日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG44] 岩石・鉱物・資源

2021年6月6日(日) 15:30 〜 17:00 Ch.23 (Zoom会場23)

コンビーナ:門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)

15:45 〜 16:00

[SCG44-08] 新第三紀東北日本弧の火成活動に伴われる銅の移動システム

*左部 翔大2,1、昆 慶明2、渡辺 寧1、越後 拓也1 (1.秋田大学大学院国際資源学研究科、2.産業技術総合研究所地質調査総合センター)


キーワード:銅の移動システム、マグマ混合・混交、東北日本弧

海洋プレートの沈み込みに伴う火山弧であるが斑岩型鉱化作用が欠如する東北日本弧には新第三紀の鉱脈型銅鉱床が多数分布し,しばしば珪長質な貫入岩に隣接して存在することを特徴としている.本研究は,銅鉱床と時間的・空間的に関係することが明らかになっている秋田県荒川地域の珪長質貫入岩及び貫入岩に包有される苦鉄質火成包有岩(MME: mafic magmatic enclave / mafic microgranular enclave)を対象として,マグマ供給系において銅がどのように移動し,鉱床として濃集したかを明らかにすることを目的としている.

銅は半揮発性元素に分類され,メルト-鉱物間ではメルトに,メルト-流体間では流体に分配されることが知られている.全岩化学分析では,メルトの銅含有量を知ることはできず,全岩と分配係数を用いて推定されるメルトの銅含有量を比較することで,マグマ固結時に流体とともに放出された銅量の推定を行った.

荒川地域の珪長質貫入岩は3 か所に分布するストック状の斜長流紋岩及び角閃石流紋デイサイトからなる.珪長質貫入岩中に含まれるMMEは玄武岩質~デイサイト質であり,主に単斜輝石含有角閃石斑れい岩,角閃石デイサイトの2種類に分類される.

玄武岩質MME中の斜長石は全て長柱状でありAn36-89 %,Cu2.8-35.7 ppmである.珪長質貫入岩中には,主に短柱状の斜長石が含まれており,An11-38 %,Cu0.5-5.1 ppmである.また,デイサイト質MMEの斜長石は両者が共存しており,長柱状のものはAn13-57%,Cu8.4-17.9 ppm,短柱状のものはAn4~41 %, Cu0.0-3.8 ppmである.玄武岩質MMEとデイサイト質MME中の長柱状の斜長石はAn値とCu含有量は負の相関を示し,An値 vs. Cu図では,MMEの種類を超えて直線的に連続したプロットとなる.短柱状の斜長石は全体的にAn値とCu量は小さく,長柱状の斜長石とは明瞭な組成的差異を示す.また,全岩のCu含有量は珪長質貫入岩で1 ppm,デイサイト質MMEで2 ppm,玄武岩質MMEで65-106 ppmである.

斜長石-メルト間の分配係数を用いて推定したメルト中の銅濃度は,珪長質貫入岩で約約9-24 ppm,玄武岩質MMEで約120-150 ppmとなる.デイサイト質MME中の長柱状斜長石及び短柱状斜長石を晶出させたメルトはそれぞれ74-138 ppm及び8-36 ppmとなる.したがって,マグマ混合過程における中間的な組成のデイサイト質MMEは,玄武岩質MMEを形成したマグマが分化したマグマと珪長質マグマが混合したことで形成されたことが示唆される.珪長質貫入岩及びデイサイト質MMEを形成したマグマの推定銅含有量と全岩の銅含有量の差分が脱ガス時に流体相に分配され,鉱化流体を形成したことが示唆される.