日本地球惑星科学連合2021年大会

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[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG41] ハードロック掘削科学〜陸上掘削から深海底掘削そしてオマーン〜

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.15

コンビーナ:高澤 栄一(新潟大学理学部理学科地質科学科プログラム)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[SCG41-P01] 海洋リソスフェアと地球表層環境 ~海洋プレート生成史が地球表層環境に与えた影響~

★招待講演

*黒田 潤一郎1、後藤 孝介2、石川 晃3、黒柳 あずみ4 (1.東京大学大気海洋研究所、2.国立研究開発法人産業技術総合研究所、3.東京工業大学理学院地球惑星科学系、4.東北大学総合学術博物館)

キーワード:海洋リソスフェア、温室/氷室地球時代

顕生代の長期的な地球表層環境の変化には、海洋リソスフェアの生産速度の変化による物質供給率の変化が大きく影響してきた。例えば海洋底拡大軸やホットスポットでの火山活動によるCO2脱ガスや、熱水変質に伴う炭酸塩鉱物の沈殿などは、地質学的時間スケールでの炭素循環に影響を与えたとされる。海洋リソスフェアの生成速度の高・低が、数億年規模で繰り返す温室気候時代・氷室気候時代の駆動力の役割を果たしてきたという仮説は、長きにわたって議論されてきた。また、熱水変質に伴う海水からのMg 除去機能は、海水からMgを除去する重要なプロセスを担う。このため、海洋プレート生産速度の変化に伴う熱水変質の総量規模の変化は、海水のMg 濃度を変化させた。それは海洋生物の炭酸塩生物鉱化作用にも影響を与えたとされる。大雑把に分けると、海洋底拡大速度が低かったとされる古生代石炭紀後期~ペルム紀前期や、新生代新第三紀~第四紀には脱ガス率が低く、大気CO2濃度の上昇が抑えられ寒冷な時代となった。また、熱水変質による海水からのMg除去も相対的に低く、結果海水中にMgが残存する時代となった。一方、中生代の白亜紀などは大西洋の拡大などに代表される高い海洋底拡大速度で特徴づけられ、巨大海台形成などプルーム活動も加わって高い脱ガス率の時代となった。白亜紀の中頃は顕生代でも最も温暖な時代であった。熱水変質によるMg除去率も高く、その結果海水中のMg濃度が低下した。海水Mg濃度が低い時代には方解石が晶出しやすく、白亜紀などには方解石の魚卵石が沈殿し、方解石を鉱化する生物が繁茂したCalcite Ocean の時代となっていた。一方Mg濃度の高い時代は高Mg方解石やあられ石といった炭酸塩鉱物が晶出し、アラレ石を鉱化する生物が繁茂するAragonite Ocean の時代となった。この高Mg時代と低Mg時代とでは、海水から晶出する蒸発岩の鉱物種、特に蒸発の最終段階で析出する塩の種類も違っていた。
こういった旧来の海洋底拡大速度と表層環境変動のリンクに関する研究は長らく議論の対象となってきた。最近になって、太平洋プレートに代表される高拡大速度の「ドライ海洋プレート」と低拡大速度の「ウェット海洋プレート」の概念が導入された。この「ドライ海洋プレート」と「ウェット海洋プレート」が、地球史においてそれぞれどのように表層環境に影響を与えてきたかについては、今後の地球科学の大きなテーマになる可能性を秘める。
前者が支配的な時代を白亜紀、後者が支配的な時代を後期石炭紀と更新世~人新世を含む新生代後期と仮定し、「ドライ海洋プレート」と「ウェット海洋プレート」の違いが全球海水量と主要・微量元素組成(Mg, Ca, Sr, Os など)を変動させ、表層環境や炭酸塩生物鉱化作用にも影響を与えたという仮説について、その妥当性と検証可能性を議論する。また、人新世を含む新生代後期の「ウェット海洋プレート」時代において、なお高い拡大速度を持つ太平洋プレートの役割と、太平洋プレートの生産が終焉した後の地球の姿について示唆を与える。