日本地球惑星科学連合2021年大会

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[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG41] ハードロック掘削科学〜陸上掘削から深海底掘削そしてオマーン〜

2021年6月6日(日) 09:00 〜 10:30 Ch.19 (Zoom会場19)

コンビーナ:高澤 栄一(新潟大学理学部理学科地質科学科プログラム)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、座長:岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、Sayantani Chatterjee(Niigata University, Department of Geology, Faculty of Science)

09:30 〜 09:45

[SCG41-03] オマーン陸上掘削プロジェクトで得られたエピドサイトの弾性波速度に空隙形状が与える影響

*長瀨 薫平1、片山 郁夫1、畠山 航平1、岡崎 啓史2 (1.広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構超先鋭研究開発部門高知コア研究所)


キーワード:エピドサイト、空隙形状、Vp/Vs、アスペクト比

海底地震計を用いた地震波速度構造の推定から,地震波速度の遅い海洋地殻上部には多くの間隙水が存在していると考えられている.特に,中央海嶺や若い海洋地殻においてVp/Vsが異常に低い領域が観測されており(Spudich and Orcutt 1980; Kim et al., 2019),このような低Vp/Vs構造は割れ目だけでは十分に説明することができない.なぜならば,割れ目のようにアスペクト比が小さい空隙は岩石のVp/Vsを増加させることが理論モデルから予想されているからである(e.g. Kuster and Toksoz 1974).一方で,アスペクト比が大きい空隙は岩石のVp/Vsを減少させるため, 海洋地殻においてVp/Vsの低い領域はアスペクト比の大きな空隙で説明することができる可能性がある(Shearer 1988).そこで,本研究はオマーンオフィオライトにみられるエピドサイトという中央海嶺での熱水循環に伴って形成されたと考えられている(e.g. Schiffman et al., 1987) 多孔質な岩石に注目した.エピドサイトとダイアベースを用いて弾性波速度と空隙率を同時測定することで理論モデルから空隙形状を推定し,組織観察結果と比較することで,海洋地殻でみられる低いVp/Vsの要因について考察した.

試料はオマーンオフィオライト陸上掘削計画で採取されたエピドサイトとダイアベースを用いた.弾性波速度と空隙率の同時測定は容器内変形透水試験機(嶋本ほか 2006)を用いて常温下で行い,間隙水圧は1 MPaで一定にして,封圧を3 MPaから200 MPaまで段階的に上げて行った.弾性波速度はパルス透過法で得られた波形を解析し,P波速度とS波速度を求めた.空隙率は,ガスピクノメーターから求めた加圧前の空隙率と試料の圧密によって空隙から押し戻される水量をシリンジポンプで計測することにより算出した.実験後の回収試料については直径6 mmに成形し,高知コア研究所設置のマイクロフォーカスX線CTを用いて三次元での組織観察を行った.

今回の実験では、どちらの試料においても加圧に伴う空隙率の減少と弾性波速度の増加が観察された.そして,実験で得られた弾性波速度からエピドサイトとダイアベースにおけるVp/Vsを解析した.Vp/Vsと封圧の関係は,エピドサイトでは封圧の増加に伴ってVp/Vsが徐々に増加していく傾向だったのに対して,ダイアベースではVp/Vsは減少していく傾向が見られた.回収試料の組織観察からはダイアベースが割れ目のような空隙形状を示すのに対して,エピドサイトは多孔質な空隙形状を示していた.
測定した空隙率と弾性波速度を用いて、有効媒質理論から空隙のアスペクト比を最小二乗法によるフィッティングで推定した.エピドサイトの空隙のアスペクト比は約0.1であり,ダイアベースの0.01に比べて一桁も違いが見られた.実験結果と理論モデルから得たエピドサイトの空隙形状はCT観察から得られた空隙形状と整合的であり,エピドサイトが空隙形状に起因する低いVp/Vsをもった岩石であることが確かめられた.このことから,中央海嶺や若い海洋地殻において低Vp/Vsを示す領域は,エピドサイト中の間隙水の影響によってVp/Vsが低下している可能性が高い.