必要となる.これついては例えばDigitSeis (Bogiatzis and Ishii, 2016, SRL)のようなツールがフリーで利用可能であるものの,手動での作業が必須であり,微動のように数日におよぶ期間のデータの処理には,相当な労力を要する.このため,できるだけ作業が自動化可能なツールを利用することが望ましい.防災科学技術研究所は,1970年代末から関東東海地殻活動観測網の運用を開始し,地震計の上下動記録については,ペンレコーダーによるアナログの紙記録が残されている.松澤・武田(2020,JpGU)はこの記録を目で見ることで,1980年代の愛知県東部における微動活動履歴を報告した.ただし,活動の詳細を解析するにあたっては,デジタル化された長期の連続波形が必要となるため,我々はアナログ波形記録の自動でデジタル化するツールの開発を試みた.

解析対象となる波形記録では,2時間分の地震波形がペンレコーダーにより記録されている.記録は上下段および左右の4つのブロックに分かれており,上段が前半1時間,下段が後半1時間分となっている.左側は毎分0~35秒台の波形トレースが上から順に並んでおり,右側は30~65秒台の波形トレースが同様に並んでいる.各トレースにおいては,1秒毎にstreak状のティックが上向きに入り,0秒台にはやや長いオフセットが入るようになっている.デジタル化を実施する波形画像については,この記録紙を400dpiグレースケールのPNG(Portable Network Graphics)形式でスキャンしたものを使用した.

データのデジタイズにあたっては,まずPNG形式のデータをPGM(Portable Gray Map)形式に変換し,プログラム上でビットマップデータを扱った.まず上述の4つのブロックの位置を推定し,各ブロックについて横方向に画素値の和をとることで各トレースの中心位置(ベースライン)を推定した.トレース間の縦方向の幅をこれに基づいて計算したのち,ベースラインを中心とした縦幅とし,ブロックの幅を横幅とする帯状の領域を1トレースの解析範囲として設定した.解析領域の縦方向のピクセルについてベースラインからの距離で重み付き平均を計算してこの値を出力波形の振幅とし,各トレースの波形を得た.

この手法の検討として,防災科研Hi-netのデジタル地震計記録を用いて関東東海地殻活動観測網のアナログ記録を模した画像ファイルを作成したのちデジタイズを実施し,元データとの比較を行った.微動の発生が確認されている期間の記録についてのデジタイズを行ったところ,高周波成分の情報は欠落しているものの,波形は概ね一致した.周波数スペクトルを比較したところ,時刻のティックマークに起因する1Hzおよびその整数倍のピークがみられるものの,10Hz以下の帯域ではよく一致した.微動の地震動は数Hzに卓越するため,微動の解析に用いる上では,十分有意な情報が抽出できることが示された.

ただし,本手法は隣のトレースとの幅に比べ振幅が小さいことを仮定しているため,一定以上の振幅の場合には波形を正しく復元できない.実際,活発な微動の振幅はこの幅を超えることがあり,疑似記録の解析においても,デジタイズ後の波形の影響が確認された.こうした場合の取り扱いは今後の課題である.また,微動の震源位置推定においては,エンベロープ波形相関法やMatched Filter法など波形相関に基づいた解析手法が一般的であるため,1秒および1分毎に入るオフセットの影響除去も課題となる.