15:30 〜 15:45
[SCG44-07] 熱水噴出孔における両錐石英の形成:黒鉱試料と水熱実験からの考察
キーワード:海底熱水噴出孔、両錐石英、チムニー、シリカ、黒鉱、海底熱水鉱床
海底熱水噴出孔における鉱物の沈殿は、従来、海水との混合による急冷によって生じると考えられてきたが、そのメカニズムはまだ解明されていない。典型的な塊状硫化物鉱床の一つである黒鉱鉱床は、流紋岩質火山活動に関連して形成され、日本列島の脊梁山地の西側に沿うように分布する。黒鉱の同心円状組織は、海底熱水鉱床のチムニーと同様のものだったと考えられている(Shimazaki and Horikoshi, 1990)。また、チムニー内には硫化物とともに両錐自形石英が存在しており、チムニー内の物理・化学状態を知る鍵を握ると考えられる。本研究では、黒鉱試料の解析とシリカ析出の流通式水熱実験を行い、海底熱水噴出孔における石英粒子の形成・運搬プロセスについて考察した。
秋田県北鹿地域の花岡鉱山(堂屋敷鉱床、松峰鉱床)で採取された、両錐石英粒子を含む2つの黒鉱試料の解析を行った。鉱物組合せは、主に重晶石、方鉛鉱、閃亜鉛鉱、黄銅鉱、黄鉄鉱、石英から成る。石英は自形の両錐形を示し、長軸の長さは70-450マイクロメートル、アスペクト比は3-5であった。両錐石英の内部には黄鉄鉱が含まれている。石英粒子の流体包有物の均質化温度を測定したところ、281-309℃であった。このことは、石英結晶がチムニー内部で300℃以上の熱水環境で生成したことを示唆している。
海底熱水噴出孔を模擬した実験装置を用いて、あらかじめ作成した高シリカ水溶液(300 mg/kg(H2O))を、鉛直上向きに流したシリカ析出実験を行った。反応容器内に長さ25cmのアルミナ内管を取り付け、1 cm間隔でステンレススチール製の網を23枚設置し、付着した析出物を回収した。流体圧は25 MPaに一定で、反応管を流路に沿って350℃から430℃まで加熱することで、アルミナ管内部にシリカ鉱物を析出させた。実験時間は1時間と11時間である。1時間の実験では、アルミナ管入口から9-10 cmの地点でアモルファスシリカ、10-14 cmの地点でクリストバライトが確認された。11時間の実験では、アルミナ管入口から7 cmの地点で球形のアモルファスシリカ、8-10 cmの地点で石英粒子の析出が確認された。また、粒径が5.9-103マイクロメートルの両端が尖った両錐自形石英が確認された。これらのことから、シリカはまず界面エネルギーの小さいアモルファスシリカとして核形成し、シリカ鉱物は下流に行くにしたがって凝集し、より安定なクリストバライトや石英へと相変化したと考えられる(Okamoto et al., 2015)。実験中の管内の流速は0.01 m/sであり、ストークスの式を用いて考察すると、上流では浮遊可能な最大の粒径(およそ14マイクロメートル)よりも小さく、下流に行くにしたがって浮遊可能な最大の粒径に収束していくことが分かった。このことから、両錐石英は、溶液に流されていく過程で浮遊しながら、アモルファスシリカから相変化することで形成したと考えられる。
黒鉱試料に含まれていた両錐石英は実験で生成したものとよく似ており、同様の高温・過飽和な条件において、減圧するチムニー内部で浮遊しながら成長したと考えられる。黒鉱試料の石英粒子は実験のものよりも大きく、同様にストークスの式から考えると、チムニー内の流速は0.04-1.6 m/s であった。これは、現世における海底熱水噴出孔において予想される流速(Nozaki et al. 2016)と調和的であった。
引用文献 Shimazaki,H., Horikoshi, E., 1990. Mining Geology, 40, 313-321. Okamoto, A., Kuwatani, T., et al. 2015. Physical Review E, 92, 042130. Nozaki T., Ishibashi, J.I., Shimada, K., et al. 2016. Scientific Reports, 6, 22163.
秋田県北鹿地域の花岡鉱山(堂屋敷鉱床、松峰鉱床)で採取された、両錐石英粒子を含む2つの黒鉱試料の解析を行った。鉱物組合せは、主に重晶石、方鉛鉱、閃亜鉛鉱、黄銅鉱、黄鉄鉱、石英から成る。石英は自形の両錐形を示し、長軸の長さは70-450マイクロメートル、アスペクト比は3-5であった。両錐石英の内部には黄鉄鉱が含まれている。石英粒子の流体包有物の均質化温度を測定したところ、281-309℃であった。このことは、石英結晶がチムニー内部で300℃以上の熱水環境で生成したことを示唆している。
海底熱水噴出孔を模擬した実験装置を用いて、あらかじめ作成した高シリカ水溶液(300 mg/kg(H2O))を、鉛直上向きに流したシリカ析出実験を行った。反応容器内に長さ25cmのアルミナ内管を取り付け、1 cm間隔でステンレススチール製の網を23枚設置し、付着した析出物を回収した。流体圧は25 MPaに一定で、反応管を流路に沿って350℃から430℃まで加熱することで、アルミナ管内部にシリカ鉱物を析出させた。実験時間は1時間と11時間である。1時間の実験では、アルミナ管入口から9-10 cmの地点でアモルファスシリカ、10-14 cmの地点でクリストバライトが確認された。11時間の実験では、アルミナ管入口から7 cmの地点で球形のアモルファスシリカ、8-10 cmの地点で石英粒子の析出が確認された。また、粒径が5.9-103マイクロメートルの両端が尖った両錐自形石英が確認された。これらのことから、シリカはまず界面エネルギーの小さいアモルファスシリカとして核形成し、シリカ鉱物は下流に行くにしたがって凝集し、より安定なクリストバライトや石英へと相変化したと考えられる(Okamoto et al., 2015)。実験中の管内の流速は0.01 m/sであり、ストークスの式を用いて考察すると、上流では浮遊可能な最大の粒径(およそ14マイクロメートル)よりも小さく、下流に行くにしたがって浮遊可能な最大の粒径に収束していくことが分かった。このことから、両錐石英は、溶液に流されていく過程で浮遊しながら、アモルファスシリカから相変化することで形成したと考えられる。
黒鉱試料に含まれていた両錐石英は実験で生成したものとよく似ており、同様の高温・過飽和な条件において、減圧するチムニー内部で浮遊しながら成長したと考えられる。黒鉱試料の石英粒子は実験のものよりも大きく、同様にストークスの式から考えると、チムニー内の流速は0.04-1.6 m/s であった。これは、現世における海底熱水噴出孔において予想される流速(Nozaki et al. 2016)と調和的であった。
引用文献 Shimazaki,H., Horikoshi, E., 1990. Mining Geology, 40, 313-321. Okamoto, A., Kuwatani, T., et al. 2015. Physical Review E, 92, 042130. Nozaki T., Ishibashi, J.I., Shimada, K., et al. 2016. Scientific Reports, 6, 22163.