日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG44] 岩石・鉱物・資源

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.23 (Zoom会場23)

コンビーナ:門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)

14:45 〜 15:00

[SCG44-05] 四国北部高縄半島に分布する白亜紀花崗岩類の成因研究

*下岡 和也1、齊藤 哲1、谷 健一郎2、高橋 俊郎3 (1.愛媛大学理工学研究科、2.国立科学博物館地学研究部、3.新潟大学自然科学研究科)


キーワード:白亜紀花崗岩類、成因研究、フレアアップ、高縄半島

≪1.はじめに≫ 
近年、大陸地殻の形成・成長過程を解明するカギとして、火山弧でのマグマ異常発生期の珪長質火成活動が注目されている。このマグマ異常発生期は『フレアアップ』と呼ばれ(Paterson and Ducea, 2015など)、南北アメリカからユーラシア大陸の環太平洋地域をはじめ地球規模で認められている。フレアアップ期の火成活動を引き起こす要因について、近年は珪長質岩類の同位体研究からマントル活動がトリガーとして有力視されるとともに(Attia et al., 2020など)、西南日本白亜紀領家変成帯の地殻岩石研究からも、マントル活動による熱的影響が指摘されている (Takastuka et al., 2018など)。一方で、マントル活動により生じた苦鉄質マグマは地殻の溶融を引き起こす熱源となり、地殻中にバソリス(深成岩体)を形成する。特にフレアアップ期に形成されたと考えられる巨大バソリスは、しばしば大規模カルデラ(火山岩体)を伴う広大な地質帯を形成する(deSilva et al., 2015)。例えば、西南日本に分布する白亜紀火山-深成複合岩体である。
 四国北西部高縄半島は西南日本白亜紀火山-深成複合岩体に属し、特に花崗岩類、苦鉄質岩類、変成岩といった深成岩とその関連岩により構成される。当該地域に最も広く露出する花崗岩類はその産状・鉱物組み合わせ・鉱物量比などの岩石学的特徴の異なる複数の花崗岩体からなる。また、マントル由来の苦鉄質岩、付加体由来の変成岩が分布することから、高縄半島はフレアアップ期のマントル活動から地殻が受けた影響を熱的・化学的に捉えることが出来る最良のフィールドである。しかしながら、当該地域の花崗岩類についての研究は越智(1982)による記載岩石学的研究、Kagami et al. (1985; 1988)による同位体研究、吉倉ほか(2004)やShimooka et al. (2019)による年代学的研究がおこなわれているのみであり、高縄半島におけるフレアアップ期のマグマ過程を解明するための総合的な成因研究はこれまで行われていない。
 そこで本研究では、四国北西部高縄半島に分布する白亜紀花崗岩類を対象に、記載岩石学的研究、年代学的研究、同位体研究を行い、それらを総合的に議論することで花崗岩類の成因を検討した。
≪2.研究手法≫
 本研究では、高縄半島に分布する花崗岩類、苦鉄質岩類、変成岩を対象に記載岩石学的研究として①野外調査に基づく露頭での産状・岩石記載、②薄片観察に基づく鏡下での岩石記載、③全岩化学組成分析に基づく化学組成の検討、④SEM-EDS分析に基づく鉱物化学組成の検討を行った。次に、年代学的研究として、⑤ジルコンU-Pb年代測定に基づくマグマ活動年代の検討、同位体研究として⑥Sr-Nd同位体組成分析に基づく起源物質の検討を行った。
≪3.結果≫
 岩石記載、全岩化学組成分析およびジルコンU-Pb年代測定の結果から、当地域の花崗岩類は12の岩体に区分される。鉱物モード測定および全岩化学組成に基づく花崗岩分類では、岩体によって異なるトーナル岩から花崗岩の組成範囲が示された。ハーカー図上では岩体によって固有の組成範囲をしめし、いくつかの岩体ではそれぞれが異なる組成トレンドを形成する。鉱物化学組成において、汚濁帯を伴う斜長石のAn成分はコアから汚濁帯にかけて上昇し、汚濁帯からリムにかけて減少する傾向を示す。花崗岩類のジルコンU-Pb年代は約99-86Maを示し、誤差の範囲で一致しない約99 Ma、約96-93 Ma、約89 Ma、約86 Maの異なる4つの岩体形成時期を示唆する。当地域の花崗岩類のSr-Nd同位体組成は比較的狭い範囲(εSrI: +35.2 - +50.0、εNdI: -6.3 - -3.3)であり、近傍に産する苦鉄質岩類の同位体組成と類似した値を示し(例えば、Kodama et al., 2019, JMPSなど) 、変成岩のそれとは異なる。
≪4.議論≫
 岩体によって異なる組成トレンドの存在はこれらの花崗岩体が異なるマグマだまりから形成されたことを示唆する。また、露頭で見られる苦鉄質包有岩や鏡下での針状のアパタイト、汚濁帯を伴う斜長石が示すAn成分の傾向は、花崗岩体形成時のマグマ同士の混合・混交を示唆する。ジルコンU-Pb年代の示す4つの岩体形成時期のうち、約86 Maを示す岩体には鏡下において固結後の再加熱を示唆するグラノブラスティック組織が見られる。この岩体に含まれるジルコンが示すU-Pb年代はこの再加熱を受けた時期を示していると考えられる。このことから高縄半島における花崗岩体を形成したマグマ活動は約99-89Maに生じており、現在の露出面積やマグマ混合の産状などを考慮すると約96-93 Maにマグマ活動のピークが存在したことを示唆する。花崗岩類の中で類似したSr-Nd同位体組成は12の花崗岩体の起源物質が類似していることを示唆している。また、高縄半島に分布する花崗岩類と近傍の苦鉄質岩類との同位体組成の類似は花崗岩類の起源物質が苦鉄質岩類であり、それらの部分溶融によって生じたメルトから形成されたことを支持する。
 以上のことから、高縄半島に分布する花崗岩類は後期白亜紀の下部大陸地殻において約99 Ma、約96-93 Ma、約89 Maに苦鉄質下部地殻の部分溶融が生じパルス的に発生したメルトが中部地殻域に貫入・定置・固結することによって形成されたものであると考えられる。同位体組成によれば、花崗岩類形成時に貫入母岩の関与は限定的である。このことから、各花崗岩体の示す化学組成的特徴の違いは、苦鉄質下部地殻の部分溶融度や貫入後の結晶分化の度合いによって生じたものであると考えられる。

(引用文献)
Attia et al. (2020) Geology, 48, 446-451. de Silva et al. (2015) Elements, 11, 113-118. Kagami et al. (1985) Geochem. J., 19, 237-243. Kagami et al. (1988) Geochem. J., 22, 69-79. Kodama et al. (2019) J. Minral. Petrol. Sci., 114, 99-104. Paterson and Ducea (2015) Elements, 11, 91-98. Shimooka et al. (2019) J. Minral. Petrol. Sci., 114, 284-289. Takastuka et al. (2018) Lithos, 308-309, 428-445. 吉倉ほか(2004) 三鉱学会講演要旨集, G4-23.